ベトナム人の勤労意欲

2024年6月12日(水)

これまでに耳にタコができるくらい、何度聞いたことか。ベトナム人は手先が器用とか、真面目で熱心、仕事ぶりは日本人と似ているやら、まるで観てきた様なベトナムの話をセミナーでするものだから、多くの人が信じて来たのです。これをベトナム神話と筆者は呼んできたけれど、現地・現場の真の実態を知らない講師のでまかせに近い物語。何しろこういう方達は現地で仕事やビジネスをした経験はおろか、もちろん事業をしていないので従業員を雇ったり、仕事を教えたりした経験がありません。悪く言えば殆んど観光気分での現地企業や工場の視察。仕事や取引で苦労したことがないので分かる訳などないし、強力なコネクションもないので、所謂サクセスストーリーの切り取り。知人である何人かの大学教授など年に何度も来越するが全く同じ、分かったチャン気分で講義をしていた。学者バカとはよく言ったもの。だが現実はそんなに甘くない。
従ってセミナーで話をする内容とはヒアリングを纏めたものや、書籍とか新聞記事など整理したとか、掲載されている数字を羅列して如何にも成長しているからバスに乗り遅れるなとの叱咤激励型です。
ある銀行の支店長も社内誌で書いていた内容もこれらと同じで勤勉だとか書いてあった。赴任して僅かの期間、取引先企業へは訪問しているけれど、相手先の担当者が銀行の支店長に本当の事など話す訳などありません。また支店内は日本人職員が店内にいた試しは無く、ベトナム人の女性スタッフが入出金や送金などの業務対応をするだけで、彼らは日本人のクライアント(殆ど現地で自営をしている個人経営者か在住者)が来ても会うことすらありません。要するに本社と取引のある企業という狭い範囲での付き合いしかしていないので、本当の実態が分かる訳などあり得ません。現地の日本人社会は在外公館をトップに銀行・大手商社がハイエラキ―を君臨しているが、市井に飛び込めない彼らに生の情勢や事情、生活実態、まして地方の状況など伝わらないのです。
ネット記事をみれば分かるが、在日するベトナム人の連日のごとき犯罪の報道。如何に我々が想像できない程の悪行を重ねている実態が見えて来る。

では現地の労働者は自分の仕事をどの様に思っているのか、満足しているのか。
これまで筆者は現地のワーカーは労働力の対価として賃金をもらうだけ。仕事への矜持とか気概、職人気質や情熱など殆んど持っていない。気に入らなければ直ぐに辞めるとか転職、テトなど長期休暇が終っても戻ってこない無責任さ。また企業側も分かっており、操業も浅いので社員の育成や職業教育を行なわず、新卒者より経験者を採用し、即戦力を求める。としてきました。外資企業には会社を簡単に売り渡すなど経営観とか理念、独自の経営哲学にも乏しい。
5月に報じられたベトナム人労働者の仕事に対する満足度調査で、自分の仕事への満足とする回答が、東南アジアで最も低いという結果がありました。
この調査とはアジア6ヵ国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリッピン、インドとベトナムで行われたもの。
この中でベトナム人の4割が仕事と給与の安定を最優先事項と考え、3割強がキャリアアップと自己啓発を重視するとしています。
また回答者全員のうち98%が、仕事に意義を見出すことが重要がとするという反面、実際には満足していないとするのが21%。しかしベトナム人は11%と平均値を二倍も下回っている。
これに関して、労働者への動機付けの方策は柔軟な労働時間、健康保険と適切な賃金など労働条件の改善が重要としています。またベトナム人にはやりたい仕事と個人の責任が取れない、必要なスキルや実務経験が不足しているとある。

やはりね、と思わざるを得ないのは、こういう事情は現地でビジネスをしている者であれば平生のスタッフの仕事ぶりを観ているとか、一緒に仕事をするとか、食事などしていれば自然と見えて来るものであり、納得できるものです。
ベトナム人従業員と仕事していると、CAFÉのベトナム人オーナーは外国人が現場で一緒に仕事するなど見た事がないとコーヒーをご馳走になったが、自身の経験からは何時も通り普通のことなのだが、思ってみない言葉だった。
この時にカウンターでオーナーと話していたのがロッテの現法社長、間もなく日本が手を引き韓国ロッテになった際に辞め、そのまま在住されました。彼もまた同じ環境にあったみたいだった。恐らく日本人の多くは現地従業員に対して殊さら横柄な態度をとる人が少なかった様に感じます。だから日系企業には人気が高く就職したい人は多いのです。
筆者は日系企業に在籍した後、現地で小さいながらも起業。来てくれた従業員に時折、衣服やサンダルを渡し、日本語学習の費用などを払ったことがある。
真面目な仕事ぶりを認め、この先に何かあっても身に付くなら語学など良いかなと思った。けれど理由はあると言うが、どこまで本当か分からず辞めてゆく。モノが満たされれば良いという気持ちでは決してないが、少しづつ育てようとしてもこの有様。結局先が見えない、将来への不安、給料で生活できない等々、個人差や家庭の事情も複雑に絡むけれど、またこちら側も彼らの期待にそぐわなかったのでは?と言えなくない。
だが何故、この調査結果の様に客観的にみても仕事への満足度が低いのか?
この国でも結構金持ちは多い。一部であるけれど、外国人よりむしろこうした人の方が同朋を、たとえ親族であってもある程度の成功を収めた人の中には、同郷同門の人間でさえこき使うとか、下に置く傾向は実際にあるようです。
必要なのは都市部で安定して生活でき得る収入。誰だっていい生活をしたい。また能力を活かせることが可能な企業。地方出身者が大学を卒業してUターンすることが滅多にないのは、働ける場が少ない事に尽きます。
企業に社歴が浅く経営土壌が醸成できていない。だから社員を育成する余裕も風土もありません。若い人の起業が多いのはこれも一因になっている。
もっとも、企業に属していても仕事に満足できない人が多いけれど、職場環境の整備ができていないこともままあって、徐々にヤル気がそがれて行くのだが、これは資格制度や標準が無く、評価も公平でないのも原因だと考えるのです。
となればWジョッブで金を得ないと生活が苦しく、勉強して資格を取れば手当が付くとか昇格・昇任が望めるという訳では殆どありません。
ベトナムは転職が多いけれど、このようなビジネス社会の現状に問題があるし、社員が仕事に意識や情熱を持つ、或いは職人がもの造りに意欲に気概を持つ、これは極めて低いと思わざるを得ません。だから自分で語学を修得して外資系企業に行くとか留学。こうして差が開いて勝ち組となるわけです。

別の記事だが、こうした調査があったけれど、新型コロナで失業した40歳代の男性は再就職に苦労し、8カ月経っても仕事に就けなくて恥ずかしい想いをしているとある。
会社からの電話やメールを待つ身のストレス。面接を受ける時にかなり年下の社員が仕事への能力などの質問を執拗にするので恥ずかしいとするが、会社の多くは即戦力を求めている。日本のような新卒定期採用は少なく、教育や育成システムも殆ど持っていない。恐らく彼の場合、少なくとも学歴と実務経験は会社が求める採用基準に達していないとも考えられるのです。

ベトナムでは多くの場合、何にしても人脈やコネクションが大きな力となる。当然大学卒であれば、今この40歳代後半の人はかなりエリートのはずです。このパワーの大きさと広さは経験が無ければ考えられない程で、このグループの関係者同士はまたそれなりの強いコネクションを持っているので、限りなく縁は拡がります。これが人治国家と云われる一つの理由。
現地でビジネスを始める場合、こうした民間レベルでの高い人脈を得ることが、極めて必要不可欠だが、金銭が絡まぬ関係構築が大切。実際にこういう場面をみなければ納得できないが、様々な場面で頼る必要な時があるかも知れない。だから重要人物からの依頼や縁故での採用も大事なのです。
省庁も同じ。ある外交官のご子息は外務省に入ったが、上司に依頼していた。世襲制ではないけれど、こういう事例もあるにはある。だが世話になれば何れそのお返しはしなければならず、輪廻が続く次第。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生