・不動産の高騰で煽りを受ける賃借人 日本の常識は全く通用しません
割を食うのは現地の人達なのです。給料が上がっても不動産なんて買えない。持てる者と持たざる者の格差は拡大する一方、こんな状態が続くならもはや都市に住む理由など無く帰郷する人が出て来る可能性は高い。コロナ禍に戻った内の何割かはノーリターンを決め込んでいる。人手が無いと産業は空洞化する。
不動産は必要があるから購入する、必要があるから売る。これが本来の姿だと考えます。そこに経済が発展し、地域特性や利便性、収益が望めるのなら自ずと価格に格差が出て来るのは仕方がない。だが投資家が投資とか投機のために保有資金を投入するとどうなるか。ましてインサイダー情報に拠って左右されるのならこうした自然の成り行き以上に一部の人の思惑で価格は動かされる。
となれば人為的。これを制御するための施策が講じられなければ、充分な取得費用が調達できない一般庶民は蚊帳の外、指をくわえているしかないのです。
ところが賃貸物件だってオーナーが黙っていない。現地記事に3ベッドルームの部屋を借りて2カ月が経過。ようやく落ち着きかけた所に、突然家主から家が高く売れたので立ち退く様に要請された人が居るとあります。
これを聞いた借主は、同郷の仲間とルームシェアをしていたので、彼らには申し訳ないと思う気持ちと、家主に対して腹が立と同時に眩暈を起したとある。
この家は長く入居者が居なかった。このため掃除をしなければならなかったし、エアコンにベッド、家具も購入した、給湯器も設置。大家の通告では一カ月以内に退去しなければならないので大損してしまう。
家主は彼に対して契約上の決まりで3か月分の家賃と補償金を支払ったとある。
これはハノイの不動産の話であるけれど、賃借人に幾ばくかの金などを払っても長く保有している家主には莫大な利益が入るので、痛くもかゆくもない。
実はこうした状況は今年に入って急激に増えているのが実情だそうで、一度ならず、二度・三度。しかも一年以内にこうした事情で転居の繰り返しを余儀なくされた人も居るのが珍しくないとしているのは異常事態と考えてもいい。
持ち家であれば簡単に売ることは無い。結局は一時的に儲かった、と思っても、では何処に新たに購入することが出来るのか疑問。また賃貸物件に入居しても、今度は逆の立場に成り兼ねない。従ってこうした事が可能な家主は貸家を何軒か保有しているか、投資目的で購入して頃合いを見計らって売却したのではないかと考えられます。特に一部の地域では50%~90%も上昇しているので、売りたくなる気持ちが湧いてくるのは無理もない。金は金を呼んで、余裕のある一部の人のみに回っているのが真理。資産が倍々にも膨らむのは世の常で、崩壊が起こらない限りこの輪廻は続きます。そうなると市中心部は余程の金持ちしか住めなくなり、一般の人はどんどん郊外へと追いやられることになる。
そうすると生活権や通勤圏が極めて狭いベトナム人。バイクが主たる移動手段になるが、都市交通は発達していないので日々の通勤は苦痛でしかありません。
因みに賃貸物件の利回りはHCM市で年4,1%、ハノイ市では4,6%、また全国平均だと4,5%となっており、かなりの高利回りが見込めます。
こうした状況に不動産協会は、価格上昇への当局や行政の関与が必要だとしており、法律の改正とか公営住宅の建設促進策を提案しているけれど動きは無い。行政としては物件供給が増えれば、需要圧力は軽減されるが不動産のバランスが崩れる。不動産への課税をすることで投機を押え社会的に有益な行動を促進させるのが正解と考えているようだが、具体的な策など出て来ません。
無為無策の政府と行政。もしこうした施策が法的に実施されるならば火の粉が我が身に飛んでくるから黙っている。
この立ち退き問題はなぜベトナムで起こるのか、日本人にすれば怪訝に思うかもしれないが、すなわち賃借人の保護など考えていないし、そういう法律などありませんから家主が強くてやり放題。トラブルがあっても供託制度もなく、裁判になっても一般人は勝てっこない。補償金を貰ったのならマシな方です。
そういう暗黙の了解事項になっている。こういう所にベトナムの不動産に関する法整備は未熟のままで進化が無いと云われるのです。
・日本人が思っている様な常識やモラルは端から通用しない
立ち退きは何もベトナム人社会の問題だけではありません。外国人でもこういう無慈悲で理不尽な洗礼を受けた人は結構多くいらっしゃるのです。
近所に家を借りてベトナムで初の日本人が経営する釣具店を始めた知人のM氏。
日本人だけでなくベトナム人にも好評で、有名な釣り師が来店する程になった。
何しろ置いてある商品は日本製の全て良いものばかり。喉から手が出るくらい欲しくなるし、見て手に取るだけでも嬉しくなる。これらはハンドキャリーで、中にはカタログを見て最新の強力モデルを発注できるのは此処くらい。Mさんや母親が帰国した時に抱えて持って来る。だから誰彼にも人気があったのです。
ところがある日、突然のこと。家を売ったので出て行ってくれと家主。補償金など全く出ず、しかも2週間とか。もしかすると評判が良いからこれをネタに良い値段で売却できたのではと思うが、一階は店舗になっていて商売が出来、2~3階が居住部分になっている構造でメイン通りに面した分譲貸物件だった。
幸い近くに別の物件が見つかったけれど、普通の個人住宅だが家賃はほぼ2倍。此処も3年程で家主が変わったが購入者は里帰りのベト僑。即金だったと聞くが勝手し放題が通用する怖さ。そこで店の従業員が見つけてきたのは空港近くの住宅地の一角。三度目の転居だったが新規客は中々付かなかった。
また個人の店だけではなく、会社であっても同じ様な憂き目に遭っています。
7区のタン・トアンEPZにある日本企業に居た人が転職して別の会社に移籍。
当初はビルを借りたけれど、修理も出来る所に移りたいとの要望があり、この社長には長い間お世話になった関係で、物件探しと内装を請けたのです。
賃料も手頃で足場も悪くない。ところが数年たってから契約の更新が出来ない。
即ち何らかの事情で売ることになったためと聞き及びます。
日本から赴任した多くの駐在員とその家族は会社が契約したアパートに住むのでこの様な心配はありません。
だが住宅を借りる場合、殆どの家主はこうした貸家を何軒か持っており、別の不安要因があります。家主が鍵を持っていて、ある時留守中に入って来て出くわした。そりゃビックリする。もはや何をされるか、金品を盗まれやしないかなど安全ではなく、信用できないと転宅した方もいらっしゃいました。
また仮に家賃滞納をするなど貸主が立腹すると勝手に鍵を変えられる場合もあるし、日本では考えられない驚くべき異常事態が生活する上で日常起きるのだから安心できません。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生