アメリカのベトナム貿易事務所に駐在する貿易顧問兼責任者であるHUNG氏は、米国通商代表部(USTR)の招待を受けてベトナムの交渉団がアメリカに向けて出発したと語ったと現地大手有力メディア・トイチェ紙が報じた。
これまでの動きは前回の通りだが、HUNG氏はUSTRがベトナムとの二国間会談の提案を真剣に受け止め、双方が交渉を開始することに合意したとした。
また代表団と貿易事務所が協力して、相互関税に関する最初の議論を行ない、会談の見通しについてはアメリカ側も善意と真剣さの兆候を示しているとし、4月23日にディエン大臣とUSTRのグリア氏とが最初の電話会談を開始したことを公表したのです。
USTRはウエブサイトで初交渉のプレスリリースを公表したが、彼は生産的であったと述べたとしている。これに対してベトナム側の反応は、アメリカがベトナムを重要なパートナーであるとした。これに拠りベトナムは関税を協議する優先国の一つとして繋がったとHUNG氏は語り、如何にも上手く意気そうであると言わんばかりだが、電話会談の相手は日本とはかなり違うようだし、いささか誇張した感じの表現にも受け取れる。国内か商工省に向けたアピールなのか、電話だけで判断するべきではない繊細で重要な案件なのだが、いとも簡単に片が付きそうに謳っているのは国内向のアピールで、如何にも手柄話にでもしたいからなのか。しかし一体どれだけの貿易黒字をベトナムが頂戴しているか、思い上がりも甚だしい。
かつては状況が悪くなりそうであればVNDを直ぐに切り下げて来た。これはアメリカが見逃すわけがなく、為替管理国と認定しているけれど、こういう状況を認識しての発言なのかは疑わしい?
また多くの中国企業がベトナムに進出をしているのが今の状況。これは習近平が前回訪越してから顕著になったと見えるが、この状況に対してベトナム政府は原産地証明を厳しく管理するとの強い姿勢を見せている。果たしてすり抜けられる可能性も無くはく、また問題とされ睨みを利かせているのが迂回輸出。だがこれもアメリカが厳しく対処すると明言しているため、流石に中国へ遠慮せず、神経を尖らせなければ命脈を絶たれるので慎重にならざるを得ません。
しかし、ラム書記長と習近平主席との会談で最も重要だと考えられるのがあります。これはベトナムでの鉄道と物流への関与であるが、今回の訪問では次はマレーシア。実はベトナムを経由して中国は東南アジアへの物流網を築こうと画策している節もある。すでに陸路ではベトナムからカンボジアやマレーシアへと物資が運ばれているという実態があるとさえ云われる。
今回の習近平の訪問とは、これを加速することにあったなどという説だって実しやかに聞くのだが、まんざら遠からじと思えなくありません。
・アメリカからのポジティブなシグナル?
HUNG氏は多くのアメリカ企業がベトナムへの指示を表明し、両国が高関税を撤廃するための合意に達することが出来ると確信しているという。
確かにアメリカの企業団が続けて訪越をしている。また9月にも商工省が主催するベトナム国際ソーシングエキスポ2025への参加を一部の企業が検討している。だがこれだけで鬼の首が取れたと決めつけるのは根拠に乏しい。
またウォルマート、コストコ、ホームデポなどの巨大消費財小売企業は、現在の関税政策がアメリカの消費者の心理を物価が高騰するなどと悪化させ、価格を押し上げようとしているとする懸念を指摘したという。要はトランプ関税が貿易と経済の不確実性ゆえに多大な影響を及ぼし、後数週間で店の棚から商品が消えると予測など、余計なおせっかいを報じています。
HUNG氏はベトナム貿易事務所として提言を披露。ベトナム政府が相互関税に関連する問題を解決するため外交努力と貿易交渉を強化し、貿易に拠る利益を確保するための明確なロードマップを推奨。また産業、投資、エネルギー、AIなど主要分野で二国間関係の長期的な成長を確保するため、アメリカとの戦略的協力を強化する重要性を強調したが言うのは簡単。だがどれだけのモノや財がベトナムに在り、アメリカが欲しているのかだが、答は自から出ている。
さらに彼は自由貿易協定・FTA、特に次世代のFTAを通じて輸出市場を多様化することが不可欠としたが、これは早くから政府が特に力を入れ成果が上がりつつある状況にあります。また内需に関して消費を促進すべきというが、常識の範囲で、経済が豊になったというけれど、多くの市民がそこまで可処分所得を持っているのかと言えばそうではないのが現実。だが自国企業に対して裾野企業への投資、先進技術の採用は良いとして、設備へのアップグレード、イノベーションを育成してコストを削減、製品の質を上げて競争力を上げる。ビジネス規制の簡素化、インフラ改善は政府がするべきだとしているのです。
・ベトナム企業はアメリカの関税に関して積極的な対応を
多くの経済専門家はアメリカが引き続きベトナムが重要な市場であり、未開拓の可能性を秘めている国だと考えている、としました。
そこで業界のリーダーたちは90日間の猶予期間の間に世界市場の状況を確認して生産を再構築する重要な期間であると見なしたとしている。しかし重要という意味は消費市場としては有望とみていいが、生産を再構築するというのは、そうではなく製品を造って輸出するという訳。また未開拓というのはこれまで中国が担っていたモノであり、中国への関税が高ければベトナム地場企業に代替で転がり込んでくるとでも言いたいのだろうが、それは無理ではなかろうか。
さらに作る以外にも、現地での販売ルートをどのように確保できるというのか、これについては言及しておらず、見通しは甘いとしか言いようがありません。
何故なら木材協会は2024年度のアメリカ向け輸出は88億ドルで総輸出量の50%以上を占めている。しかし実に70%以上を進出外資系企業が占めていると協会が言っている。これは何もこの分野だけでなく工業製品の多くでみられることです。よもやベトナムが持つ輸出構造の問題点があるのを忘れたのか。
・ベトナムは経済成長を促進するためより多くの自由貿易協定を求める
現時点でベトナムは17もの協定に署名しており、これを有効的に活用しながらアメリカの高関税に備えているが、この国は輸出依存型経済であり、更なる新しい自由貿易協定を加速しようとしていると現地報が伝えています。
チン首相は今回のトランプ関税に関して、貿易省に対してインド、ブラジル、パキスタン、エジプト、また中東、アフリカ、ラテンアメリカ、東ヨーロッパの諸国における市場を開拓するため、FTAの締結に向けて交渉を開始する様に促す指令を出したとあります。
これはもはや形振り構わない世界全部の国や地域が対象であり、この国が最大の輸出市場であり最大の貿易黒字を出しているアメリカ依存から、また進出済の外国企業による製造が70%にも及ぶという、これまで指摘されてきた問題を正面から向き合って経済成長をすると言う意味を指します。
さらに金融に付いても中央銀行に対し、外国為替市場と金市場、銀行システムの安全性を維持しつつ、成長のための資金を十分確保する様に指示したとあります。また自国製品の消費を促進するため電子商取引やDXの整備、遠隔地への配送に優遇措置を講じるようにも指示しています。
しかしこれまで多額の投資や支援に拠ってのみ経済成長を果たしてきたと云う事実には変わりなく、こうした海外依存型経済成長モデルに方向転換することは大きな掛けであり、既存路線を損なうことを意味するのです。
では代わりに投資するのは、資金を何処から調達するとか、自国での研究開発は殆どできないという問題、もの造りについてはこれまで盛んに政府が考えていた裾野産業が完成出来ていないので、精密部品はいま以って作れない、工作機械を造れないという現実。これをどうするか答えは出ていません。
即ちこれまで外資系企業の投資に甘んじて来た結果、自国で何が出来るのか?という重要な事項に関して、ボロが出てだけの話に過ぎず、やっと自国の現状というのに政府上層部が気付いたのかと思わざる得ない訳です。
しかしこれらは日本にあってもある意味でチャンス到来であるかも知れない。自動車や他の工業製品に関しても、須らくアメリカの勝手な都合でありモノ作りに対して怠惰から海外に依存してきただけで、言わば各国で棲み分けて分業して来たのです。
こうして国民を高給取りの大量消費天国にしたのは歴代大統領の責任なのだが、そのツケを関税で取り戻すなど責任転嫁もいい所、笑止千万です。
一方でGAFAと呼ばれるサービス企業に巨額の使用料を払っているのが世界各国なのに、こういう利にはわざと言及しないのは汚過ぎる。
かつて日本は世界一の半導体産業を誇っていたが、アメリカの嫌がらせでその地位をはく奪された歴史がある。こうした属国扱いを徹底的に無くし、それとともに新しい産業構造を構築する必要があること。誰もが考えるが、この機会に政府や産業界は共通認識として確認し、実施の方向へ移行をすべきであると思えるが、あるいは何時までもアメリカの言うなりになるのか分岐点でもあるわけです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生