CAO DANG  前回に引き続き

2021年10月14日(木)

現地の高等技術教育実習現場にはもう一つ実態が。教える方にも先進工業国の生産事情や製品が使われている状況が全く分かっていません。
世界の先端技術がどのようなものかを理解したうえで、先人から引き継がれ、発展してきた科学技術の歴史を学習。道具から始まり今に至る過程を知るのは重要なこと。今は幾らでも情報がとれる時代。
ベトナムが先進工業国化を目指しているとしても、また教育理念が立派であっても現場を観れば単なる口先だけの空論に過ぎない事が分ります。
教師が知らないから教えられないのは無責任。学生が一生懸命に学習しても、世界や時代が要求する標準にも到達しません。若者の意欲や情熱は大切だが、2~3年掛けて習得したことが無駄になる。要するに井の中の蛙。
こんな有様だと実際の仕事に役に立たないどころか、陳腐化した中途半端な教えを受けいい加減な知識を持つ人材ほど現場で使えない。

例えば建築関係。市内には建築に携わる人材を養成する専門学校があります。此処を日本の建設関係企業を案内した時に見たのが、数十年前に日本で行われていた工事現場の再現。ミキサーに砂、バラス、セメントに水を混ぜて作ったコンクリートを型枠の上に配筋した床スラブに打設する実習。
コンクリートの材料は何か、各材料の配合はどうなのか、いかにマメ板を作らないようにするかを知るための作業であればいい。だが日本ではレミコン車が設計強度、さらに要求されたスランプ値通りのコンクリートをJIS工場で製造し現場に運ぶ。また使っている鉄筋はデーコン(異型)ではなくSR(丸金)。結束はハッカーを使わない、スペーサーも無いのは余りに酷い無知。
さらにモルタル塗り。全体にひび割れを防ぐためか砂の量が多く脆さがある。壁をこするのも日本の左官職人のような凛とした仕事や芸術的に見えないし、職人が使う道具は使途に応じ様々な鏝があるが、此処にはその様なモノは無い。もっと基本的な事は図面の書き方が違う。建築方法も監督の指示も技術レベルも異なる、使う資材も違う。すなわち全てがベトナム国内でしか通用しない。これで日本へ人材を送りたいというはいささか不勉強と言わざるを得ません。

こういう実態があるので、日本の建設企業M社は今後も人材が継続して必要と考え、北部ニンビン省に創った国際職業訓練校で、4ヶ月間の実技訓練を経てその後日本へ実習生として派遣される。
学校では団体生活を送りながら必要となる日本語の基礎、日本の建設事業での安全品質と工程管理ノウハウ、日本式の施工技術・技能などを学習することとなっており、各職種は本人の能力や特性や職歴を考慮。とび職、型枠工、鉄筋工、内装工を選択する。此処ではさらに重要な事として仕事に対する考え方を伝えていますが、職人文化が乏しく精神性が低い人にとって必要不可欠。
また日本人の職人と人間関係で問題が起きないよう双方向のミュニケーションに配慮しているといいます。

日本では建築関係に携わる職人が減少、さらに追い討ちをかけて高齢化が進み人手不足。だが若い人はかつてのように組に入って親方の下で働き、仕事を眼で盗みながら雑用から何でもこなすのを嫌がる。こうしてようやく一人前に成るのが10年と言われるほどだが、今の時代ではすで死語に近く、日本でさえ職人を短期間で養成する官民の学校もできている。従ってベトナムで行っているこの養成方法は日本の工事現場でも通用するはず。

日本は建設従事者不足からベトナム人を技能実習生として採用する会社が増えているが、いずれの学校も日本へ卒業生を送り込むチャンス。条件のいい日本企業へ就職させたいと考え、このため日本語を教科として取り入れたいのです。
しかし折角学費を払ったのに日本で不要とされるのなら、むしろ余計な知識や使えない技術など持たない方が良い。愚の骨頂。日本語を習得、実習生として現場でゼロから仕事を学ぶ意欲がある素直な人ほど喜ばれます。

さらに実習生ばかりではなく、地方建設会社にとって技術者不足が顕著になり、図面作成、積算、施工管理というエンジニアリング部門でも採用が出来ず悲鳴を上げている状況であり、長期就労ができる高度人材の必要性も出ています。日本の大学で建築・土木を学んで帰国。有名なデザイナーになった人も居るが、日本で仕事をしたいという学卒者は多く、日本側も国籍に関係なく優秀な若手スタッフを採用し育成すると言う傾向が出てきている。
だが一般的にはまだ外国人技術者の採用に慣れていない企業が多く、就労実態や人材活用方法が判らないというのが実態。特に語学(コミュニケーション)の問題と、母国の大学で学んだ技術レベルは低く日本で通用するだろうか?
また雇用や採用から入国手続き問題といった不安や情報に乏しいのが現実で、なかなか採用に踏み切れないのです。
HCM市に労働省管轄の職業訓練学校、職業紹介をする機関があって訪問した。そこで聞いたのは市内には約1万名もの若い人達が仕事を探していると聞く。政府はこのため莫大な資金を使って職業を指導する学校の充実を図り、学生の就職を支援しているとの説明を受けたが、人は居るけれど、人材が居ない!と言うことなのか?
ベトナムはもうすぐ1億人の人口になります。だがかつて平均年齢が26歳とか言われたのがもう31歳になり、今後高齢化が進むと言われ、人口ボーナスのメリットも無くなるとされます。
人材と給与の安さが魅力で進出が加速したが、もはやインフレと賃金の高騰は避けられない。まだ中国に比べて差はあるが、労働生産性は低く組み立て産業という労働集約から脱することができないままです。
またこの30年間でGDPは40倍にも急成長したが、この原因は外資企業に依るもの。輸出高の70%を外資系企業で増える傾向。この様な成長モデルがいつまでも続くわけがない。何時かは限界が来るのは自明のこと。
国内企業は高度な技術や化学品を製造できないし、1次産品も研究開発がようやく認識され始めた。
この様な状況の中、COVID-19禍でサプライチェーンの見直しが声高に叫ばれ、白羽の矢がベトナムに、というが大学の研究でさえ経緯をみればお粗末だと言わざるを得ない実態。誰が想像するでしょう。
政府や民間企業が本気にならないことには、何時まで経っても世界の下請け、アッセンブリー国家のままでしかありません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生