男尊女卑の傾向が残るベトナムだが

2026年2月27日(金)

・特殊出生率が減少するベトナム

人口が急増してきたベトナム。一時は子供の数が多過ぎて学校での教育は崩壊寸前の状況で、HCM市の小学校などでは1クラスが60名近く在籍、しかも二部制授業。すなわち学校(教室)が不足し、朝のクラスと昼からのクラスに分かれて教えなければ間に合わないのが2000年の初頭の状況でした。
地方なら子供の数は一家族で数人、知人などは9人兄姉の末っ子という有様。これはごく普通であった。両親は農業だったが何故か子供達は賢くて、全員が大卒というからたまげたもの。また別の知人の親は教師で外国語を教えていたけれど解放後は職を解かれて農家の下働き。要するに田畑を持つ地主に使われる貧しい小作生活だったという。この家庭は子供の数は2名だが、こういったインテリ層は戦争後でも子供の数は少なかった模様。だが学問は身に付けろという親の期待に応えてHCM市経済大学へ進学。当時としては珍しい考え方であったのです。

現在ベトナムは人口1億人を超えておりまだ増えている、だが経済が成長してくれば必然的に子供の数は少なくなってくる。所得は上がるけれど物価上昇に追い付けないし、未だに地方から人は都市部に集積する。となれば住むところは2000年台始めには市中心の近場にあったが、もはや郊外どころか近隣の省まで行かなければ不動産を買えなくなっているのが実態。
この状況は都市への一極集中と外国人が増えたこと、さらに一部の金持ちとか投資家が利殖のために購入している要因がひとつ挙げられる。こうなると賃料も上昇する訳で、では政府は効果的な土地政策を持っているのかだが、これは無い。社会主義国での土地は公有制、即ち私的所有は出来ない。人民全てもののであり、これを国家が管理するというのは建前だが、実態は自由に売買できるし、この所は制限があるにしても外国人も購入できるように法律が変わってきた。だが外国人は余程注意しなければ不動産を購入するのにリスクを伴う。
ベトナムの不動産バブルに関しては、これまでにも書いたけれど人口の急増と、経済成長のために二度目のバブル期を迎えたけれど、なかなか収束できない。株式市場も初の証券取引所が出きてすでに20数年にもなり成長期。かくしてとんでもない大金持ちが出現、都市と地方の格差、国民も持つ者と、持たざる者の格差は拡大する一方。だが社会、民間企業が成熟したという訳では決してありません。企業は社会の公器ではなく、創業者と一族のものでしかなく儲けの殆どはこうした連中の懐に入るため、好き勝手し放題。民主的な経営が期待できるかと言えばどうも怪しく、国家インフラを牛耳るまでに成長してきた。

・人口が増えない 危機感を募らせる政府

ベトナムの子沢山は昔の話。何もしなくても子供の数は増える一方だったが。農家では一日の農作業が終ればすることが無く、自家製の強い酒を飲んでクダをまくか、早めに床に入って欲を満たすだけ。早暁から夜まで一生懸命仕事をしても充分な収入などなく、それ以外の楽しみなど無かったほど貧しかった。
小作をしている人は貧しさに耐えかね子供を連れて都会に出稼ぎに出たけれど、手に職など無いから仕事にはあり付けない。子供も当時は学校へは行けない。市内にはストリートチルドレンが溢れていて、観光客目当てにモノを売るとか、金をせびっていた。これには元締めが居て、すさんだ生活をしていたのだが、彼らの責任でなくある意味で気の毒だったのは事実です。

筆者がHCM市に居を構えた時分だが、女性の初婚年齢は20歳を出て直ぐで、機会を逃して25歳とかになればもはや嫁ぎ先は無く、後家になるか一生独身などと言われていた。また当時は結婚すれば同居というのが当たり前だったが、これが徐々に廃れて行き、せめて新婚時代は二人で過ごしたいと別居が増えた。
家が狭くなってきたと云う事情もあるけれど、元々は夫婦共稼ぎが主流だし、外資系企業に勤めると先進国の文化を感じ、これまでの社会的価値観との違いが大きくなってきた。これは時代の流れという外ありません。

今年8月に保健省は少子化対策に関する会議を開催。傘下の人口局はこの所、ベトナムの初婚年齢が高くなり晩婚化と晩産化の傾向が強くなったと危機意識を持ってきた。
これに拠ると平均初婚年齢は1999年の24,1歳から、10年後の2009年には25,2歳。2023年には27,2歳になったけれど、男性は29,3歳で、女性は25,1歳。徐々に上がってきているのです。
こうなると少子化に繋がるが、ベトナムでも高齢化が目に見えて進んでいる。
都市部での少子化は目を見張るほどで、中でのHCM市では子供の数が1,32人と国内最低となっている。これは脅威となるのではとの問題意識が出て来た。
そこで原因は何かと考えれば、高学歴化、個人の生活を楽しみたいとする社会的価値観の変化、教育費、医療費、住宅費などが高くて経済的負担が大きい。
また子供を育てるための学費が高騰、また高学歴を目指すなら塾などの費用が嵩むし、家が狭くなり教育環境が悪くなった。これらの理由から子供が欲しくなったとか、中絶がただでさえ多いのにこれに拍車がかかっている現状がある。
こういった原因を挙げ、何とか人口を維持しなければと焦りが出てきたのです。
そこで打開策とは何か。環境整備と家族が充分に生活できる給与が必要として、最低賃金制度の変更、長く家族といるため労働時間の週40時間制を提案した。
もっとも、筆者の在籍した企業でも外国語が話せる人材がいたし、アパートを買ってくれた夫婦は大学卒で有名企業に就職。子供2名は英語塾に通い、転居した我家は3LDK・キッチンは別だし、周囲は外国人が多く居住し、外国人学校とか医療施設などの利便性が整っていた環境を重視して選んだ次第です。
現在の様な強烈なバブルが去り、双方が手持ちの不動産を上手に処分できたからともいえます。だがこういう環境に有った一般市民は少なく、また時代の先を読める人もそれ程いなかったのも事実。一定程度の高学歴と収入があって、思い切りと価値判断の速さが勝因なのかと考えるが、不動産はご縁が大切。

ではこれまで市は手をこまねいていたのかと言えば、そうでもない。危機感を持った当局は34歳までに子供を2名出産した女性に300万VNDの報奨金を出し、また子供2名を出産した適齢期の夫婦の割合が60%以上を達成した、区や村レベルの人民委員会にも賞状と報奨金3000万VNDを支給。さらに5年間続けば、さらに増額を市の予算から出すとしたのです。賞状を貰うとか選ばれるというのは大好きな国民性だが、行き過ぎるとお役人は市民の意思を無視して功を焦って突っ走る。またただでさえ35歳という年齢設定も問題で、高齢出産するなら母体への危険性があるのを考慮すべき。この他に貧困世帯の妊婦などへの検査費用を支給するとの考えだが、其処まで追い込まれていた。

さらに保健省は人口法草案の中で、出生率の低い省や市の夫婦に対して第一子に最低賃金の1か月分、第二子では同じく2か月分を支給し、また公立幼稚園、小中学校の授業料が免除されるという大判振る舞いを行うという。

さらにこれまでにも共産党中央委員会は、党員が3人以上の子供を持つことを禁止し、違反に対して処分を行ってきたけれど、この二人っ子政策を廃止して即日施行したのです。
また過去に書いたコラムで男女の産み分けを指南する書籍が売れていたけれど、これを摘発した経緯もあります。だが殆どは効き目など無く良い加減な記載であったがこれを庶民は信用した。如何に教育が大切かということです。
ベトナムでは男子出生を、特に地方に行けば行くほど期待され、もし女児であれば彼らが堕胎を強要するという異常な状況下にありました。女児を生んだなら嫁ぎ先の両親や親戚一同から疎まれ、この重圧から逃げたくて悲惨な事件もあったという。この堕胎が年間百万件を超えていたともあるけれど実態は不明であり、もしかすればそれ以上、さらに違法な堕胎をしたばかりに母親が亡くなるとの異常事態も相当数あったとされている。ベトナムの映画にもこの様な描写があったけれど、実は今でもこの男子偏重の傾向にあるのです。

・胎児の性別選択の罰金

政府は胎児の選択をした場合は罰金を科してきたけれど、これを今回の人口法の草案では、最大1億VNDに大幅引き上げるとしている。
さらにこの国でも超音波で胎児の性別判断が出来るために、極端に先の様な事情から男女比がアンバランスになっている地方がある。そこでこれを是正するために125兆VND(約7400億円)の巨費を投じて人口政策プログラムを作成し、出生比率を2030年までに109、2035年までに107まで下げるという目標を設定したのです。自然な状態では104~106としているけれど、これまで如何に歪であったかだが、2024年では111,4が全国平均。だが北部の省では首都ハノイでさえ118,1、バクニン、フンイエン、タイグエン省などでは120を超えるという酷さ。これは国連の統計でも極端に男女比の隔たりが大きく、実に217国中で4位というとんでもない不名誉な記録が問題視されていたのです。

兎に角、儒教的思想から男が家を継ぐのが伝統的慣習で、これから抜け出せなかったのです。かといって農業で一族を養えるだけの収入など無い。
然しながらこの国では女性は働き者だし、社会進出は日本よりも遙かに多く、能力も高いのにこの潜在力を無駄にしていた。‐これは日本と変わりがない‐もし男女比の構成がアンバランスなら、2034年には15~49歳の男性は女性より150万人も多くなり中国の様に嫁不足となる。ベトナム人の女性が誘拐され農村に売り飛ばされるとか、韓国人も同じ様にベトナムに来て嫁探し。TVで韓国の虚像を見て豊かになれると思いきや、実はとんでもない貧農で、農作業と家事労働に明け暮れ、多くの男に弄ばれ、挙句の果て逃亡して水商売に身を落として後に自殺した例もある。中には田舎の男が、女が韓国に行くというので殺してしまったなどの問題も出て来た。まさに貧困が生んだ事件だが、学力は無く言葉も理解できないなど、身に余る待遇が嘘だと気が付かないだけ。

このため政府は女児の出産を奨励。農村や貧困家庭で女児2名を出産すれば、現金や生活用品を支援するとしたのだが意外と効果があり餌付けに成功。
さらに妊娠中に胎児が女児と分かったけれど、この国では堕胎の原因になるとして、この性別を医師が教えることを問題視。万一胎児の性別を教えた場合は、この医師に対して免許をはく奪。また施術をした場合には現行の罰金3000万VNDから最大で1億VNDへと引き上げるという線で検討中とあります。
ごく普通の生活模様であったが、なぜ早くに気が付かなかったのか。この政府の時代遅れの策でどれほど罪なき母親と胎児が葬られ、国家の損失となる事に気付かなかったのか。亡国論です。

・国会 人口法を可決

社会が徐々に豊かになり、ようやく成熟しつつある国になりかけ、途上国から中所得国へ発展する過渡期。おっとり刀の重い腰をあげた政府ではあるけれど、12月10日、人口法が賛成多数で国会で可決されたと現地ニュースが報じています。これは2026年7月1日に施行される運びとなりました。
この法の目的だが、これまでに書いてきた通り、様々な問題があったけれども長期的に現在の人口を維持できることを目的として、いくつかの措置が講じられるが、これは日本も同じ危機に面しているのでぜひ他山の石にと考える所で、良い面を採り入れて実施して行くべきと考えるが遅々として進まない。
第二子を出産した女性労働者の産休期間を、これまでの6ヵ月から7ヵ月間に延長し、男性には10労働日の休暇を認められるという。残念ながらこれが、有給なのか、無給休暇なのかは不明だが、単なる労働者の権利確保でしかなく
無給であるなら、健康保険から充足も考えなければとても都市部で生活ができる状況にはありません。さらに出産に関して、日本では全額保険で費用を出すような考え方になって来たけれど、ここまでは分りません。
またこの国は54の民族からなっているけれど、少数民族の女性、出産率が低い省・市の女性、35歳未満で2人の子供を持つ女性に対し経済的支援を実施する事を盛り込んでいます。また住宅難の時代、特に大都市で住宅を確保するのはかなり困難。そこで今回の法律では2人以上の実子を持つ者は、社会住宅を優先的に購入また賃貸できるとなっている。なお社会住宅とは公営住宅の事で低額の家賃とか、地域に比べて低額で分譲されるアパートを指します。
先に書いた様に胎児の性別選択を厳格に禁止し、違反した医療従事者には業務停止などの措置を講じる強硬姿勢を見せた。しかしこれは個人の自由とか権利を奪うことになる大きな問題が孕んでいるが、この国ならではのことだと理解。
また統計機関は、毎年当局がこの男女の出生比率を調査して公表。政府または省レベルの行政機関で当局が介入できる策を講じる基礎資料にするとしている。
さらに少子化と同じく高齢化に関してもその対応が急務であり、若年期から老後に向けての準備を促進させ、健康、財政、心理面での準備、社会保険、医療保険への加入、生涯学習、市位置での高齢者支援の活動への参加を奨励する。
これに対して国は高齢者の支援が必要な対象者への優先的支援策を設け、企業、団体、個人による自発的な活動を奨励するとしました。
しかし先に書いたけれど、高齢化を迎えてこれを収容する施設は不足しており、また機能回復訓練とか作業療法などの対策では遅れがあり、すでに意識を持っていた病院であってもこれら必要な設備、道具は揃っておらず、監督官庁には知識が無く、日本人医師や先進国で学習したベトナム人医師が提案しても無視された状況であった事実があるので、本当に実施できるのか疑問である。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生