トイレ事情

2024年10月18日(金)

あらゆる国を巡ったというさる旅行ジャーナリストは、海外旅行で心配ごとのひとつにトイレ事情があるけれど、その中で日本が最も清潔だ、と書いていた。
なるほど、確かにおっしゃる通り事実に相違ありません
さらにアジアでは未だにトイレットティシューを流してはいけない、こんな国や地域が多いことを知っておくべきとしています。
これは隣国の韓国や中国、またタイ、ベトナム、フィッリピンもそうだとしているけれど、この理由とは汚水配水管が細い、ティシューの品質が悪いなどで詰まるのが主因だとある。ではどうするか。使用済のティシューは便器の脇に置いてある、多くはプラスチック容器に入れると指南しています。
だがベトナムでスーパーを覗けば品質の良いトイレットティシューは結構棚に並んでいて、要はユーザーが金を惜しむかどうかだけのこと。
さらにこの所は、海外から観光客を受け入れている大手ホテルや空港などでは流せるトイレが徐々に増えてきているとも述べていらっしゃる。しかし地方では未だにこのような処理設備・施設がないためで仕方ありません。しかし簡易浄化層は戸別に設置できるしベトナムには日本からメーカーが進出しています。
また高級ホテルであっても、洗面でうがいをしては絶対にいけないとの注意をするけれど、これは水道事情。即ち水の品質が良くないので、万一のことお腹が痛くなることに成り兼ねないということなのでしょう。まだまだ注意しなければいけないことは沢山あるが、それだけ日本は古くから衛生的な国なのです。
現在ヨーロッパのトイレは公共・店舗共に有料が増えている。利用料金は1~0,5ユーロで、小銭を入口に置くとか、最近ではカードのタッチ決済もあるとしています。確かにきれいではあるのも理由だけど、むしろ安全を考えて有料トイレを利用するのが良いとしている。これは犯罪の巣窟になっている可能性もあるためで、あるいはレストランを利用する。だがトイレは別途有料の場合もあるそうで、流石にこれはビックリ。でもベトナムではこれは無かった。
日本であれば公共トイレは無料で各所に設置してある。近年はデザインも良く大変キレイなのは建築家やデザイナーが設計するからなのだが、最近の話題はやり過ぎだが万博で使われる予定の石造りのトイレ。海外ではそうは行かない。
こういうワケなので、海外に行く時はトイレ対策に持って行って良かったものがある。それはお尻ふき用の濡れティッシュ。便座を拭くのにも持ってこい。
筆者も視察などで来越される方には、事前にこのような話をしたこともあるけれどお尻専用ではなく何に付けても便利。地方に行けば砂ほこりが多く観光中に汗をかくので顔を拭くことも出来る、食事をする前にテーブルを綺麗にすることもできて衛生的。現地のスーパーでも購入できます。
さてベトナムの事情に関して少々触れてみます。
HCM市は凡そ100年間フランスの植民地支配であったため、その都市計画に基づいたトイレの水洗化はアジアで最も早かったと云われています。この時の計画人口は僅かに50万人だったため、現在はもちろん間に合う訳など無いけれど、それでも意識の上で衛生観念は優れていたと考えられなくありません。
人口急増は経済成長の副次効果。人が都市に集中した結果、処理が覚束かない。
そこでこれに合わせ、日本のODAでヒューム管の埋設と下水処理場の整備を行ないました。市中心でこの工事が頻繁に続いた時期があったのです。
筆者が7区の新都市PMHから、トゥードゥック区に引っ越した時は直接放流が出来ない。このため建築に着手した時点で浄化槽を設置したがこれは従来のベトナム式。従ってコンクリートや、市販のプラスチック製浄化槽を設置するのでもなく、レンガを積み重ねてモルタルで仕上げたもの。なぜかと言えば一番安いから。しかし実はこれは後に至って大変困ることとなるのです。
ほぼ市中心にある日本食レストランの改築工事を受注しました。この際、問題として後で判明したのがこのレンガ造りの浄化槽。機能を全く果たしていないことが分かったのです。この困った状況とは、長い間使用していたため、何処かに何かが詰まっており、水は勢いよく流れ出ない。レンガ自体が経年劣化でボロボロに崩れており、作り直す以外に方法など無い訳です。

一般住戸でも同じような状況になるのだが、ベトナム人は定期的に点検など行ないません。浄化槽を清掃してくれる業者は居るのだが、何に付けても故障しなければそれまで行動しない。集合住宅の場合はそうではないため安心です。
では地方はどうなのか。これは言うに及ばず、浄化槽がある場合もあるけれど、地方道沿いの小さな食堂などは一応囲いがあってドアもある。しかし下からは風が抜けて来るほど穴はかなり深くて注意、誤って落ちると大変。下を見るとエッ、キレイ!何と豚が人の気配を感じたのかやって来た。喰わせるのです。となればこの豚が食卓に上がっていた?との疑念が。HCM市内の養魚場でもトイレはこの池の上に立っていて、その都度魚が集まってくる仕掛け。合理的というか完全な自然循環型養殖と評価できなくない。従って生粋のHCM市生まれの人など池の養殖魚は不潔だと言って絶対に食べません。

日本のシャワートイレは早くからTOTOが進出し現地でも販売しています。だが購入する層は限られていて一般的ではありません。
多くの家庭のみならずビルやレストラン、アパートでもハンドシャワーを使う。要するに壁に備え付けたプッシュ式スプレーガンの様な代物を手に取って自分で操作し目標に水を発射する仕掛けです。精々5万VND。
年中暖かい気候なので水は冷たく無く全く問題が無い。元来ベトナム人は風呂に入るなど滅多になく、湯を使わず水シャワーが多いのは日常の生活スタイル。
苦になりません。
ビルや水洗式トイレがある家庭ではタンクのレバーを回せば流れてくれるが、日本の様な節水式やトルネード渦巻式など無く、洗い流し式の地場メーカーや中国などの製品。日本からTOTOやLIXIL、朝日衛生陶器が進出していて性能・デザインは良いが割高。ベトナム人は先を見ないコスト優先主義する。
もちろん下水道本管に接続して直接放流できるのが一番いけれど、出来なければ浄化槽を設置することになる。また本管が敷設される以前に建てられた有名レストランなどでも実際にこの状態。だから客が使用中に溢れ出た事態もある。ではどうして早く切り替えないのか。費用と日数がかかり、この間休まなければならないので放置したまま、充分な手入れをしないから起きたのだけの話。この辺りの損得勘定が先に来て、客の気持ちを考えないオーナー、というより国民性として違いが出て来るという訳です。

腰掛便器も多いが未だ雉撃ちスタイルは今も多く、これは現在の日本人は慣れないので結構苦痛。しかもタンクが無いので備え付けてある大きなポリバケツから桶で水を汲んで自分で流さなければならない自己完結型。しかしこうした便器の足許は常に濡れているか、ビショビショ状態。清潔でなく気持ちが悪い。
そこで筆者が内装などを請けた際に提案したのは、トイレに金を掛けろ、です。
誰だって気持ちよく過ごしたいし、日本とのコネクションがある程にこの様な経験とか知識はあり、一旦使えば手放せません。TVで母国の良心への土産にこのシャワートイレを持ち帰る人は多いのがその証拠で、寒い地域こそ余計に有難がたく思われるのです。

ベトナムのトイレは戸建やアパートの場合、バス・トイレ・洗面一体型が多い。
何しろ入浴するという習慣が無いためバスタブなど無く、シャワーのみが殆ど。従って温水設備はありません。此処にも配水管が細いという問題はあります。
日本ならばビジネスホテルや一部の賃貸マンションで使われるFRPユニット型だが狭くて不人気。こういう設計やものつくりは得意だが。
また近年は太陽光利用の温水設備や発電が増えているが、一般家庭へ急速に普及するとはとても思えません。
所得が増えるに伴ってこの様な設備は増えてくる可能性はあるけれど、設備に占める建築コストの割合は低く建物性能・品質度は良いと言えない。
ということは、今後はこの様な日本の先進設備が使われる可能性が新興国ではある訳で、となれば市場性は大きく、ビジネスチャンスなのかもしれません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生