4月4日にトランプ大統領が発表した新たな関税率、思っていた以上に高かったと日本は驚いた。そして大幅な株式全面安。これ等は世界のどの国でも共通したことで、これから先に起きる事態は何なのか予想できないけれど、GDPに与える影響は大きく殆どの国で引き下げることになると思われています。
ベトナムでは当初、甘く見ていた節があって、これは先に筆者がそうではなく、ベトナムは輸出赤字が大きく超過しているし、為替操作国として疑われているので注意すべきと書きました。こんなことは以前から解かっている事実であり、外貨積み立額が増加したと喜んでばかりいられない状況に気付くべきでした。
しかし46%もの大幅な相互関税を課すとなったのは予想を遥に超えたもので、誰もが一様に極めて大きな衝撃を受けており、各紙では早速政府、業界や企業など各方面から様々な声を拾っていて記事にしています。
通産省は余りの相互関税率の高さに対して、アメリカ政府の計画は科学的根拠を超えており不公平だとコメントしています。
この関税は、ベトナムがアメリカから輸入する製品に対して90%もの関税を課していることに対する相互的なものとしているが、同省の対外市場開発局のLinh局長は、この主張に異議を唱え、実際の最恵国待遇関税率は僅か9,4%であると指摘、反論しているのです。
ベトナムとアメリカは二国間での自由貿易協定を締結していないが、ベトナムの積極的なアプローチを強調、アメリカ企業にとって重要な製品を含む16のカテゴリーの製品に対する最恵国待遇の引き下げを語ったとある。例えば特定の木材製品の関税は20%から0%へと引き下げられていると抗弁している。
ベトナムはアメリカの消費者へ手ごろな価格の商品を提供しており、ディエン大臣は早速アメリカ政府宛てに関税の一時的停止を要求する外交文書を送り、両国の貿易当事者間で解決策を模索するために二国間協議が間もなく開催される予定であるとしています。これを何処までアメリカ側が受け入れるのか不明であるけれど、そう易々とはアメリカが納得する訳がありません。何しろ貿易赤字額が絶対的指標なので下がる筈などなく流石に無理があると思える。
ベトナムにとってこの交渉が?前向きな結果を生まないとあれば、輸出成長目標である12%、4500億ドルの達成はおろかマイナスとなる公算が強い。
さらに局長は次の手を打って国内の輸出業者に対し、これまで締結した17のFTAを活用し、市場の多様性を重視するべきだとアドバイス。新しく交渉を行っているラテンアメリカ、中央アジアなどの市場を開拓。この新市場を活用するよう促したと報じられています。
・ベトナム GDPへ打撃
経済アナリストに拠れば、新たな関税がGDPに及ぼす計算をするなら1~1,5%のマイナスになると予想。すなわちベトナムはアメリカへ輸出の大部分を占める国のひとつであるが、アメリカ側によるとその赤字額は1230億ドル以上であると指摘しているため、GDPは大きく減少するであろうとしている。これは金額にすれば50億ドルで、平均家庭の収入が196ドル減少することになるのです。
またオランダの金融機関INGは、ベトナムのGDPは5,5%減少し、タイを抜いてアジアで最も影響を受ける国となる可能性があるとし、厳しい見通しを示した。これによって通貨VNDは対ドルで最低を記録、為替レートの圧力は持続されることも示唆しています。
高関税はベトナムにとってアメリカへ輸出だけでなく、間接的にもグローバルチェーンへ混乱と経済成長に大きく影響をもたらす。COVID-19を契機として中国からベトナムへ製造拠点がシフトしてきた経緯があり、ベトナムもこれに歓迎し、事実アメリカの大手有名企業もこの数年で工場建設をしてきました。
アメリカへの過度な依存体質と、膨大な黒字を続けて来た事がベトナムを不利にしている訳で、輸出と市場の多様化はさらに実施していく必要がある。確かにアメリカは巨大な市場であり、国民は大の消費好き。HCM経済法科大学のHai准教授は、もはやアメリカに焦点を当てる時代でなくなった。輸出市場の拡大は不可欠で今回の関税は自己改革の機会だと述べ、輸出多様化へ当局、業界団体、企業間での努力が必要だとするが、政府は少なくてもFTAを積極的に締結してきた。例えばヨーロッパ市場、2024年度ベトナムは3番目に大きな貿易国・地域となり2020年にFTAが発行して以来、同圏への輸出は年率換算で12~15%増加し、この年は2000億ドルを超えています。
さらにこれまでの経緯をみて来た筆者には、国際間で事業を行うために企業は経営力を強化し、品質管理の徹底とこれを実行するために従業員の教育育成が絶対的重要課題。これは国が最も先に考えるべきだがお座なりだったのです。
余りにも高等教育は貧弱だし研究開発力は弱い。何時までも海外企業へ依存し過ぎた結果であり、これは真面目に自主努力を前提にせず、外国と外資企業の支援による成長に甘えて来た結果でしかありません。国内事情をよく研究し、真っ当な見解を論じた経済学者を蔑ろにして来たことも、こうした事態を招く要因のひとつで、安易さに流れたと考えるのです。
アメリカへの対応は、専門家は対立よりも交渉を提唱しています。アメリカの決定を覆すだけの圧力を持たなければ何にもならない。有効性を維持しながら調和のとれた利益とリスクで国益を守る事だともしている。政府は対策を練るためのチームを発足させ、関税について話し合うため訪米するとしています。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生