以前にベトナムは原子力発電の復活を考え、かつて候補地であったニントアン省でこの計画を推進する動きがあるとコラムにしています。
2030年までに最初の原子力発電所を稼働させ、これを持続的に利用することを目標にして原子力の安全をセキュリティーを構築する措置を講じるという。
1987年にはIAEAに加盟しており、2025年2月には首相が決定令を出しています。国会では6月に議員442人中、441人が賛成し改正原子力法を可決している。この改正法では放射線、原子力、セキュリティーの安全を強調し、国際的な約束と義務を果たすとし、国際協力を行うとしたのです。
然し専門家は具体的、包括的な行程が策定されていないとし、またフランスの原子力発電所建設で野地盤工学の専門家は、厳しい安全基準が求められるが、原子力の文化の構築に併せて国民の意識を高めるのが重要としている。
この発電所建設にはベトナムの課題のひとつとして、この地域での台風による自然災害と、潜在的な地震活動が発生し易いと、シンガポール南洋工科大学の古賀教授が指摘し、リスク管理を示す必要があるとしているという。この地理的状況に付いてベトナム原子力研究所の所長タィン氏も意見を共有、これまで発生した原子力発電所の事故から、質の高い人材育成、厳格な原子力規制に対するシステム構築、安全性評価に関する検査監督業務の重要性を示している。
またベトナム原子力専門家ネットワークのヒエップ氏は、こうした原子力の安全性とセキュリティーはトップダウンの指示でなく、真の理解ある規律と実践から始まるとしたが、政策が先にありきで進められている状況にあることを、示唆していると考えるのです。
だがベトナムに原子力人材が居ないという訳ではありません。2000年初頭に筆者の記憶では女子学生が原子力を専攻するため留学していたし、1976年にはダラットに原子力研究所を設立しており、これは筆者の友人宅の近くにあって湖に隣接した人家から離れた場所に「原子力研究所」と書いてあったが、勝林に囲まれたが金網だけの無防備な状況であったのです。
現在はハノイ、HCM市、ダナンで9研究機関があるとされます。
2025年現在、ハノイにあるという科学技術省傘下ベトナム原子力研究所・VINATOMは、教授1名、准教授15名、院生350名、さらに医師81名という合計763名が在籍という布陣。そのほかに専門職員が在籍しているとしており、此処ではダラット研究施設での原子炉、ハノイの電子ビーム加速器などの重要な施設を管理しているので、一旦白紙撤回されたのちにも再開の準備を重ねて来ていたという次第なのです。
またベトナム電力・EVNでは原子力部門に約400人の専門家がいるというのですが、これはニントアン第一原子力発電所と第二発電所での人材の育成としています。だが高度なスキルを持つ人材需要を満たすには合計で4000人が必要とされているので、これから5年間で可能なのか。自国の高等教育機関では必要な原子力物理学、発電所における安全運転のための技術内容は不足していると言われています。高度人材は促成栽培できる訳では無くどうするのか明確でありませんから、ベトナムが24時間体制で安全に管理できる技術者を継続的に訓練する必要がある海外の大学の研究者から指摘されている。
・首相は建設を早めるよう促す
チン首相は2016年にいったん中止されたニントアン原子力発電所の再開を加速する様に関係する部局に指示をしたとあります。
これまでベトナムが火力発電、太陽光に風力発電所の建設を行なって来たけれど、エネルギー政策の転換を示すもので、この合計4000MWを超えるという二カ所の原子力発電所建設は2024年に党中央委員会と2025年に国会で承認されているので、国家電力開発計画9の調整により、2030年の12月31日、遅くとも12月31日までと設定したとあります。
時期を設定するのは良いし、人材育成は淡々と準備を行ってきたけれど、発電所を建設する企業は何処なのか、またどの形式の原子炉を採用するのかに関してはこれまでの記事では全く記載はありません。さらに地場企業の能力では、建設、特に地盤安定工事にはむるがあるのではと考えざるを得ません。
投資主体はベトナム電力とペトロベトナムの2社が指定されたが、これは国家が優先するインフラ開発であり、政府は本年度の基金を利用する県替えと報じられるが、追加資金も検討されているとされます。
建設を促進するため省に対して、地元民の生計、ビジネス、生産を安定させるため、用地での撤去と再定住を促進するとともに、空港を軍事と民間の共用で機能できるようにし、プロジェクトと地域経済発展を支援する様に命じている。
この地域はベトナムでも最も経済の遅れた地域であり、海岸に建設される計画だが、日本の多くの発電所がそうであるように何かしらの金銭が動く可能性があります。しかしこの国は社会主義国で、国家が優先する最先端の発電所計画を地元民が反対できる立場にはなく従わざるを得ないのです。この辺りの事情を忘れてはなりません。
政府は国際原子力機関との関連問題、実現可能性の評価、地元などとのコミュニケーション作業を強化し、運営委員会を定期的に開催する事などを調整し、行程の進捗状況を監視して課題があれば迅速に対処する様に要請している。
・書記長が国家戦略としての原子力発電を支持すると発言
最近報じられたニュースでラム書記長は、原子力エネルギー開発は社会経済の発展と国防、安全保障の確保に置いて重要な長期戦略酷評として定義されなければならないと述べているが、これは初めてであると感じる。
ここにきて急速に原子力発電、南北新幹線と、矢継ぎ早に国家プロジェクトを強行するが、新幹線に在っては地場企業が行うとまでするのは国威発揚なのか。
あるいは国家運営への自信からなのか、何れにしても拙速すぎるのです。
しかし技術的要因やノウハウに経験の無さもあるけれど、投資主体に関して、地場企業に求めているが、果たして足りるのであろうか疑問でしかありません。
この国が先進工業国に成るためには電力が必要であったが、工業団地を各地で造成したけれど電力は慢性的に不足し、一般家庭でも計画停電は頻繁にありました。そこで多くの事業主体は自社で発電機を設置して計画停電、突然の停電に備えていたが、電力需要が増す中でもこうした状況はなくなっていきました。
クリーンエネルギーの切り札として復活してきたのがこの原子力活電所建設の再燃だったわけです。では不足するとみられる技術力、ノウハウ、資金、人材と経験をどの様に埋めるのか手腕を見せてもらいたい。
書記長は談話の中で、原子力エネルギー問題に付いて国際原子力機関が定めたガイドブックを厳格に遵守しながら、人々、環境、社会の絶対的な安全を確保しなければならないとし、状況が変化する中ではベトナムが原子力開発を支援するための政策とメカニズムを洗練する様に呼びかけたという。
さらに国際保証安全基準を満たして、中核的な化学能力を強化して持続可能な原子力開発を確保するために、原子力技術と安全性に関する国家プログラムを提案したとあります。また放射線、原子力の安全性に付いて、ベトナム放射線・原子力安全庁の能力と調整を強化する様に求めた。
VINATOMは科学技術研究、技術支援、アクシデントが起きた場合の対応、科学データの供給、応用研究、質の高い人材の育成を主要部門であるとしての役割を果たし続けなければならないと話した。これは実際には命令になる。
書記長が主要な国家プロジェクトの安全かつ効果的な実施に重点を置き、国家が研究及び試験的インフラへの投資を増やすことを提唱している。もはや試験的ではないけれど、戦略的取り組みはベトナムの技術能力の向上に重点を置くと同時に、同国で近年発見されたレアア^ス、原子力産業、デジタル変革を推進するプロジェクトを支援するべきとしている。さらに安全なデータ管理の重要性を強調、国民に信頼を強化するため透明性のある開示モデルが確立されなければならないとするわけです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生