COVID-19禍の中で実習生はどうなった③

2021年8月12日(木)

・実習生制度の系譜

外国人の技術習得支援のため、日本では1960年代から研修制度はあったと聞き及ぶ。しかし現在のような形態ではなく教室での受講が中心でした。
1993年から研修終了後、企業と契約し其処で働きながら技術を習得できる事になりましたが期間は2年。1997年には3年間となったが労働関連法の適用はされなかったためトラブルが続出。2010年から労働者としての権利がやっと認められたのです。
2016年には外国人技能実習機構が設立。技能実習計画を許可制、実施者を届け出制、管理団体を許可制にしており、これまでの経緯から実習生を保護、人権侵害行為への罰則規定を設け違反者に罰金が課されるという意味では一歩前進だと言えます。
2017年には技能実習法が施行。目的と理念が明記されるに至っています。
この中で重要なことは実習生が技能習得のため専念できる体制と環境の確保。
そして労働力の調整のための手段としてはならない。とされていること。
しかしお題目であって、これまでの状況から誰もが建前だと思う。すなわち、日本人が嫌がる職場の人員不足を補う手段であり、低賃金、危険が伴うとか、重労働、深夜勤務など安価な単純労働力として捉える事には変りなく、根本的な改革が必要です。
技能実習生が居る事業所は日本全国に9455あるとされ、調査では違法行為が行われていたとするのは70,4~71,4%で、日本人のそれより2%ほど高い率だとされます。この違反の内訳。労働時間違反21,5%、使用する機械に対する安全基準違反20,9%、割増賃金の違反16,%の順で、悪質として送検されたのは僅か34件。それでも一応は成果があったとしています。
技能実習法では監理団体が3か月に一度実施する法定管理業務で労働関係法令違反を発見した場合、労働基準監督署に報告しなければならず、摘発を受けて重大な違反があれば許認可取消しになります。このため違法行為は少なくなり、労働環境改善や実習生の権利保護に繋がることに期待ができるとされます。
さらに違反をしていない企業への評価は選考の対象にもなるため全体の改善が進むと考えられ、監理団体間でも競争で併合や買収などが起きる可能性もあり、優劣もはっきりすると思われるが当面は状況を様子見です。
かつては儲かった。というので、ベトナムに居住し事業をしていた人が帰国し受け入れ団体を造ったことが実際にありました。しかし、日本へ来る実習生が増えると共に新規に組合を設立するとか、ノウハウを知った従業員が独立して参入したケースもあるが、姿勢の良くない経営者もいました。
法的な縛りが強化されるに伴い、いい加減なことをしてきた人達はどのように対処してゆく積りなのか。

・制度に問題があるのか

どこまで正しいか、真実を伝えているのか、明確な証拠がなければよくわからないことは多い。双方に言い分があるにしろ、誰しも自己に都合がいい事しか話さないのは世の常。外国人だから、事業者だからというものではありません。
だが一般的に分があるのは企業側。否定されて身の置き場を無くすのが実習生とほぼ決まっていて、意固地になってしまう。良好な人間関係があれば問題はないし、知る範囲ではこの方が多いが、すれ違いが出ても解決できます。
しかし何度か改正されたが欺瞞に満ちた実習制度そのものを改め、あやふやな位置付けでなく、法に定められた労働者としての権利を真摯に遵守しなければ悲劇は続きます。送り出す側にも問題があるのも歪めない事実。相見互いか。

・海外労働派遣側の実情

ベトナム人労働者を海外に派遣する所管は労働傷病兵社会省。今年の目標は約9万人としています。海外労働監理局は早くも経済回復を見通して、506社ある各送り出し団体へはCOVID-19対策を実施し、準備するように指示。
因みに昨年の実績は78,641人で計画達成度は約60%。また海外に出たものの帰国できずに留まっている人は約2万6千人だとしています。

今年1~3月の派遣実績を見ると、この様な情勢であっても前年同期比で8%の減少にとどまり、29,541人(女性12,022人)となっていて、年間計画目標の32,8%を達成。このまま推移すればほぼ予定通りと報じています。
派遣先では感染が押さえられた台湾が安定。明るさが出始めたのは受け入れを停止していた韓国が一年振りに再開。ベトナム・社会省は韓国・雇用労働部と覚書を締結し、本年は8200人を送る事に合意。この殆どは製造に従事する要員で、その一陣として24人が4月20日渡韓したとあります。
さては日本。昨年12月末にはベトナム人が15,454人。1月に入って緊急事態宣言が出され、水際対策が不十分と言われながらも外国人の入国を認め、この内ベトナム人は19,905人。これは何を意味するか。然るに労働者不足から技能実習生の入国に便宜を図ったとしか思えない措置の他ならない。
だが2・3月は急激に減少しています。現地送り出し機関からやっと実習生を送る事が出来たとメールがあったほどだが、現在は休業を余儀なくされている。
この時期は緊急事態宣言下。日本国内は信じられない厳しい状況で、この後に3波、続いて4波。変異株で感染者が急増する注意が専門家から提言されたにも拘わらず、菅首相の甘い状況判断と危機意識の欠如にはあきれる。
この不自然さのワケ、海外からの労働者受け入れが真意とする向きもありますが真相はグレーのままいつの間にかうやむやに終了。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生