現地経済紙が発した記事だが、そこにはベトナムの民間企業は珍しい構造をしているとあり、これは大企業と中堅企業は僅かに3%を占めるだけとしている。
この様な記事が出た背景は、6月に「国家成長期の繁栄するベトナムのためのレバレジット・エコノミーの発展」というセミナーがあった。これはベトナム作家協会が主催したけれど、そこに基調講演として元内務副大臣と大学の准教授が招待され、ベトナムの現在の経済と企業に関する講話をしたからです。
話の内容だが、副大臣だったフック氏は民間経済発展(SA)に関する政治局の決議は重要であると先制パンチ。現在ベトナムには940,000の民間企業と500万を超える事業者がいて、GDPの50%、国家収入の30%以上もの貢献と多くの雇用を創出している。ところがSAの開発は社会において発展の可能性と資源に見合っておらず、多くの課題に直面している、と開催の挨拶をした中で、国家の指導が良かったから民間企業が発展したと語っています。
彼は2017年の決議10から2025年の決議68までの10年間でSAは大きく発展したのは国と政府の方針のお陰であると評価し大絶賛したのです。
またマイ准教授は民間企業の発展に関して、この国ではゼロ出発であったが、長年に渡って国家の経済発展に貢献してきた一つの経済部門だと述べています。
しかしスタートから全くの知識不足を露呈。日本は99,7%が中小企業であり、韓国は実に99,9%が中小企業であることを知らず、基本的に間違っている。
何が珍しいかという説明は一切無く全く、意図が分からず出鼻から疑義だらけ。
他の専門家も、民間企業がGDPに大きく寄与しているにも拘わらず、依然として発展には大きな障壁があり、小規模および零細企業が多数あるとし、成長するには法的整備と多くの成長条件を作り出す必要があるとの指摘をしている。
間違いないけれど、国が法整備をしようが、あの手この手で支援したところで側面支援。それだけで企業が成長発展するもので無く、大事なのは如何に自助努力するかなのだが、これが専門家の見解なら根本的に間違っている。大学の指導教官のレベルがこんな低いものでしかないのであれば学生が可哀そう。
ベトナムは社会主義国であり、企業とは国有企業であって長い間この国の経済を主導してきました。先ずこれを前提条件として理解しなければ、日本人からすると企業観が全く異なり、この記事の内容は理解しがたいのではと思えます。
経済発展が続くベトナム。民間企業が大きく成長しており、自由主義経済社会の企業と表向き状況は変わらないが、実務を始めると齟齬を感じることになる。
特に旧態の企業観である計画経済的発想が抜けきらない人物も未だ多いのです。
実際に国営企業の多くは赤字体質から抜け出せず、合併・改革を行っているのだが、勤務する総人員は変わらず、成果が出ていないという別誌の記事がある。
だが反面、一般には知られていないけれど、日本の大手企業が軍需産業を担う国有企業へ部品の生産を委託。ここは優良工場であり製造能力は民間企業より上との評価があり、国営、民間を問わず企業間での格差には著しいものがある。
今回のコラムでは、ベトナムの新興大企業と経営者に関しても纏めているが、民間企業の販売額や利益は国有企業を上回る規模に成長しているのが実態。様々な面で国有企業との差異は拡大する一方で、さらに開くと考えられます。
マイ氏は民間企業が成長モデルをダイナミックに創造性の方向に変革し、技術革新に投資を行い、質の高い人材を訓練し、高付加価値製品とサービスを創出。国内市場に進出し、海外でも投資プロジェクトを徐々に実施していると述べた。考え方は正しいけれど些か過大評価でしかなく、世界の実態とかけ離れており、具体的にはVinグループ、FPT、TH社を典型的な企業を挙げています。
だがこれ等の企業を一色単にするのは異論があり、もはや話の中身はヨイショでしかなく、進出日系企業の担当者が聞けばアホらしくて涙が出て来る程で、ベトナム企業の状況のほんの一部を切りとっただけ。先進国の企業を全く理解できていなく、比較においてさえこれが大学の研究者とは誠に馬鹿げている。
しかもSAは、化学、技術、革新に基づく経済モデルへの移行を促進するための重要な推進力となる可能性を未だに促進していないとしている。だが基礎的な経営能力に高度な技術でさえ持たず、必ずしも盤石でない企業が圧倒的多数。何処に可能性があるのか分らず、これを明確にするのが先だと考えるのです。
この国が長く成長出来ず、経済成長は海外企業の投資と企業進出によるものであるのは明白な事実。地場産業が発展進化しなかったのは製鉄が出来なかったことに大きな原因があるし、先進工業国を目指したが成し得なかった要因とは、超精密部品製造を出来る企業がなかった。要は裾野産業を育成出来ず、物作りの伝統、高度な技を持つ職人が居なかった。工作機械を製造できず、プラント装置を造れる技術も無いのが根本的な理由。海外に依存すれば余計駄目になる。
化学工業が存せず、高度なファインケミカルを製造できない。石油は採れるがプラントは作れない、精製工場は日本の出光などに依存しているのが実態です。
民間企業の構造は合理的ではなく、中小企業の大多数は時代遅れの技術、管理レベル、財務能力、労働生産性、効率と競争力は低いと指摘するのは正しい。
しかし注目すべきことは、新規に設立された企業と市場から撤退する企業数の差は殆ど変わらないと述べているが、この事実に相違ない。だがこの原因とはいとも容易に起業する向こう見ずが多いからで、その多くは規模が小さく充分な資金や経験、能力に技術などがあって初めて満を持して開業するのではない。したがって短期間で店を閉じなければならない破目に陥ったに過ぎません。
ベトナムには日本の様な独自で開発できる特別な技術を持つ優秀な中小企業が存在する訳では無いので、この准教授は自国企業の現場や実態を知らないのか、または錯誤なのか、過大に評価している部分がかなりあるのではと思えます。
だが中小メーカーでも先進の外国製機械を導入している所もある。其処などは社長が海外留学を経験しているので自国と海外の事情にも精通しており、海外のクライアントが何を求めているのかもよく理解している。そこで多額の資金を借り入れ高価な機械を購入した。こうなると生産効率が上がりロス率も極端に低下。何よりも社員の雰囲気も変わったのです。こういう高等教育を受けても海外へ留学、目先のことよりも先を見る眼が養われた人が居るのも事実です。
従って最も新しい企業は若くて優秀な人が事業を創出。海外へも進出、現地で仕事を獲得、支店を設けて現地スタッフも採用している位で今後に期待したい。
FPT にリッケンもこれに漏れず日本で事業を拡大を続けている。
また民間企業と国有企業、FDI企業との繋がりは形成をみないとしているが、企業体は夫々に独立、格差もあるので殊さら横の繋がりなどさほど重要でなく、独自でR&Dを行い、戦略やマーケティングを講じればいいだけの話です。
資本主義国における企業間での競争という概念を全くお持ちではないのでは、と考えるが、もしかすると業界に於ける協会の活動や交流を指すのかもしれないけれど、お友達になる必要もなく、共有すべき筋合いもなく全く別の次元。過去のことなのに、まさか未だに貧困を分かち合う精神を忘れられないのか。
次に問題点としているのは、企業が信用資本へのアクセスに困難があるという。
2024年のVCCIの調査では、中小企業の70%以上が依然として銀行との取引に於いてかなりの困難があるとしているのです。
これは多くの銀行が安全な貸し付けを優先しているからで、企業は工場用地などの不動産購入など通常貸付ではなく個人ローンを組むことを余儀なくされているという。
だがこれは表面上の事で、借り入れを起したいとするなら担当者へのお礼とか、または設定された金利以上を要求される場合が往々にしてある。これは行内のセルフチェック機能や国の金融監督行政機関の指導が甘く、銀行や担当者任せになっているとも思えるが、外資系企業に対しても平気で持ち掛けてきます。
銀行のシステムも融資制度、信用保証等々はまだ開発途上でしかありません。
不備としているのが国家、企業、研究者の繋がりがバラバラで、WHOに拠るとベトナムの研究開発に投資する企業の割合はGDP比でたったの0,44%と笑わせてくれます。その上にアイデアに乏しく適切なプラットフォームや人的資源が無いため全く進化がないといたくお怒りになっている。
これ等に加え民間企業の多くは管理能力に欠けているとか、長期的戦略を持っていない。また近年のDXや国際統合の機会を充分に活用できていないと見てきたように苦言を呈しているけれど、これらは理解、納得できます。
ベトナムの民間企業が真に国家のけん引役となるためには、政府が民間企業のための法的枠組みを設ける必要があると提言。現行の企業法や投資法を時代の変化に応じて新しい法律を策定して改正。法的地位、資源保護、機会への平等なアクセスを明確にする必要があるとしているが、特段目新しくはない課題。
法の未整備なども外国政府からも常に指摘され、政府に提言してきた事項です。
さらに市場と信用の改革。信用保証制度の開発も民間企業発展に重要事項だしハイテク農業、グリーン経済等の産業に特化したベンチャー育成とキャピタルファンドも必要。投資家と新興企業の間で迅速で透明性のある民間資本取引所の形成が発展に必要だと訴え、従業員のトレーニングと技術移転、行政改革に税制上の優遇措置と権利保護を行い、国家ブランディングプロジェクトを通じて国際化とバリューチェーンへの参加など、問題指摘と改善へ提案しているが、如何に遅れているかを暴露。ベトナム民間企業の問題点と今後の発展の方策を提言されているのだが、根本的な部分が欠如していると言わざるを得ません。
・ラム書記長の民間企業に寄せる期待感 だが真意は測り兼ねる
ラム氏が書記長に就任。新指導部が発足して1年が経過。この間に省の再編成と地方行政の再編成を行い企業と役所の腐敗をも糾弾してきた。これは自身の権力基盤を強固にする策のひとつであるが、これには自身の公安省出身の立場をフルに利用した訳で、元首相ズン氏と同じことを実行した。また経済重視を重要政策に挙げており、トランプとの関税に関し早期妥結したのは実に賢明な判断で、この先の経済発展をつつがなきものにするためだろうと考えられます。
また南北新幹線の着工について民間企業が工事等に参入できることを掲げているし、中止になった原子力発電所の計画も前と同じ計画地で再起動させるなど、立て続けに積極姿勢に転じている。しかし地場企業の能力が追い付いているかと言えば決してそうではないけれど、5月に決議68号を公布して民間企業が発展の原動力としたので本気度は間違いなく伺える。これは民間企業の重要性を確認、2030年までに200万社にすること、この成長率を年10~12%に置き、さらに国際供給網を整備してこれに大手企業20社を育成する計画。成功すれば45年には高所得国となる。だが前書記長の親中路線を引き継ぐか、経済成長を真に希求し、国民の豊かさを優先するのか分らないが、来年一月に開催が予定される党大会までに書記長としての実績を重ねたことをアピール、権力盤石を強固にする考えもあると思えます。だが国家観と政治哲学についてどう考えているのか良く判らず、民間企業がどのように成長するのか見もの。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生