ヴィンファスト社 EV車生産を倍増する計画

2025年2月26日(水)

トランプ氏がアメリカ大統領に還り咲いた暁には石油産業を保護すると豪語。となればガソリン車がまた隆盛すると思えなくありません。しかし脇に構えるイーロン・マスク氏、此の所度を過ぎた言動でヨーロッパ首脳の怒りを買っているけれど、彼の立場からするとトランプ氏の政策と衝突しないのか。などと思ってしまうけれど、所詮は大金の為すところだが、ふたを開ければ何時まで蜜月状態が続くのか分らない。金の切れ目が縁の切れ目となるのか大富豪同士。
それより世界の動きがどうなって行くのか。本当の所は誰が見ても怖い位に全く未知数で何が起きるか分らない、起きても不思議がない狂気予報。我国に齎すのは不幸かそれとも僥倖か。米中対立構造が明確化すると中国は内需が悪い中、輸出に注力する。となればターゲットはベトナム、アジアが主流になる筈。
そんなところにベトナム・ヴィンファスト社がEV車の生産能力を今年2倍以上に引き上げると発表。怖いもの知らずの、まさに青葉マーク企業の無茶ぶり。
これまでのベトナム国内とかインドネシアにまで新工場を建設するとかだが、ベトナムに上陸した中国製低価格EV車に対抗する安価なEV車を市場に投入するため、こうした戦略を打ち出したという訳です。
元々は海外からデザイナーや技術者をベトナムに呼んで、これまでのガソリン車を各国から部品を集めて組み立てて来たのだが、急に方向転換をして全車種EV車に切り替えました。新興で十分な経験や製造設備などが無かったため、こうした離れ業を仕掛けたが創業者の鶴の一声、誰も疑わず付いて行くだけ。
彼は資金不足なのを承知しているので、グループの不動産企業から資金融通と、身銭を切って資金を出した経緯がある。それでも足りないのでアメリカで上場するなど形振り構わず金集め。これを先ずアジアで急増する需要拡大に掛ける構え。国内では補助金の所為もあって普及し始めているが、報道に拠れば実は官庁でもトヨタ車に絶対的人気があるとか。またアメリカでも販売し、EUに攻勢をかけるためショウルームを開設するなど努力しているが、赤字の積み増しだけで利益がサッパリ出ない。EVだけにショートか。これは問題だがベトナム企業は売り上げ至上主義的であり、財務経理にめっぽう弱く、利益は念頭に無いことが結構あります。従ってこのヴィン社のグループも小売企業がまさにそのト~リ。やたら地方にまで店舗を広げたけれど、狭くて商品が揃わないとか、よく使われるドミナント戦略でコストの最適化など全くできないままに、
友人の企業に売ってしまったことがある。するとこの会社では不採算店の閉鎖や催事などで業績が向上。不動産で儲けたけれど、また理想は高かったのだが、所詮は不動産事業が時の運、上昇気流に運よく乗っただけで、地道な戦略とか経験があった訳では無い小売業ではボロを出したと思えなくありません。
ヴィン社はこの7月にハティン省で新工場を稼働させるとあります。2024年はハイフォンとハティン省の工場で約30万台、今年インド工場の5万台とインドネシア工場5万台を加えると約70万台、28年度はアメリカ工場15万台を入れると90万台にもなる生産能力を持つ強行姿勢。100万台を目標にするとしているが、世界の趨勢を解かっているのか。
このハティン工場の建設地、ヴィンホームスが開発し、共同で設立した中国の車載電池メーカーの工場もあり、さらに港に近く輸出には好立地とある。
創業者にとって、ベトナム初の国産車?という位置付けは、同社のビジネスであるけれど、これはベトナムにとってもの造りの究極と捉え、国産EV車製造の重要性を強調してきた。政府もこれに応じて税制面での優遇措置とか、行政もバスのEV化、タクシーもEV車に切り替えるなど協力してきたのです。

ところが、全面切り替えという企業戦略。これに暗雲が見え隠れしてきました。
世界のEV車需要に陰りが出始めつつあるという。報道にあったけれどテスラが年間販売で初めてマイナスに転じたし、新興企業のアメリカ・フォスカー、スエーデンの電池メーカーも経営破綻。中国でも危なくなったEV企業、廃車した大量のEV車の墓場。これ等は中々報道されないが事実なのです。
其処に来て中国の巨人BYDの値下げ。するとアジアで販売台数を伸ばす事になったが、ではこういう状況下、ヴィン社が敢えて競いあって勝算はあるのか。
テスラも販売計画の見直しに着手、安値競争となれば大企業に対抗するだけの資力や販売力が何処に在るのか。国内では政府の優遇政策で甘やかされたが、そうはいかない。どこまで拡大路線が耐えられるのか、試練に見舞われます。
先行するメーカーに技術的に太刀打ちできるのか、航続距離も100キロ近く短いなど到底競争の土俵に上がれません。
企業として問題にしなければならないのが収益力。これまで造るだけ赤字が増えた万年赤字の企業体質。昨年度は20兆VND(1250億円)相当の赤字というが資金繰りは並大抵でなく、高金利社債の発行で調達した自転車操業。
そのうえアジア各国市場へEV車進出と拡大なれば、必要な充電設備をどうするのか。これに関して進出先のひとつインドネシアで10万基、約12万ドルの投資を決めたとあるが、打ち出の小槌などある訳がなく、威勢はいいけれどどこから捻出するのか。何れはどうにもならず、首を絞めてしまうだけ。

この様な状況下で、どうやらEV車に需要の鈍化が見え始めたが、ヨーロッパのメーカーは、日本はいち早くEV車の開発が進んだにしろ、量産化に出遅れたように見えるが、結果としてこれが好結果になるのではと羨ましく思っているとの報道も見かけたのです。何と前年比、31国で前年割れ、特にドイツは酷い状態で70%もの大幅減。この背景は政府の補助金が打ち切られたとある。
この打ち切りで消費者の購入マインドが急速に冷めてしまい、高額なEV車への拒否感が出てきたと報じている。
ヨーロッパの大手企業は軒並み方向転換。自動車企業だけに方向転換は得意。ベンツなど全社をEV化すると発表したにもかかわらずこれを撤回。ボルボもまた同じく方針を転換した。では2025年の二酸化炭素排出量の上限設定をどう乗り切るか。ガソリン車を廃止なんて余りにはしゃぎすぎ、EVを礼賛し、自惚れた結果がとどのつまりはこれ。
こうなると日本のハイブリッド車が復活、世界的に車に関する注目度は高くなって来ることも考えられどう推移して行くのか見ものです。
企業の宣伝にうまく乗せられたのが、EV車は排気ガスを出さないので環境に優しい。だがこれは走行中の話。乗せるのが上手なメーカーだから上手な筈。バッテリーの製造時、もっと言うなればエネルギーとなる電力を造る際、とんでもない量のカーボンを排出している。またバッテリーを廃棄処分する時等々、意外と二酸化炭素を排出するとある。さらに重たい燃料電池、これを搭載するから燃料は喰うし、道路の損傷度合も激しくなる。となればEV車など本当に環境に優しいのか、ユーザーにとって有利なのかは果たして疑問なのです。
どうやら他のアジアの国でも此の事実に気が付いてきたとのニュースも聞く。
ベトナムのヴィン社。EV車への転換がヨーロッパ企業を中心に、急速に減速したことをどの様に捉えるのでしょうか。このままEV車の生産拡大を続けて、ドツボに落ち込むのか、あるいは中国メーカーの方針はEV車堅持の方針なのでこれに追随するのか。だが仮に中国と並走するなど考えられず、挙句の果てには力尽きて飲み込まれるだけ。
かといって引き下がる訳に行かず八方塞、暗中模索の藪の中、足許を大蛇に巻かれるだけ。蛇年の今年は正念場になるか。

ところで現地に長期間在住する日本人のヴィングループに関する感想は?
ベトナム政府にしてもヴィングループは頼みの綱。このところロボットの研究もあるし、学生用低価格電動スクーター開発などにも力を入れており、威勢のいい所を見せたいような節もある。だが評価は華々しい打ち上げ花火と違って良くない。本家本元の不動産、アパートの外観は豪華だが外壁には日々が目立つし、内装やドアもペコペコ、ノブも薄っぺらくて隣室の音が丸聴こえという位の造りだとか。このEV車の社用車で使っているが、これも見かけはご立派だが所詮は部品を寄せ集めた張りぼて。サスペンションの具合が雑だし、品質は不安定。中国製よりも良くないので、頑張って欲しいけれどアパートも自動車の両方とも手を出す気にはなれないという手厳しい生の声。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生