こんな中で、ようやく最大の実習生を送り出しているベトナムで3月23日、国内で初の特定技能試験が行われました。しかし受験者は僅か24人。このうち日本で実習生を経験した人は20人で、彼らの日本語能力にほぼ問題がない。またある程度の仕事や生活できるだけの適応性もあります。
この元実習生の受験も思った以上に少ないという向きもあるが、恐らく彼らは日本に戻りたいと念願している少数派なのでしょう。でもそのまま日本に定住する積りのある人はどのくらい居るだろうか?
一般論としてベトナム人は家族主義的な考えの人が多い。このため再度日本へ行けば今度はかなりの所得が見込めるし、かつての職場の雰囲気もいい。確かにベトナムでの給与は少ない。だが無理して再訪日する必要はないと考える人が多いというのが真実かもしれない。
ベトナム国内でも家族と離れてまで遠隔地への転勤は、辞職してまで拒否する人が居るほどで特段珍しいことではありません。まして海外となればなおの事。
日本の大学・院を卒業し、そのまま日本人でも難しい有名企業に入社。しかし理由は様々あっても3年程で帰国する人は多い。就職当初から3年で帰国しますと言う留学生も居ました。これも同様のケースと思われるが、このあたりの日本人とは異なった意識・感覚からみて大きな期待を掛けない方が良い。
だが問題は今回の試験では公募で受験した人の合格が無かったこと。このため次回の見通しが立てらないという。この理由、日本語のハードルがネックだとするが現地事情を知らずに考え方が浅かったという他ありません。こんなことは初めから分かっているのだが、これは他国でも同じ事。課題としてどういう対策を講じるのか。既設の日本語学校が特定技能予備校を造れば別だが。
このままだと結果として、元実習生の受け皿に終わってしまう可能性が高く、公募で合格者が無いとなれば大幅に人材の調達が出来なくなり、鳴り物入りにしては絵に描いた餅になってしまいます。
実はこのような制度ができる前から、HCM市では日本から戻った元実習生の再教育をどの様にするか、習得してきた技能などをどう活かせばいいのか検討しようとしたことがあります。
しかし時期尚早であったし、一旦戻った人が相応の技術を持っているとしても現地企業では貰える給料は多くない。彼らが望むのは日本で稼いでいた金額が頭から離れずに、ミスマッチ。こうして幻に終わりました。
仮にこの様な人の日本再就職が可能なら、名目はどうであれ必要な人材が集められることになり、雇用者、求人側双方にメリットがあるに違いありません。
その前に海外での公募に関しての問題を洗い出して再検討すべきです。
・なぜ帰国したいと考えるのか
COVID-19禍で帰国したくてもできない人は多い。便数が少なく、政府が用意した特別便は早くに満席だし、運賃もかなり高額なので諦める。長期の隔離費用も自己負担で痛いから、仕方なく残っているだけ。
家族主義は先に書きましたが、直接話を聞くとこれだけが理由ではありません。
多くの人は日本という国に魅力を感じている。ところが実習生の中に短期間の出稼ぎ感覚の人も居る。仕事を始めると思う以上に厳しくシンドイ。愛のムチは通用せず、無知で叱られるのが恥ずかしく一年間を泣いて暮らす人を聞く。渡航に使った借金があり生活費を切り詰める我慢の毎日。仕事に追われるし、楽しみは無く、日本の生活・文化も合わない。貧しくてものんびりした田舎の生活に戻りたくなるのはやむを得ない。
受け入れ側も外国人従業員をどう扱えば良いか分らない。大手企業では大卒者でも仕事を任されず技術やビジネスが身に付かないとするが、給料は結構あるし寮費も安くて貯金や仕送りもできる。だが目的を無くし段々孤立して行くが相談できる知人もいない。過信や考え方に甘さがあり、それはチョット違うで、との例もあるが帰国を望む人がいても可笑しくない。女性は順応力が高く残りたいと思う方は多い。
・社会問題として考えるべき時期では
今回COVID-19禍で露呈したのは、災害に遭った実習生に対する救済制度が無く、やむを得ず残留して生活ができないとか、困窮しても誰も面倒を見てくれない。また企業の倒産廃業で帰国できなくなった事情に対しても一時的措置すらない。
ではどうすればいいのか。何ら手立てを講じないのが彼らへの仕打ちです。
就労への緊急避難の道を閉ざしたにも拘わらず、新規の実習生は来日している矛盾がある。利用するだけ利用して古株は使い捨て。こう思われても仕方なく、不信感しか残らないのは当たり前。
人口が減少する日本。経済・社会を安定的に維持してゆく上で、変えなければならないのは実習生の受け入れ制度のあり方です。
先ず日本側の機関や企業が安価な労働力確保との考えを改めなければいけない。すでに実質的に世界の移民大国として事実上4位になっている。社会、企業の一員として同じ目線で共通の目標を目指す思考と志向が必要です。
もちろん送り出すベトナム側にもこれまで書いた様に多くの問題は多々ある。
需要と供給、夫々の利害と思惑の中で翻弄されるのは若い人たち。此処まで様々に問題が顕在化している状況とこれまでの経緯を踏まえ、国の将来も見据えて社会問題として真剣に論議するべき時期だと考えます。
国情は異なるにしても、ノルウェイのように言語を無料で教えるうえに5年間在住すれば永住ビザを発給する施策を採っている国があるのは一例で、これで移住したベトナムの知人が居ます。
この先ベトナムの発展に並行して自国に留まって就業や起業も予想され、将来実習生や留学生として若い人が日本へ行く必要が無くなる可能性もあり得る。
こうした危機意識が政府、企業にも全く無いのが不思議です。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生