現地経済ニュースに載ったのが、労働者が生き残るためにはより良いスキルが必要とのコメント。遅ればせながらやっと気が付いたの、と思わざるを得ないけれど、発展が続くベトナム企業社会だが、今まで通りテキトーに仕事をこなせば良かったぬるま湯体質だけでは取り残されるとの警鐘を鳴らしていました。
それだけベトナム企業やビジネスをしている人達も変わり始めたのか、と思うけれど、ますますグローバル化が進み、競争が激しくなる中で高度な専門知識や技術、法的知識、企業戦略・戦術など理論武装が出来なくては取り残される時代になった訳です。そうでなくてもベトナムは資格社会ではないので、製品の品質などに関して企業間格差があり過ぎる。これ即ち、人材を育成してこなかったし、正当な評価もしなかった企業、経営者にも責任があると考えます。
こんな記事が出るくらいなので、何とも言えないほど馬鹿らしく思えるけれどベトナム企業が成長した証でもある。とはいえ、どの企業も横並びであったというのではありません。元国営で上場企業の社長、若いけれど海外留学しているので英語が出来て、外国の空気を吸ってきただけに見識が深く良識もある。
さらに経営上の問題には苦労するけれど、これを共有できる役員がいないのも頭痛のたね。何しろ経営とかマーケティングの勉強をしていないのに拘わらず役員になっているのだから先を見通せない。こんな苦節の時代が彼にあった。
どういうことか。世界的にも有名な海外大手企業の製品を造っていたこの企業の社長、何時までもこうした下請けに甘んじる訳にはいかないと考えていた。要するにいつまで経っても発注先から材料を提供され、デザインや納期も指定されていた訳で、量は多いけれど単に製造受託をしていただけのこと。大手と云えどもご多分に漏れない労働集約産業の一角で、薄利でしかなかったのです。
安定しているけれど、このままなら全く付加価値は望めない。と社長は考えていて自社で製品化が課題。これまで苦労しかった営業をしなければいけない。企画とかデザイン、マーケティングまで自社で行わなければならないけれど、かといって現状はそういう能力は役員にもスタッフにもなかったのだが、筆者と話すなかで、小ロット・多品種生産への舵取り、これを考えているという。
だが役員にしても大半は、これで良いのだ、という安定感に浸っていました。要は何もしなくても仕事は入ってくるから楽ちん、という太平ムードが社内に蔓延って満足していたのです。役員クラスでも経営意識が欠如していた。
これでは売り上げは確保できても利益が出ない。企業は永遠ではないから新しい分野にチャレンジし、会社を大きくしたい、給与も改善したい、そう彼は思っていました。当時として珍しいプラス志向を持った人であったと考えます。
他にも殆んど進出した日本企業の部品を製造する企業。金型まで自社で製造するから仕事が速く、これをチェックする体制も日本に留学し、日本企業に勤務経験がある社長が確認するから品質や制度に間違いない。まして素直に人の話を聞く姿勢が好感を持たれ、紹介に次ぐ紹介で顧客に恵まれた。良い製品を造れば好循環。社員の所得が増え離職する者はいない、そして工場の拡張。
この二例であっても語学力、情熱、意欲、素行力と待遇改善。およそベトナム企業としては考えられない経営者像。日本企業も見習う必要があります。
ところが、この11月初旬に掲載されたのが、先にあるタイトルの経済記事。
具体例として挙げたのが、ベトナム国内最大の乳製品会社のリーダー職候補者150人のうち僅か一人しか受け入れられないというから厳しい。端的に言えばビナミルク社を指すのだろうが、この会社の社長はドイツに留学経験のある女性でベトナムでも常に高い評価されている方。であれば、あり得るのです。
記事には此の所トップ企業の座を巡る競争は厳しくなる一方だとしています。
海外との取引が増えれば必然的に企業の体質、組織や財務、営業力などの善し悪しに強弱が判明。役員や管理職にしても若い能力のある、また語学力と海外での経験をしてきた留学組が増えてきている。こういう背景を利用して、今ではベトナム企業は単に国内だけでなく、留学先の国のコネクションを活かして海外事業を展開する所も増えてきている実態があります。これは大いに歓迎すべきであり、今後ベトナム経済をあるいは左右するかもしれません。
ではこれまでに、と言っても、大手企業であっても企業の歴史はかなり新しく、僅か20~30年という所も多く、この中で有力な企業が急速に業容を拡大しており、時代は変わってきているのです。
という事は、記事にあるように有能な人が居ればいい。ワーカーを募集するというものではなく、企業の経営中枢や管理職に有能な人材が今後の明暗を分けると言っても可笑しくないのです。
一般論として筆者の経験からもあるけれど、ベトナム人スタッフは自身の仕事にプライドを持っていた人は多くなかった。能力が備わっていないのに勝手な判断をすることはあっても、企業の理念や行動規範に基づいて行動するなどは少ない。企業の歴史が浅いからこうした理念とか企業風土が無いということもあるが、気に入らなければ直ぐ辞める、給料が例え数百円違っても転職する。
こうした実態には幾つも遭遇した。企業にロイヤリティーがある訳では無く、気概とか矜持を持っているものでもない。では何が得意なのか、特技なのかも言えない。要するに学校、高等教育にしろ、家庭でも教育が充分でなかった。さらに言うなら、過去にあった貧困を分かち合う社会主義というスローガン、これは単なるやせ我慢という元凶だが、こうした個人や競争経済を否定するのでは国家が発展するなどあり得ないと思われる。
また記事にあるのはベトナムの雇用市場は厳しいけれど、ベトナム企業の給与があまりにも低い事実に衝撃を受けたと書いてありました。
あるオーストラリア企業を例に挙げて、其処に働くのはフィリッピン人だが、なんと現地人の5分の1とある。企業はなぜフィリッピンを選んだのかだが、英語が上手で勤勉、またオーストラリア社会に溶け込むことが簡単に出来るからだという。これは重要な示唆で日本人も傾聴するべき話です。フィリッピン人の学卒者が香港などでベビーシッターをしているけれど、これは先にあるような語学力と国民性からではないかと思えます。
反対にアメリカのベト僑。彼のベトナム支店が統合してスタッフを大幅に削減したとあります。様々な要因があるけれど給与額が小さいというだけの問題ではなく仕事への姿勢とか効率を考えると仕方がない、こういう海外投資企業に拠る大量解雇の傾向は拡がっているというのです。
いわば同郷ともいえるけれど、アメリカで生まれ育ったのなら既にアメリカ人であり、企業経営とか組織体制はアメリカ的ビジネス思考に拠ると考えていい。
合理的、効率的に事業を進めるはず。ところが現地社員の多くは、そこにある種の甘えがあり、これまでの体質をそのまま受け継いでいる。であれば大きな考え方の齟齬が出て来て当然。すなわち錯覚しているほかありません。
ベトナムは安価で豊富な労働力という戦略的優位性を誇って来たけれど、だがこの様な状況を考えると、先の優位性が何時まで続くのか疑問。
そこでベトナム人の英語力をみると、低くは無いけれど非英語圏で113ヵ国中58位。世界平均を若干上回っているが改善の余地が大きいとしています。
日本はベトナム以下の英語力だと聞くが、他山の石にすべきか。
ベトナムは経済成長が続き、外国企業の直接投資も盛んという状況。然しこの記事には労働者が、単なる一般労働者の罠を避けるためには、より高度な専門スキルを身に付けることが必要だとしています。学ぶべきことは沢山ある。
より高い給与を要求するのであれば、充分なスキルセットを持たなければならないし、ないとすれば簡単に交代させられる。変化するビジネス社会では最も脆弱になるとしている。
常にこれからの変化に備え、学ぶ姿勢が必要、しかし変化する市場に慣れすぎると好ましくない結果にもなる可能性もあるので注意とある。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生