2023年度の幕開け ベトナムの旧正月

2023年3月23日(木)

1月20日~26日、ベトナムは7日間のテト(旧正月)休暇。例年のごとくテトが終われば何か(変化)が起きる、というジンクスを感じます。

ところが今年はテト直前にビックリ・ニュースが飛び込んできました。フック国家主席が突然の辞任劇。任期途中での辞任はこれまでありませんでしたが、形としてはCOVID-19に関連した汚職事件の責任を取ったとされている。
しかし解任されたとみるのが現地を知る人の共通した考えで、既定のレールに乗せられたとも言えます。この国は共産党一党の絶対権力社会で、国家主席は日本人が思うに国のトップという感覚だろうが、ではなく序列1位は党書記長。いくら国家主席といえども党の方針には逆らえない。また政治局員も党の議決機関である中央委員等も全て解任。一介の国民になりさがってしまうのがオチ。
かつては前ズン首相の配下であったのだが、寝返って首相になったフック氏。国家主席解任の主人公になったが、因縁というか恩讐は我が身にブーメラン。思いも寄らない結末だというのは思い過ごしか。だが何か変わる可能性もある。
問題はチョン書記長が中国寄りとみられていることで、本来この職は2期連続10年が党の決まりであったのを、2021年の党大会でこれを超えて3期目に突入。年齢的にも78歳となっているが風貌と異なり頑固おやじとの印象。しかし巷では清潔感が高く腐敗撲滅には人一倍執念を燃やしていたと評される。
ベトナムはこれまで書記長、国家主席、首相、国会議長の4人に拠る集団指導体制で国家の舵をとってきました。この人たちの全方位外交によってシタタカにベトナムへの投資とか進出、貿易を上手にハンドリングし経済成長を遂げてきたと考えられる。然しながら取り沙汰されているのはチョン書記長への権力集中が起きるのではということです。こうなると経済面での統制や取り締まりが強化されるのではないかとの懸念が持たれているとある。書記長は昨年10月に訪中して習主席と親密に会談しており、この蜜月状態がこのまま続くのか。ある意味似た者同士、両国の関係強化が形としてどう具現化されるか見もの。
フック氏は出身地であるクアンナム省の人にはあまり評価されていなかったと聞いたけれど、しかし精力的にCPTTPに加入とかRSEP推進など、自由主義貿易への考え方が強く出ていました。いまさら成長を止められない。となればこれまでの路線を継続する方向性は高いとみるが、5月とされる後任人事で誰なのかが一つの答になります。またこれまで南北とのバランスを取るという意味で、北部と南部から夫々人材を輩出するという暗黙の了解も崩れそう。先の4人の出身は北部二名と中部二名の構成で、南部から一人も要職に就いていないため、すでに均衡が無くなっているのだが、次の人事構成で一波乱起きるのか。
ではどうしてフック氏が辞任するに至ったか。COVID-19にその一因があります。
責任をとったが、その内容とは保健省では検査キットの汚職問題で50人以上が関与。さらに病院院長、医療従事者が百人程逮捕されたと報じられています。現地からは11月に政府は保健省の組織編成を行ったとあり、これは事実上の解体というのです。表面に出た問題とは製造許認可から販売のライセンスまで一人の局長が行っていたというのだから異常、役所内の闇に驚きを隠せない。これでは蠅がたかって来るのは当たり前。次第に権力が高じてやりたい放題、し放題の悪代官になってしまい、部下までも感覚がマヒして右へ倣え。完全に腐敗が進行。その公序良俗のない低俗さが一網打尽にされた次第で喝采もの。
これをチョン書記長の思惑通りと邪推すれば、汚職撲滅強化策で国民の期待に応えた訳で、不満にガスが抜かれ世直し人気が上るということになってしまうのならば怖い。だが国全体に蔓延っている悪しき習性は簡単に修正が聞かない。
またCOVID-19禍での海外在住国民の飛行機での帰国に際しての手配でも、便宜を図った見返りに多額の金銭の収受があったというので、前駐日大使も逮捕されるとか政府高官はじめ旅行業者など関係者も一蓮托生、芋ずる式に捕まった。だがこれで終わっただけではなく、副首相が二人、大臣三人が辞任に追い込まれたのです。この頂点としてフック氏が党内から政府のトップとしての責任を問われた。となっている。これからも摘発や逮捕は続くものとみられていて、政府内ではグレーな高官の更迭に失脚 一掃劇もある可能性は高いと思われる。こうなると隠されていた権力が一極に集中することに気が付かないのだろうか。
根は極めて深いけれど表に出たのは大規模で相当数が関わったから。だが行政と民間企業、または一般人にまでビジネスや観光での入国者にまで金額の多寡は別として平然と要求している。応じなければ輸出用のコンテナが出せない、書類は机の上にストップしたまま。このような状況は日常茶飯事、業界の常識。
親の姿を見て子は育つ。行政の姿を習い、鏡の如く民間地場企業であっても様々な場面でこうした要求は日々弱者にされているのが実態。商品を納入できないどころか撤去されてしまうほど荒っぽい。私の友人は自ら納品を止めました。
また外資系企業へ多いのが嫌がらせ。日本企業の現法社長は良くないと分かりながらも断れず、要求された賄賂を贈り裁判沙汰などほんの一例、殆ど闇の中。
この所エスカレートが酷すぎて露骨になっている。これは健全な国家の有様でなく善悪の見境や道徳観の欠片もない社会的悪病。一般人までが侵されている。
ある現地の事情をよく知る人は2023年以降にさらに様々な面で、即ち経済、文化、モラルにまで波及すると危惧しています。それでも経済成長を続けているベトナムだから仕方がないと受け流していても何時かは火の粉が降りかかる。
投資認可や手続きがただでさえ遅いのに、進まないことも考えられる。ならばどうなるか。経済の停滞に繋がるし、進出企業にも影響は出るのは必至です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生