ベトナム テトが終わって動き出した経済活動

2023年4月25日(火)

これと言った大きな事件・事故が無くほぼ平穏無事に終わったテト。これから新しい年が始まります。現地から日本語に要約すれば「新年を迎えるあたり、ご家族皆様のご健康を祈念します」。また在住のベトナム人は綺麗な日本語で「新年のご挨拶を申し上げます」などと丁寧なメールがありました。帰国してもなお筆者は、この時期にはいつも二度目の正月を迎えるのです。
前回に少し書いたけれど、ベトナム料理店でベトナムの正月のお餅「バイン・チュン」にありつけたのは望外の喜びでした。日本で食べられると思っていなかったので余剰分を頂き、少々多い目の油で揚げ焼し、仕上げに醬油を一回し。焦げ目とパリッとした食感が旨い。在住時に彼方此方から頂戴したけれども、一人住いの身には多過ぎます。そこで冷蔵庫に保管して、このやり方で何日間か過ごしたのだが香ばしくて大変美味しい。だがこの店は日本人が難なく食べられるようにしてあって、現地とは少々餡が異なるがそれでも懐かしい。

・バインチュンとバインテト

これを作るのには時間が掛るのものだから大切に食べたい。HCM市の家には広い庭がありバナナの木が植えてあった。年末になるとベトナム人スタッフがやって来て、大きなドラム缶の様な鍋にこのバナナの葉で包んだものを入れ、ほぼ半日、薪を入れながら煮ていた。彼らはハノイの人なので作るのは四角い形のバイン・チュン。しかしHCM市の人が作るのは円筒形のバイン・テット。これが伝統的な形です。
このバイン・チュンには民話が伝承されている。年老いた王様(フンブン6世)が22人の王子のうち誰を次の王にするか悩んでいました。そこで王様は一計を画策。全員に世界で一番美味しい料理の作り方を学んで来る様に申し渡した。だが16番目の王子は母親が若くして亡くなり誰にも相談できない孤独の身。ある夜、仙人が夢枕に現れとても素敵な食べ物の作り方を教えてくれたのです。一年ぶりに兄達がそれは見事な料理を持ち帰ってきたので王様は喜んだ。さて次の王選びだが全て美味しくて決められない。王様は16王子のランリュウが作った料理が見当たらないので尋ねた。すると王子はバナナの葉の包みを開き緑色に染まった柔らかな餅を切り、王様にささげたところ世にも稀なる美味。あっという間に平らげた。この四角い餅が大地を表したというバイン・チュン。王子から不思議な話を聞いた王はこの子は仙人から守られている。彼なら民を慈しみ、国も安泰のはず、と王冠を与えたとあります(三省堂新書版・絶版)。
赤いスイカも戴くが縁起物で、赤はお祝いの象徴。このような民話や伝統文化を知って正月に食すると目出度いハレの食べ物の美味しさがより際立つ。

・年初から経済動向をみれば

現地報道では今年1月の貿易黒字は3億ドルに達したとあり、経済状況は前向きな結果になったとしています。また小売とサービスの総売上高は約545兆VNDとなり、テトを迎えるにあたり消費需要が増加したとある。
HSBC調査部門は世界の市場は依然として弱いが、ベトナムの輸出が20%増加したのは予想外であるとしています。しかし今年後半には世界情勢からみるとこのままの状況にはなく、多くの予測不可能な変動要素が考えられるため、ベトナムで操業する国内外企業は自由貿易協定を積極的に利用することに焦点を合わせるのが正解。しかし製品の質、加工から生産、ブランディングに改善が必要とも述べており、国内の産業実態がよく解っている様です。
こうした状況下で産業貿易省は、国内生産と消費を促進し、輸出拡大、マクロ経済の安定化とインフレを抑制するため、9つの解決策を提案しているとある。
問題は、サプライチェーンへの国内企業の参加は限られているのが実情だし、輸出に関してはFDI企業に大きく依存している。従って市場の多様化に地場産業が主流となれるのは程遠いと認識しています。

国内では不動産開発事業が弱体化し、改善される方向にはなく、追い打ちをかけているのが金利高。前回のコラムで1月に社債償還時期を迎えてどうなるかとしたが、報道では多くの企業が履行できないままテトが過ぎてしまいました。購入者はパニックになり、会社は資金繰りに行き詰まり倒産するしかないが、政府はどう対策を講じているか。具体的な支援策はまったく見えて来ません。
国内消費需要は旺盛とみられるけれど、企業は新規受注の見通しは明るくなく、原材料高に拠るコスト増、燃料も高騰し物流費も上昇しているため困難な状況に変わりありません。
こうした中、有名ブランドのシューズを製造している台湾企業が注文減少を理由とし3000人の解雇を実施しました。さらに1~3年勤務者も3000人解雇する予定だと報じられています。こうした靴・履物製造を台湾企業は早くから行ってきたが、咽える暑さに目が痛くなる程の接着剤の臭い、決して作業環境は良くなく僅かな賃金の為、休日もなく黙々と作業している女性工員には忍の一言でしかなかったのです。この一足を日本で売るとすれば彼女の賃金を当時のレートで換算すると2~3か月分にも相当するほど酷いものでした。
こういう人権を無視した状況を鑑みれば、後ほど書いている通り、一部の学者などがFDI企業へ何らかの偏った考え方を持つのは無理からぬことと思えるのだが、真意は定かではありません。
HCM市は昨年末に110,000人の労働者がこうした状況にあったとし、市は金額ベースで20%減少すると見込むが、こうなると今年はさらに暗い見通になると予測できる。一方ではワーカーが不足しており、募集しているが応募が無いとのニュースもあり、業種によって明暗が分かれている様です。

・農水産物輸出 中国向けが絶好調

ベトナムにとって中国は大きな消費市場を持つ大きな貿易相手国。このところ中国への農水産物輸出が増えてきており、今年度は多くの種類の一次産品輸出が大幅に増えると見ています。
海域の少ない中国、食生活が豊かになり如何に魚蛋白源を確保しようかと必死になってきました。その結果、遠洋まで大型船で出かけ根こそぎ採って行く。こうなると海洋資源が急速に減少する原因にもなるが彼らにとって死活問題。
メコン地域で養殖され日米欧などへ主に輸出されてきたバサ(ナマズの一種)。
昨年は2億ドル輸出したが、日本を除いて上記の国は消費が落ち込んで減少。中国への輸出は冷凍食品に対するゼロCOVID-19対策が緩和されて増加。今年は大きな輸出市場になると予測しているが、海老の輸出も好調に推移しており、これらは日本にとっては脅威かも知れない。
またドリアンも1キログラム当たりの買取り価格が、前年同期比で3倍に高騰(約900~1070円)、過去最高の水準になったと報じています。これも公式ルートでの中国への輸出が可能になったことに拠るものだが、需要のほぼ半分しか対応できなかったとある。ただし輸出するためには認定農園でなければならないので、急遽1000hrの追加申請を当局にしたと言い、認定農園の比率も50%に引き上げる。因みに1hr当り20~25トン収穫が出来、実質利益は10億VNDにもなるというから誰もが栽培したくなる。
ドリアンの昨年度輸出4億ドルのうち3億ドルが中国向け。輸送に1日半、鮮度は保たれるし年中収穫が可能なので今後も増加する見込み。他の果実も輸出する計画があるとする。こうなると価格が上昇する恐れが出てきました。
この状況から産業貿易省は中国向け農水産品の市場開拓が促進できる機会とし、また農業農村開発省は輸出業者が輸出プロファイルを完成できるように指導、効果的な輸出を行うとしています。

しかしこれまで締結してきた自由貿易協定各国も、引き続き重要な市場として捉え、市場の多様化を促進、伝統的市場、産業への依存度を減らしてゆく方針とあります。農水産物輸出促進のため市場管理と原産地証明を確実に実施し、食品の安全の確保を行い、さらに密輸、原産地偽装や貿易詐欺を監視。健全な生産と輸出へのビジネス環境を整備すると意気込む。こうして生産と利益確保を保護すると言う。また米輸出も有機栽培米をEU向けに行ったと報道があり、ベトナムの農水産物輸出は大きな転換期を迎えようとしています。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生