ベトナム自動車産業

2023年4月20日(木)

経済成長が続き、国民の所得も急速に増加しているベトナム。
テレビでよく見かけるバイク洪水。何しろ市民の足であり、大都市圏であっても公共交通が発達していないため、どうしてもバイクに頼らざるを得ません。
初めて訪越すれば、バイク一台に家族全員が乗っているとか、前後、はたまた横にも荷物を載せて走っている。農村部では丸々太った豚を出荷するのにも括りつけて運んでいるなど、危なくないのかと思うのだが平然としています。
ローカル電気店を営んでいた時、エアコンの設置とか洗濯機に冷蔵庫などを運ぶのでさえスタッフはバイク。修理やエアコンなどのクリーニングに行く時は、コンプレッサーに脚立などを後ろに乗っている者が抱えて数十分走るここともあったのだが、これが日常の運搬方法なので特に違和感を持っていなかった。

ところがこのところ急速に自動車の販売が加速しているのです。数年前までは自動車は企業か一部の富裕層しか保有できなかった。タクシー運転手は自分のバイクで職場に行き、そこで車に乗るのです。
また引っ越しの荷物運搬でさえトラックではなく、バイクに引っ張られる荷台に家財道具など一切を載せるのだが、専門ではないため養生などせず、荷扱いもまことに荒っぽい。移転先に着いて荷ほどきをすればアチコチ傷や凸凹しているのが普通。これが一般的なので誰も文句を言わないし言えない。理不尽なはなしではあるけれど、まかり通って来たのです。
知人が住むダラットに行った際、妹の彼氏がHCM市から大宇のモーニングという1000CCの車でやってきた。これが10年ほど前の出来事なのだが、見せつける訳ではないが、まあ誇らしいというか、都会暮しとはこんな感じと得意げであったのは笑止千万。
タクシーでさえ韓国製が多く、サスペンションは悪くて乗り心地も良くない。単に安価というだけ。途中でエンジンがストップして、乗り換えたなんてことは結構ありました。扱いは酷くボディーは傷だらけ。客を乗せるというサービス精神はまるでなく洗車もしていないし車内も綺麗では無かった。
急速にレベルが上がったのは、全てトヨタ車にしたビナサンが初めてで、この後から各社日本製に切り替えたのです。それでも幾分マシかなという程度で、会社者のモノは自分の所有ではない、なので、あまり綺麗にしていない。
近年はスマホでいとも簡単にウーバーを呼べるが、この車は自己所有なのでかなり綺麗にしているが落差は激しかった。問題はチリにはあまり詳しくなく、特に夜などは間違えっぱなし。だが予め料金は支払ってあるのでいくら距離が延びようがお構いなし。

・2022年の自動車市場 50万台規模へと成長

先ほどJETROが発表したベトナムの昨年度における国内新車販売台数によると、何と過去最高の50万台に乗ったとあります。この数年は30~40万台であったが、とうとう此処まで来たのかと思います。もちろんセダンだけでは無いけれど、高速道路もかなり建設され、またトールゲートでは現金でなくスマート式で通行できるようになってきた。普及は結構なのだが問題もあり、市内には駐車場設備が極めて少ない。ビルでさえ地下駐車場が無くとめるのに苦労する。HCM市で公園の地下に大駐車場を建設する計画もあったけれど、何故か中止に。市内の殆どの家には駐車場が無い。そもそも間口が精々4mもあればまだ良い方なので、無理矢理この玄関をガレージにしている所もあるが、ボンネットがはみ出している程です。従って空地を駐車場にすれば直ぐに満杯となる。さらにベトナムの物流は全国各地トラックで支えられています。だが市内に入れる時間は決められているし、中には進入できない場所もある。
車の普及は時間の問題と分かっていたけれど、これに付帯するインフラが整備されてこなかったのです。

さてベトナム自動車工業会なるものがあって、此処に加盟する新車の販売台数が前年比33%増、404,635台。非加盟企業を入れると509,141台だったとしています。なぜ増えたのかと言えば、政府の経済回復政策のひとつで国産車の登録税非課税がユーザーの背中を押したとある。だがこれで浮かれてはいられない。景気感が減速、金利上昇などから昨年12月単別の売り上げは前年同月比を30%下回っているのです。この傾向が続くのなら今年の販売台数など全く分からないとあるのです。
ブランド別でみると、日本のトヨタが前年比約35%増、91,115台(ただしレクサス1,469台を除く)。起亜が33,4%増、60,729台、三菱46,3%増、39,861台。マツダ32,1%増、36,052台となっている。
この他、ホンダ、スズキ、いすず、日野という日本車の合計が232,000台とトップ、ほぼ50%のシェアを獲得しているのが特徴。但し、マツダ、起亜やその他一部の外国車は現地のTACCO社がノックダウンしている。
タイプ別では乗用車316,941台(47,35増)、商用車82,714台(1,5%増)、特殊車両4,980台(13,8%減)となっている。かやろ個人ユーザーの登録税免除の駆け込み購入があったのだろうと推測できます。
生産形態から見ると、国産車(ノックダウン含む)が226,487台830,1%増)、輸入車178,148台(37%増)となっていて、輸入車の強さはこれまでと同じ。

・ヴィンファスト

地場製造のヴィンファストはEVにシフト中。12月には4,278台販売したとあり、これから増える可能性があります。
構造は簡単だし世界の潮流もEV化だけれど、複雑なエンジンを造れる技術などない。ところが2月、このEV車に早速リコールを表明。
国内ではまだ充電基地の整備が一部でしか出来ないため、ガソリン車が売れる傾向にあり特に地方はこの傾向が強いのです。
またアメリカへ初輸出した事はこれまでコラムに書いたが、現地での販売は遅れており、早く売りたいという焦りが準備不足となり見切り発車がマイナスにならないかと考えます。ベトナムとして初の快挙と言いたいのだろうが先発の他国メーカーは歴史の重み、経験の深さ、これまでの信頼など積年のブランドの強みと蓄積はあるけれど、ヴィンは殆どが寄せ集めのアッセンブリーであるため、またベトナム製自動車という新規参入車のデータがそろっていない中、期待通りにファンやユーザーを獲得できないものと思えます。
速めにEVにシフトしたのはワケがあると思っているが、それにまして拙速さや計画性の弱さにはやはりというべきか、ベトナム企業、あるいはベトナム人経営者のグローバル思考を感じます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生