労働力輸出がヨーロッパにシフトを始めた?

2024年5月9日(木)

労働傷病兵社会省・海外労働監理局(DOLAB)は発表した2024年度1~3月の第1四半期に海外へ派遣された労働者数は35,933人で、このうち女性は11,483人とあるが、前年同期から比べると若干の減となったと現地紙が報じています。なお3月単月では12,783人となっている。
国別では日本が最多で23,364人、台湾が9,781人、韓国707人と続くけれど、何かと問題があるにしろ圧倒的に日本が多いのは事実です。
また2023年に海外に派遣された労働者数は159,986人で、このうち日本が80,010人、韓国11,626人、中国1,806人となっているが、
日本がほぼ半数を占めるという結果でした。
前にも書いたけれど、今年の派遣目標は125,000人としています。

ところが、これまでベトナムからの実習生の受け入れは上記の通り、日本を始め、台湾、韓国などのアジア諸国が中心であったのだが、このところ事情が少し変わってきている、とする記事が現地から発信されています。
ベトナム政府は、実際には労働力輸出と称してその所管である労働・傷病兵・社会省に属する海外労働局が窓口となり、毎年派遣人数の目標を立てて海外に送り込んでいます。
アジア諸国の他に中東や正式に労働者を採用しているロシア、ルーマニア、ポーランド、ハンガリーなどの社会主義国にベトナム人労働者が派遣されている他、3年ほど前からオーストラリアの農場にかなりの高給で迎えられている。意外と思われるがベトナムからオーストリアへ留学する若い人も多いし、卒業後にそのまま残って仕事を得る人もいるという実態があるのです。しかし彼らが帰国しても能力を活かせる現地企業は事実少なく、賃金も低く福祉制度も完備していない。さらに自由に仕事ができる環境にもないという理由から戻ってこない人は多いのです。
時期が来れば、彼らのもとへ親が不動産を処分して現地へ行った人が居るくらいで、こうした状況は増えている様です。

さらに経済成長が続き、ベトナム政府はEUとFTAを締結、貿易量が増えて来た事情があります。そこに来てヨーロッパ各国の労働事情から、多様な業種や年齢に採用の門戸を広げている中、ベトナムからの労働者の受け入れも増えてきており、これまでのアジア諸国への派遣からヨーロッパにシフトする傾向が出てきたとしています。
こうなると困るのは日本。人手不足、特にエッセンシャルワーカーと言われる人材が全く足りない所に、こうした状況の変化が起きるとなれば、かつては憧れでもあった日本の影が薄くなる可能性が出てことは否定できません。
日本では法改正を行い、また実習生の制度改革を通じて待遇改善を行なおうとしているけれど、いつも通りのぐたぐたで中身の無い議論ばかりをして、安穏としている間にこうしたスキを突かれた感じであると言えます。

だがベトナム国内の問題として政府が捉えなければならないのは、若い人達を海外に送るということは、投資無くして外貨獲得の手段であり、また海外での経験を帰国後に活かしてベトナムの産業発展に寄与するというのはそれ程の効果があったのか。海外からの投資や外資系企業の進出をなお促進して経済発展を継続させること。COVID-19のパンデミックから、中国一辺倒に近かったサプライチェーンから脱却しその役割をベトナムが担う。こうなるとワーカーのみならず、技術者・研究者、高度な教育を受けた人材を国内で育成し経済発展を実現するという目論見との整合性は無くなってくるのです。
一帯何を考えているのか?まったく国の方向性に合理的素行が見えてこない。

さらに現地の送り出し機関では、これまでと違って海外には行きたいし金も儲けたいという欲望はあるけれど、人材が引く手あまたというものでなく、地方で探さないといけないとか、また以前は地元公安などのチェックが厳しかったのだが、今では頭を下げて地元の人民委員会に人の受け入れ協力を仰ぐとかしなければ集められなくなってきている事情がある。
かつて世界の貧困国とも伝われた1990年代に来日した人は、日本語ができるし勤労・学習意欲の高い人材が居たけれど、豊かになった今は明らかに様相が異なっている傾向にある。このため残念ながら志のある人だけでなく、入国後に問題を起こす人が多くなっていると感じるが、これは入管のデータを見ればその数字があり、連日の記事に呆れる位の事件・事故が載っているのはその証明。
さらに法務省の発表する1月1日現在の不法残留者数では、ベトナムは国別トップの15,806人と突出。昨年比で15,3%増加しているなど一般にはなじみが無いので分からないが、逃走して身を隠している。
こうした人はおよそ海外に居て、その国の法律や社会慣習などを守り、地域や企業と共生を図ろうとする気や努力する姿勢が全く無いのです。
必ずしも学力が高く、家庭環境も良いとかは必要十分条件ではないが、少なくても素養が必要だし、語学力を付けさせるのは派遣する企業の責務。こうした条件にクリアしないで送り込もうとするから問題が絶えないのです。
これは相手国の政府の責任でありまともな管理をしていないとか基準が無くナアナア体質から起きると考えられます。

4月のある日曜日、NHKの日曜討論で個の実習生に関する番組があった。
そこで関係する団体や識者が出演し、各自見解を述べられていたが、夫々の立場があるにしろ、一方的な考えが目立ち結局は解決への結論など出なかったのです。だがひとつその中で、派遣先の国がしっかりと規制すべきという方がいらっしゃったけれど、まさに正鵠を得たと考えます。
これは来日に際して決められた金額以外の法外な金をとられる場合がある。
このため借金した金員を返済しなければならないが、3年間でそれを上回るだけの稼ぎとはならないとするもので、現地の悪質業者を排除するにはその国の政府が何らかの規制や、何らかの不祥事があれば制裁措置を講じるべきというものでした。
こうした発言をネットなどでもみたことが無く、殆どは事件を起こしたのは日本の実習制度に欠陥があるとする前提論に立つものでした。また問題がある受け入れ機関に企業があるのに間違いありません。
確かに机上で物事を考える役人が描いたことに拠る制度的欠陥はあるにしろ、性質の良くない人物を起こり込んでくる事こそが最大の悪であるとする正当な意見を出す人はいなかった。
これは現地の真の実態を知らないからで、また経営やビジネス等で深く関る経験など無い人が多いように思えます。特に人権は弁護士とか大学教員などの肩書や同情論で世論に訴求するのは間違い。また番組がこういう人たちだけを招いて、実際の実習生受け入れ業務に携わっている担当者から日々起きる実情をヒアリングしないのは片手落ちだったと考えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生