現地記事からベトナム製造業をみると

2022年6月14日(火)

ベトナムの工業分野が長期的、かつ安定的に発展するためには、原材料や部品の国内供給の主軸が重要となる。しかしこれらは海外依存度が高くベトナムの世界的サプライチェーンへの参入を妨げているのが実態と記載しています。
重要なのはこの指摘が現地のモノ作り実態に精通している事業関係者が述べている事であり、現地に居ても見えないローカル現場の実像が如何ほどなのか分かります。
商工省によると、裾野産業と言われる企業の70%が中小企業であること。また資金力がないとしており、これに拠って製造に関わっている企業が世界から見て大きく遅れた技術を未だに使っている為、付加価値がある高品質製品や高い競争力があるモノを造る事が出来ないとある。
また短大や海外へ実習生を送る専門学校でも、海外では通用しない技術、時代遅れの機械を実習に使い教師が教えているのを目の当たりにすると、もう結構、これまで、と言いたくなります。
だが留学経験があるとか、意志ある人が創った工場では現地の海外企業向けや、輸出用製品も作っている。製造機械も新しい日本製やドイツ製を導入している程でこういう企業は受注が絶えない。この落差と現実が続いている。
こうした状況なのでベトナムの裾野産業は国内需要の僅か10%程度しか対応できない。しかも単純で価値の低い部品類が殆どだと書いています。
このため、例えば繊維産業ではベトナム企業が実際に製造に関わった最終製品の利益は5~10%に過ぎないとしているほか、自動車生産でさえ単なる海外部品の組み立て。国内企業は部品ニーズにはほんの一部でしか応えられていない。輸出量が多い靴製造、電子機器分野でも原材料の90%は海外に依存。製造すると言うよりも、最終組み立てと製品化の処理。此処にベトナムの産業基盤の脆さがあると手厳しい表現をしている。
海外への輸出は数字上では確かに増えた。しかしその74%以上は海外企業に依るもの。外貨積み立てが1100億ドル超え、このため外貨管理庁を創設すると意気込みは高いけれど、国内のあらゆる経済分野での製品は付加価値が低いままだし、製造に至っては海外企業の下請けか委託が多い。自国企業の経営力、開発研究力は劣っている。世界のサプライチェーンなど夢の中の出来事。

・求められる技術革新と自助努力

こうした中で技術革新を念頭に置き、世界の最先端技術に追いつくため時代遅れとなった生産ラインを新しい設備に置き換える企業も出てきたと言う。
既に数千万ドルを先行投資し、日々変化する世界最先端のIT関係製造環境に対応するために、この先は数年に一度は更新しなければ生きて行けないと覚悟。こうした幹部の意識改革が最も重要な経営センスだと気付き始めました。これこそベトナム企業のグローバル化であり、多くの若い経営者やまた海外留学組の中でも、成功する優秀な頭脳を持つ人材集団だろうと考えます。
また他の企業でも人材教育に尽力し、作業効率を高めるため自社技術の開発とアップデートしている。この様にこれまで他力本願が多く外国からの製造受託で満足していた時代から、自助努力を苦しい中で行おうとする企業が出て来たとも紹介している。この多くは設立間もない若い人が起業した企業。こうした
起業を支援するためには政府の援助が必要で、世界で通用する製品を造るための最新鋭機械を購入し、さらにR&Dを進めるために優遇融資制度を拡充すべきだとしています。行政は企業がどんどん進化していることに気付くべき。
このような企業が近年現れてきた事は、取りも直さずローカル企業のビジネス環境やもの作り事業は大きく変わってきたと言う証明で将来に期待できます。
また裾野産業の技術や生産性を向上させるための動きも出てきた様で、工業局ではこの訓練プログラムを開催するとしている。

世界各国との自由貿易協定を積極的に進める事はそれなりに有効な手段だが、このような動きを読み、真の意味でMADE IN VIETNAM製品を、誇りをもって製造し、世界に広めるためには意識変革が肝腎。世界のサプライチェーンありきでなく、先にやるべき事が多々あるがこれを行政はどの様に感じているのか。

・実は伸び悩む自動車部品の現地調達率

これまでにもベトナム製?自動車に関してコラムにして来た。国家的事業であり積年の念願だった国産車、ヴィン・ファスト。工業国化の証と自認している。
如何にも世界にEV車を以って打って出ようと言う勇ましい行動がこのところ記事になり、日本でもこれを疑わず、デザインは秀逸だとか脅威とまで書いているニュースを見かけるが、現地事情を知らないほぼ素人の所感でしかない。
自動車製造には約3万点の部品が必要で、このため各メーカーには傘下に数千とも云われる企業が存在している。夫々に専門の高度な研究開発の歴史を持ち、中にはベトナムに進出、此処から世界へ製品を輸出している企業もあります。
たかがネジ一本。しかしこれが実は造れない究極のされど螺子。このほかにも事例は数多あり、世界の潮流から鑑みEV化や水素などに置き換わったとしても、日本企業が歴史上で積み重ねた特許、技術の蓄積は幅広く応用が可能です。
だがベトナムで製造する車、この部品の80%は輸入に頼らざるを得ないのが現実で、他の20%ほどは単純なものだとあります。もっともレシプロエンジンから電気に変わったとしても基本は変わらない。

協力企業をタイと比較すればタイは約2400社あり、レベル1に相当するのが約700社、レベル2・3が1700社ある。ベトナムはレベル1が100社、その他150社に満たない。即ちベトナム自動車産業の規模とは先行するタイやインドネシアからみて弱小規模でしかありません。
これに付いてベトナムの裾野産業協会は、資本も生産量も小さい。国内自動車産業も規模が小さ過ぎる。企業だけではどうにもならないと指摘。しかしそれ以上の品質や素材調達、設計や開発研究という泣き所には触れていません。
地場ヴィン社は全てをEV車に切り替え、ヨーロッパやベト僑を軸にアメリカ市場を開拓しようとしており、近隣国首脳にこの車をプレゼント。エネルギーを供給すらできる環境にないのに、早くも先行して販促をする積りなのか。
それよりもこれまでの赤字の垂れ流し、いまだに解消できない事態を優先する方が先で、加えて自社独自のR&Dが重要。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生