日本製の粉ミルクはベトナムで大変人気がありました。筆者がよく見かけたのが和光堂の缶入り、他にも明治、森永の製品もあったかと記憶しています。
ベトナム製もあったと思うが乳児を育てるため値段は高くても高品質で安全な日本製が好まれたのは親心。最近は食生活の変化もあってミルクにチーズなど乳製品の需要が増え地場企業も自社で乳牛を飼っているけれど、最大手であるビナミルクでも全量を生乳からというのではなく、海外製を水で薄めたものでとても牛乳とは言えなかったのです。
随分昔だが日本人駐在員が赴任した時、子供に飲ませるのに新鮮な牛乳が無い。
でどうしたかと言えばダラットから入る牛乳を買ったけれど、冷蔵で配送する設備と保管できる店が無く、何やら臭うので結局は諦めたという話もあるし、ピザを初めて食したベトナム人の若い子が食べられなかったなんて事もあった。
今では日本人が経営する4Pなんていうピザ店があっという間に店舗を拡大し、日本に逆進出。初めて此処に行ったのはレタントン通りの奥にあったけれど、結構な人気で若い人が一杯だったという記憶があります。
本物の生乳は新空港が出来るロンタン地区に牧場があり、これをHCM市内でロンタン牛乳として僅かだが販売していたけれど、先記の様な牛乳に舌を慣らされていたため飲めなかったという状況がつい最近までありました。
この後にTH社が販売するミルクやヨーグルトは生乳からという事でスーパーでも人気が出てきました。現在TH社はロシアで牧場を運営しており人気だとあります。しかしこうした地場大手でも粉ミルクを販売していたという記憶は全く覚えがありません。
さて事件とは、6月に入って急に大きく現地紙に掲載されたのが、偽の乳製品HIUP27に関する度重なる記事です。
日本でも巨大企業が数十年間に渡ってデータの偽装や改竄して新聞沙汰になっているとか、ミルクでも会社名を変えて再出発しなければならなくなった刑事事件まである位。会社が潰れるとか消費者から信用を無くして売り上げは減少する。あってはいけないけれど、世界中どこでも起きる可能性はあります。
当局によるとこのHIUP27は会社が発表した適切な成分を満たしておらず、品質に関する規制に深刻な違反があるので、偽造品として特定されたとある。
さらにこの会社、偽のテストカードを使い、ビンフック省の当局にこれを提出しているので、ウソが事実ならばまさにデータの偽装工作をした訳です。公安は役所を欺いたと怒り心頭。
この状況は今年4月15日に会社の発表と完全に反しており、購入者に不誠実であると報じています。会社ではHIUPミルクを所有する公式販売者であるアラマ・VN・商業&技術会社(ALAMA)が、製品の品質、合法性、化学的根拠を宣言した。会社は乳製品を規則に従い製造され、定期的にテストされた結果、証明書が発行されていると偽装を否定しており、全ては法律に拠る品質基準を満たしており、生産、流通、消費の過程において食品の安全性を確保している。と主張していました。だがこれまで会社の正当性を謳ったHPは見つからなくなったともあるので閉鎖した模様。
この会社、捜査によると2020年5月に設立。主な事業は食品の卸販売で、ハノイに本社を置き、フート省、ハイフォン市、フンイエン省に支店がある。
現在役員であるスアン・チエン氏は刑法上での食品の模倣品の取引罪で逮捕され拘留されているという。
だが記事には公安が生産工場や倉庫を捜査したとか、操業停止を命令したなど報じられていません。必ず犯行があった現場を押さえるので、これは何故か。
・公安省はこのミルクを利用した人に報告する様に求めている
このALAMAは、Zホールディング・Coに属しているが、このZ社には偽造、大規模で深刻な栄養補助食品の製造と取引に関しても疑わしいことがあると、公安部は6月になって会計規則違反と食品の模倣品製造と販売を行なった罪でZ社の社長兼会長、副社長、粉ミルクを製造したネイチャーメイドトレーディング&マニュファクチャリングJCの社長なども逮捕・勾留したと発表した。
Z社は2020年10月に設立し、主に機能性食品の卸売り分野で事業を展開するとあるけれど、これ等の会社は併せて数十ものビジネスを展開し従業員数は5千名という程の企業とされるけれど、組織やルートは極めて複雑。生産から消費者に至るまでは閉鎖された方法で活動しているが、消費者の権利を侵害し公衆衛生に悪い影響を及ぼす行為であるけれど、検査されると痕跡を消去し、犯罪の証拠を分散、複雑化させるためであると公安は分析しています。すでにハノイの本社は跡形も無くなっているのはその証明でもある。
先に販売会社のALAMAが設立され、その後にホールディングスが出来た、この順番にしても何らかの理由があるのかもしれないが、これには触れていません。
昨年8月8日から今年3月5日まで製造された製品は、品質を保証しておらず、品質に関する重大は違反行為が認められるとし、これを公安省が調査し事件に関連する関係者や組織的犯行を明らかにしたと表しています。
公安部は事件の捜査に必要だとし、上記期間に使用した420g、650g、800g缶を使用していた人に協力と情報提供を求めているとあります。
捜査が終っているのなら、ここまで提供を求める理由は何なのか。もしかして立件するための確たる充分な物的証拠が集まっていないのか、と思えなくない。
・広告活動に違反したテレビ関係者に巨額の罰金
この粉ミルクを販売するため、会社は有名人を派手で大規模な宣伝を行なったとある。二名は大声で製品を宣伝し、消費者に使用させるため「膨らませた」、即ち誇大広告を行なったとありますが、CMに出演した男性2名に電子情報省は、製品に明記された内容、また医師の名前を使用した広告という2つの違反行為に罰金1億VNDを科すと公表。彼らに取っては飛んだトバッチリだが、ベトナムでは一蓮托生。CMに出ただけで、製品が偽物だったなんて何も知らなかった、では済まされません。この辺り何かあれば直ぐに罰金、日本人には理解できないけれど、こんな理不尽な社会制度があることに注意するべきです。
この事件が明るみになる前、HIUPは評判の良い科学誌と栄養分野の専門家からアドバスに基いて研究開発された製品としており、これを信じた親は子供の身長を伸ばすという宣伝文句を信じて購入したけれど、半年間使用したのに全く背が伸びていない。それどころではなく健康状態に明らかな問題が出てきた、とハノイ市に住むあるG氏は使用を中止したと話している。
豊かではないけれど子供のために3000万VNDも費やしたのに、血糖値が4,5から12に上昇。不安に思って営業担当に聞いたけれど、もう少し頑張りましょう、と言うだけ。今では血糖計を買って糖尿病患者の様に数値を計り、ダイエットをしなければならなくなった後悔しているといいます。しかし子供が普通の生活に戻れるのか分らず心配している。
公安の捜査では、記載されている成分と正しい含有量は出なかったとあります。
これは製品の登録された書類に基づいた栄養成分は含まれておらず、実際には15~17種類の成分で製造されており、品質、栄養成分、そして機能が検査の結果、保証されないので、政府の政令、第98/2020/ND―CP号の第3条7項bの規定に従い、この製品は偽造品であると判断したと、法的根拠まで報じています。
では重大な会計規則違反とは何か。偽の粉ミルクで得た6兆7千億VNDを稼いだことで、Z社の会長であるThinh氏はこの収益を隠匿し、納税額を減らすために部下に指示して二重帳簿を作成したとあります。税収としては4100億VNDを免れたとしている。これはベトナムではよくある事でイタチごっこに過ぎません。
この製品の市場での販売価格は546,000VNDであるけれど、調査で判明した工場の出荷価格は87,800VND。要するに販売価格の7分の1に過ぎないことが分ったので、如何に不当なボッタくりをしていたか。しかも税金逃れまでしていたのは極めて悪質であるとしています。それにしても高すぎる。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生