日本では大豆から造った人口肉が出回り始めました。だが禅宗の寺院では普茶料理だし、高野山の宿坊で泊った際に出されるのも精進料理。何れも獣肉や魚を使わず、野菜など使って味に形もそっくりに仕上げてあるのは驚きです。
偽物ではなく殺生をしてはならないとの宗教上からくるものだけど、誰も文句を言う人はおらず、まさに芸術作品を楽しみにわざわざ食べに来るほど。
さらにカニカマなどベトナムでも随分前から売られているけれど、石川県の会社が発明したもの。今では様々なカニ類にまで及び、ホタテなどもまるで本物の様な味や香り、食感が楽しめるのは芸が細かい日本の職人のお家芸です。
これは原料が明記されており製品には問題ないけれど、以前コラムにしたが、ベトナムでは段ボールを加工して豚肉の加工品に似せたとか、大豆を深煎りしてコーヒーの偽物を作って逮捕された人物がいる程で、市場にはなにかと偽物が横行しているのです。
現地ニュースが報じる所、偽物では無いけれどチーズから造られたという貝の一種が初めて登場したとあります。
ベトナムでもチーズは食されるし、ピザも普及していました。知り合いのベトナム人から頼まれて採用した社員がいた、彼女は元日本の大手製薬会社勤務で英語も出来て性格も良かった。就職祝いに連れて行ったのがレタントン通りに在った洋風の店、イカリが店頭に飾っていたマリン〇〇かと記憶しているが、こうした店に当時のベトナム人は敷居が高くてなかなか食事に行けない。喜んでくれたけれどチーズを食べることができませんでした。前回に生乳に付いてもベトナムでは本物の牛乳が飲めないと書いたけれど、食の洋風化が進んでも一般庶民には本物の牛乳に乳製品が浸透していなかったのです。
2004年からベトナムで生産されているスモークチーズ。今では多くの人に親しまれているようだが、このSOLSEスモークチーズがこの国初とか。
最初の製品が生まれた時、この会社は何とロシアの食文化に詳しい人に試食を依頼したという。この理由は当時、食味と感触はロシアが標準であったため、誰もがロシア産のチーズだと思ったとあります。そしてまた牛乳からこの様な歯応えがある加工食品が造られるのかと驚いたという。
時が経って2020年、ある製品を愛好する消費者がこのチーズを使って独自の方法で料理をコーディネートして楽しんでいるという情報を、興味を持った市場担当者が知る所となります。それまでそのまま食べていたようだが、彼女は様々な料理に使ったことを確認したという。これは特段珍しい事ではないと思うのだが、長い間ここまでアイデアが及ばないし、食生活が変化ことに加え、企業に市場調査や商品企画などマーケティング力がなかっただけの話です。
そこで会社の製造担当者は、チーズや発酵乳からすべての年代、栄養に関心のある人に近づくため、新しい製品を開発しようと考えたとある。その結果だが、2025年までにムール貝の一種を造ったとあります。だが残念ながら筆者はこの製品を見た事が無い。記事に写真でも掲載してくれればいいのだが、これも無かったのでどのようなものか見当が付きません。
真の目標はベトナム大手の小売企業やAEONなどのスーパーマーケットやモールへ製品を店頭に並べる所にあるわけで、時間が掛かった割には誇張しているのかなという印象も免れません。
・ベトナムのナッツ 捨てていた殻から資源へと
日本でもサトウキビの廃棄物からバイオ燃料として火力発電への利用が進み、これをフリッピン政府が着目して導入したいという状況で、何れの国や企業、農家でも農作物の使わない部分の処理に困っている。
特に日本は消費者が形に拘るので何ら問題が無いにしてもB級品の扱いになり、そうなると加工に回されるとか廃棄されるだけです。
ベトナムはカカオの栽培が特にメコンデルタを中心に盛んになっています。
これは此処10数年の動きで、在住時にメコンツアーに来越者を案内して時は、まだ実験中だったけれど、その後は海外の大手企業が進出して転作が増えたためカカオ生産量が増え始めました。中には日本向けにカカオの木のオーナーとかを募集して現地視察ツアーも行なっている所もある。またチョコレート生産も増え、当方でも一時造った事もあるけれど、年々品質が良くなっています。
カカオは生産に手間が掛るのですが、それ以上に問題はサヤの部分の重量が60%も占めているということ。平均の収量は1Hrあたり年間5,4~約8トンも作られるのだが、栽培する地域の一部では燃料にする他、川に捨てているというのです。しかし米も籾殻を運河に捨ててヘドロが発生するなど問題になっているけれど、このカカオの残滓も事前に分解するのに8カ月かかるとあります。
しかし大量に放棄すれば完全に分解されず、さらに次に同じことをすれば川の機能が無くなり環境汚染となるのです。こうした状況を栽培農家は理解していません。また副産物を利用すれば何かできるけれど考えないまま、有効に処理をする解決策を持たない間放置していた。これは現在緊急の課題になりつつあるけれど、また副産物として利用できる策を見出すことができれば、循環型の農業経済として社会全体に影響をもたらして好循環が繰り返せるのです。
ベトナム産ココアはトリ二タリオ種というもので、独特の香りがあって世界で最高品種の一つとされ、トップ10に入っている美味しい種だとあります。
そこでベトナムのカカオ加工企業のひとつであるTrongDucカカオ社はカカオの残滓からバイオ炭を作っているという。毎年栽培農家から直接に仕入れを行っているけれど、加工するとなれば5000トンもの廃棄物が発生するとある。
そこで同社は残滓を細かくして乾燥、770度でガス化するのだが、そうするとバイオ炭が生成され、土壌改良、水分保持、養分となって農作物の収穫量が10~40%も増えるという成果が得られた。さらに炭素を閉じ込める力があり、エネルギーの節約とCO2排気量が30%削減できるという訳で、もはや現在の錬金術なのです。
またこれらの残滓には天然のポリフェノール、カフェインなどが含まれるので抗酸化作用が認められサプリメントに利用されているが、心臓に良いとされるほか減量効果が期待できるとある。であればもはや宝の山に違いありません。
すでにアメリカや日本、ヨーロッパでは飲料として開発され、コーヒーなどの代替品になるとされているとも報じている。
また動物の飼料にも使われている。カカオの残滓には11~20%の蛋白質、7~12%の脂肪が含まれ、そのほか繊維質とミネラルも豊富に含まれており、牛、豚、ヤギなどの家畜に飼料としてキャッサバ、トウモロコシなどと混ぜて使っている他、アフリカなども含めたカカオベルト地帯では安いサプリメントとして利用されている様です。
これまで農家は何も考えず、燃やすとか川に捨てていたけれど、大量に製品を作る企業がこの様に廃棄物を副産物として利用を推進する考えを示し実施している。またこのほかにも世界的な農産物の生産国としてコーヒー、米糠・籾殻、胡椒にキャッサバなど、多くの農業廃棄物を如何に副産物として利用するのか、そしてベトナムが目指しているとする、グリーン経済、脱炭素化、エネルギー負担の軽減を単なる企業だけでなく、政府や省、行政、大学などの研究機関が先頭に立って廃棄物の有効利用促進をリードしてゆく姿勢が極めて重要であると考えるが、直ぐに成果が出ない地道な自助努力には弱いのが欠点。
また栽培農家には使えなくなった残滓をゴミとして処理するのではなく、実は有効利用できる宝の山であることを啓蒙する必要がある。何よりも金になると訴求すれば経験上大切に扱うのは間違いありません。
HCM市には農林大学があり、バイオ研究施設もあって視察に何回か行ったけれど充分機能していないのが現実。環境への課題とか問題解決に取り組むには最も適している筈。
・水産廃棄物を10億ドルの資源に変える
HCM市には多くの水産物加工企業があり、各国向けに製造しています。日本にはメコン地域から集めた原料を元にして、海老フライに白身魚のフライ物など各企業の指示書通り手作業で作っていてマイナス40度で冷凍しています。
こうした企業から出る廃棄物は毎日60トンあるが、福禄会社は年間4~5000トンを処理して魚粉を生産している。何とこの金額900億VNDに及ぶというのです。
またTuHai社は魚の骨を洗浄して乾燥、これを日本に1キログラム当たり10ドルで販売している。
さらにベトナムはカニやエビの宝庫、カン詰めにして輸出している企業がある。
カニやエビを加工するには殻を剥かなければならないが、これを処分するのは大変、硬くて放置すれば悪臭の元にもなります。そこで、現地に永く在住している日本人の会社だが、すでに20年以上も前からこの殻をHCM市の工場に運び込んで綺麗にして日本に輸出している。殻からはキトサンが取れるので日本の大手企業はこれを化粧品や健康食品にしている訳です。
南部になる水産研究所でも医療用とか農業の原料用にキトサンの粉末を製造しているが、1キログラムの価格は最大で1000ドルだという。
また貝殻の処分は日本でも牡蛎に帆立の処分に困っているが、粉末にして道路工事の原料にするとか、牡蛎は昔からボレー粉として粉末にされ、胡粉にしたり、農業用にしたりして使われてきた歴史があります。
ベトナムではこれに加えて、カタツムリの貝殻を土産用に美術置物に加工して収益を上げてリサイクルしているという。
ベトナムは水産資源国で、これを加工食品にして輸出している国。予測によれば今後数年間でさらに膨大な水産廃棄物が出てくる可能性があります。これらを資源として、例えばエビの頭だけで497万トン、パンガシウスの皮や胃で10万トン、脂肪分が15万トン加工に回されると推定している。
これらは医薬品、化粧品などにされるが、2030年までにはこれらだけで、100億ドルにもなると試算。新たな雇用が生まれ、計座愛が循環して社会に貢献できるとしている。
水産物研究所のホイ博士は、資源に変えるなら産業として見直すべきであり、税制、グリーン政策として政府がインフラを整備し、企業、科学者などとつながりを持ち、新たなレベルに引き上げる必要があるとしています。
こうした廃棄物からは魚粉や医薬・化粧・健康食品以外に、真トレンドとしてペプチドや生化学的酵素の抽出、生体原料に分解性のある包装材料の研究が進められているとあるから宝の山に違いありません。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生