ホアン・アン・ヤ―・ライ社とは?

2026年4月10日(金)

以前に書いたコラムの中で少し触れた、ホアン・アン・ヤ―・ライという企業。現地経済紙には、またまたこの会社のドオック会長が驚くべき事を従業員に行なったと話題。こんなベトナム企業もあるもの。
なんと太っ腹というのか、従業員想いなのか。こんなことができる人など多分この国ではないのでは、と感じます。否、日本の創業者経営者でも幾ら功労をねぎらったとしても、まさか此処までやれる?と思ってしまうほど。
記事には2026年1月18日の朝、会長は160人の上級社員へ会社の株式と160戸に及ぶアパートを授与したとあります。
会長は同社が困難な時期に耐え忍んだ忠誠心を称え、10年以上の勤務経験があり、特に2016年に始まった苦難の時、経営陣と共に苦労してきた従業員に感謝式の中で伝えたという次第です。
株式は240人の従業員へ従業員株式所有計画として、8,000億VNDに相当する。またアパートは長く会社が保有している土地を、不動産事業ではなく従業員のために活用するとしているが、開発は22階建て610戸のアパートと商業ビル。完成すれば中所得層や公務員の需要に応えるものだが、価格は2,000万~3,000万VND/平米になる予定と記事にはあります。
アパートの価値は20億VND~90億VND(約76,000ドル~342,000ドル)の価値があるという。だが従業員の長期的な勤務を約束するため5年間の譲渡制限を課すとあります。会社が困難な時期、ほとんどのベトナム人は現職を辞めて他の仕事を見つけるのが普通です。誰もが生活が厳しくなればそう考えて当たり前。しかし以前のコラムに書いた様に、筆者が気になっていたのが、会長の経営に対する考えは、仕事はその道に精通した者がやるべきとして、従業員のやる気を尊重したことが大きかったのではと考えるのです。自分が知らない、分からない事は任せるという理念があってこそ、困難な時期に辞める人は多くなかったということは、この国では奇跡に近い。まして創業者、一般的には会社は自分のモノだと思っているし大きくなれば自分の功績。世界共通です。
給料は労働の対価、言われたことをやっていればいい。自己研鑽を行うとか、その仕事のプロを目指して勉強する、また良いものを作ろうという気概が無くても数が揃えばいい。品質は二の次なんてまさに社会主義の計画生産という、基本的な考え方がベトナムでは蔓延り、しかも国営企業は戦争が終わって南部の工場では、仕事を知らない北の軍人が社長をしていた。なんてことが実際に有り、これは2000年代の初めだが、進出した大手で有名な日本企業の現法社長が怒っていた事があります。勤労意欲はない、それどころか学歴も学力もない人物が居座り、その出資比率は51%以上なので日本側は何もできなかった闇黒の時期だったのです。
マーケチングが分らない、生産管理、品質管理を知らない。従がって市場では消費者が何を望んでいるのかさえ理解できず、何を造ればいいのか、新製品を何時出せばいいのか、提案してもうわの空。それ以上に数字には全く無関心で無知、儲かっているのかさえ分からない訳で、匙を投げたいくらいと言っていたことがあり、それほどひどい内部事情があった。こんな事は今、現地に赴任した若い世代の人には理解できないと思うが、こんな時代がありました。
HAGLは1990年に中部で小さな家具を製造するために設立。その後に幾つかの事業に参入して多角化を行なったがこれが失敗のもと。
2010年には、この当時ベトナム最大の不動産開発企業となり、筆者の住む7区でも主に中堅所得者のためのアパートを分譲。これがまた即時に販売できた程の人気がありました。2014年には1兆5600万VNDという途方もない利益を計上したが、この源泉というのが業界の事情はこれをよく知っている社員に任せたという逸話を筆者は聞いていた。在職時は不動産開発を行っていたことがあり、興味も手伝って実際に現場を見に行ったこともあります。
そこで気付いたのが、日本のハセコーか東海興業のマンション。すなわち中堅サラリーマンが何とか買える金額であったので、これは成功すると感じた次第でした。当時多くの開発業者は高級志向。これを株式で儲けた富裕層が資産として購入、進出外資系企業のスタッフが賃貸するという図式があったのです。
これを見事に内需、要するに一般市民が買える価格にした、という経営戦略がヒットした訳です。
しかし2016年には一転1兆8300億VNDという大赤字。これは会長がゴム事業に投資したけれど、価格が80%も急落して大損したのです。此処からこの会社の混迷の時期が始まりました。その後は保有する資産を売って凌いできた訳で、自社ホテルまで売却している。かつてはプレイク、クイニュン、ダラット、ダナンという中部地方に4つリゾートホテルを保有していたのです。
筆者が観た立派なホテルがダラットにあって、木材をふんだんに使用した高原リゾート地にマッチしており、気に入っていました。
ところが2020年になって、養豚事業とバナナの栽培に活路を見出し黒字に転換、事業の業態を変化させていったとある。これはまさに、起死回生の一手であるのです。

・農業企業へ変身

今やベトナムで大手農業企業になったホアン・アン・ヤー・ライ社。栽培するバナナは実は日本にも輸入されています。約7,000Hrの栽培面積を持つ農園を持つが、60%は中国向けで、40%は日本や韓国に出荷されている。
バナナに重点を置いて農業分野に事業を移行してきたけれど、中国では急速にドリアンに人気が出て来たため、栽培面積を2,000Hrに増やしているが、これは長期戦略として中国の需要を満たすには7~10年掛ることを見越しているという。さらに栽培を拡大するためラオス、カンボジアに7,000Hrの農地を拡大する計画とあります。
また同社では養豚事業も拡大し、来年までには50万頭に増やす計画という。一時は負債返済のため一部の養豚事業を売ったけれど、見事に復活しているがこれも才覚、商才のひとつなのでしょう。もしかすると不動産開発事業はそれほど得意ではなく、都市部での企画が時流に乗った。また販売思想が市場の要求、あるいは顧客ニーズと偶々合致したという賜物だったのかも知れません。

・ラオスでの投資

HAGLアグリコを設立して、ラオスでの果物栽培と畜産事業に7億2000万ドルを投資する計画という。これは2028年から50年間のライセンスを取得し、果実はバナナ、マンゴー、グレープフルーツ、ドリアン、畜産は牛を飼育して繁殖を行う訳で、HAGLはラオスには現地法人である子会社を4億ドルで設立する。このHAGLアグリコは、実は2021年から3年間赤字。そこで上場廃止を避けるために、ズオン氏という大金持ちを会長にして子会社を合併。従がってラオスでの農場は敗者復活戦でもある訳なのです。ベトナムでの乳製品とか肉類の消費はまだまだ伸びて行き将来性は高いと考えられる。

農業は収益性が見込めるけれど、自然環境に大きく左右されるとか、市場価格が栽培量、その時の嗜好や需給関係に拠って大きく変化するなど難しさもある。市場参入が遅れた事は否めないが、これからは独自の製品を開発してユーザーに提供することが企業を活性化し、規模を拡大できる不可欠な要素であると考えているという。
今年は農業製品輸出を100億ドルの大台に乗せるという政府の計画もあり、会長の企業理念や従業員に対する思いやりの精神。同社の業態が変わっても、常に末端のユーザーの気持ちになって商品を企画、生産販売するという戦略を変えないで、この様なビジネス哲学を持ち実践する地場企業が他に無いことを誇りにして欲しいと願う。また新品種の開発や海外先進国の要求に応えられるだけの品質、味や香り、形に大きさを研究して輸出して貰いたいと思うのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生