今年の中秋節 BANH TRUNG THU(月餅)の話題

2025年11月24日(月)

昨年の今頃(10月)、ベトナムから知人が来て、お土産に月餅を頂きました。
赤と金色の派手なしっかりとした箱だが、日本的に言えば上げ底に額縁の最たるもの。色は慶事やハレの日に使うものなので何やらウキウキするが、よくぞ日本に持ち込めたと思った。TVで放映される通り肉類が入っていると検疫でアウト、放棄させられる。ふたを開けると小振りの月餅が個別包装してある。だが記憶とは異なり皮の色が茶色だけでなく白や緑などカラフル。戴くと餡には豚肉が入っていなかった。だから問題なく持ち込めたというわけです。

・中秋はベトナムで重要な伝統的なお祭り

旧暦の8月15日だが、今年は新暦で10月6日。この時節になると月餅を売る店が増え、会社などでは親交がある相手先に贈り物として配る風習がある。何しろ何個か頂戴するので困るけれど、これを施設に寄付すると喜ばれる。
製造販売する方もこの時期に年間売利上げの60%~80%稼ぐところもある。だが暑いHCM市でさえ日持ちがして1カ月そのままでも問題ないのは不思議。ホテルの高級品は賞味期間が短いけれど、幾つかある有名なベーカリーの月餅は大丈夫かと思っても食中毒になったなどの話は聞かなかった。
またHCM市5区には様々中秋の用品が売られており、夜に散策すれば明るくて賑やかで楽しい。色とりどりの星型とか人形型のランタンは精々3万~7万VNDでどんどん客が買って行く。町内や施設では子供のためにお月見の祭りを皆で楽しむが、日本の様に団子や小芋、薄を添なえて観月する風流心はない。
さてこの月餅、初めて口にしたときに、日本で食した味とは異なるのに驚いた。
餡には豚肉が使われ、他に緑豆、ハスの実など入っていて、これがオリジナルであったのです。ところがこの所、月餅を製造する会社はこれ以外の新商品を出す工夫をしており、中にはタマゲタものも近年出てきました。
食生活の変化があり、新しいタイプの商品が出て来て、洋風化でケーキの様なもの、抹茶ブームだから緑色、チョコレートを使う、赤い麹を使っているとか、黒色など見た目で勝負もあるが差別化も程々が良い。
この他に、糖尿病や高血圧患者のために砂糖を除いた無糖とする商品もあるが、これは人工甘味料を使っており、別の面で問題がある。またフルーツケーキの様だが、実はジャムで、人口色素や香料をたっぷり使った子供用の甘いもの。
伝統的だが、良心的な店の商品は良いけれど、低品質な肉を使用するところは香料や防腐剤を使っている実態もある。安いと思っても何か問題があるかも知れないので注意が必要。さらに高級品として高麗ニンジンや冬虫夏草入りなんてあるようだが、実は苦みを消すのに砂糖を大量に使用するので実は危険。
報じられたニュースでは、製造日、会社の所在地、原材料などを確認し、安いとか高いとかではなく、本来のシンプルで安全な月餅を選んで家族と共に楽しむのが良いとしています。嫌悪感が無く、一口食べると二個目が欲しくなる。
有名老舗ブランドではなく、味覚体験へと嗜好が移ったという人もいる。話題が人を呼び、購入希望者が多くて長い行列が続いていると書いているけれど、中には折角並んだけれど買えなかった人もいるとかでネットが沸騰。
ところがこの所、月餅の人気が無い。売り場も閑散としておりかつての様に、バイクを止めて買って行く人は少ない。価格も一個が400円以上もするので沢山買わず精々一個か二個。消費行動の変化と経済的理由に拠ると言われる。

・今年行列ができても売り切れ 話題の月餅

HCM市のフォン・ディエム・トアンのパイナップル風味の月餅がトレンドになった。ベトナム・メコンデルタに産するパイナップルは黄色が濃く、甘くて美味しいけれど、餡にこのパイナップルの果肉が入っているのです。
何故この月餅が人気なのか。それは甘酸っぱいけれど、バランスが取れている。
熟した果実の香りが際立ち重くない。二番目は天候で、この時期でも高温多湿で涼しげな月餅は食べたい気持ちになる。三番目にはベトナム人の舌の記憶。
パイナップルは普段家庭にある果物で、スープにして食べるとか、ジャムにもするし、パイナップルケーキもポピュラー。だから誰もが好むのだが、餡の中には塩漬け卵、炒りゴマ、ココナツに少量の生姜を組み合わせており、複雑な香りと塩味、酸味、脂が混然一体となってふくよかな味になっているのです。
香りを楽しんだ後、マイルドな酸味が付いてくるという仕掛けで、丁寧に作られているとあります。
また二度焼きした皮も薄くて甘すぎず美味しい。高齢者から若者、子供にまで好まれるとされるのです。真ん中にある卵が絶妙でバランスのいい味になっていると客は絶賛するので行列が絶えないという。
これからはパッションフルーツ、カスタード、ココナツなどを使った製品が出る可能性もあり、消費者に味覚や健康を選択できるような商品が良いとされる。

・今年最も有名になった金箔月餅 悪趣味か話題作りか

ハノイにあるコンテンポラリー月餅のホアン氏。ユニークで奇妙な月餅を造り、顧客を楽しめさせる体験をさせたいと、24金でコーティングした月餅を6個入りの箱が130万VNDで販売。これが注目を集めているという。
日本でも金箔入りの酒とか、菓子にソフトクリームがあるから特段珍しいものではないけれど、皮の作り方はごく普通のやり方。中に入っている餡はツバメの巣、子魚、アワビ、冬虫夏草などとある。
月餅を焼いた後、冷ましてから金箔を刷毛で丁寧に貼って行くという作業だが、これがまた結構人気があって良く売れるという。毎日100個生産するけれど追い付かない。中には数十個単位で買って行く客もいるが、これらは全部得意先などへの配るというが話題作り。貰った方も高級だと喜ぶというのです。
因みに金は証明書と食品は安全であるとの検査証明書に拠って保証されているとあるから念の入れようは尋常ではありません。
また話題としては、職人の手作りではなく何と3Dでプリントされた月餅もあるというから、どうかしていると思うのか、流石というのか、話題に事欠かないのが今年の新ネタ月餅だが、奇をてらうと飽きられ来年は無いのです。

・ハノイで40年近く手作りの豚の月餅を作っている人が居る

と聞くと、普通の餡なのか、と思うけれど、そうではなく皮自体が豚そのもの。
中には親豚が居て、子豚が親豚の乳を飲んでいるなんてベトナム中を探しても、此処だけしかないという素朴だが可愛いユニークなものがあります。写真を見たけれど見事という外ありません。
湖で有名なホアンキエム(還剣)区にあるバさんのお店。白髪の弱い70歳の彼の得意な焼き菓子だが、看板が無いけれど、長年此処で型にはめて作るのではなく、伝統的な豚の形を好む人のため、完全手作りに特化した月餅しか作っていないとあります。だが保存料を使わないので日持ちしないのが難点とか。
ベトナムでは豚は幸運のシンボルでもあり、豚年(日本は猪)生れはラッキーとも云われ、豚の形をしたキーホルダーを貰ったことがある。家族間での愛の象徴であり、沢山の子宝に恵まれるとか、子孫繁栄が信じられているのです。
だから家族の平和と豊かな生活を願って、この中秋に豚の形をした月餅を親戚や友人に贈るというわけです。店の家族は誰もが豚好きといい、あらゆる国の土産まで豚づくし、部屋には様々な種類の豚でいっぱいにつまっている。
これを贈る人も友人知人に親戚の幸運を願ってであり、中には毎年の行事の様にまとめて買って行く人もいるとか。
この月餅、小さな豚はココナツ、大きな豚には塩漬けの玉子が入っているが、生地はフアフアで適度な甘さ。バさんは元パン職人だからかもしれない。
発想はハノイ郊外の村に行った時、親豚に子豚10匹は乳を吸っている光景を見て心が和んだからという。これをヒントに豚の形をした月餅を作ったので、今も様々な豚の表情を手作りしており、どれ一つ同じ表情の物はないという。
生地を焼くのに90分もかかるが、店は狭いので沢山出来ない。また年齢を考えると体も思うようにいかなくなった。孫達が手伝ってくれるけれど、この技を後世に残せるのか不安もある。社会が何時まで受け入れてくれるのか、月餅の習慣も中秋の文化もこのまま伝承できるのか。実際に岐路にあるベトナム。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生