起業したものの上手く行くのは結構難しい

2024年7月25日(木)

近年の起業傾向だが、起業は規模が大きくかつ資本力も上がってきているのが見受けられるけれど、全てがそう上手くコトが運ぶものではありません。
従って、大臣が考えるように成功(継続)率が低いのを憂慮する必要はなく、それこそ千三つ、多くの人が熱意をもって挑戦することが成功に繋がるので、この環境作りと支援を行なうかが重要。しかしあくまでも相手任せ。気にするなら金を出せだが、カネも出さずに知恵を出せでは何も始まらない。
これは個人が海外で事業をしてみたいと思う気持ちと殆ど同じ。だがイザ現地で起業しても、役所での申請とかビジネス習慣や言葉の壁、人材の問題等々、予期し得ない事情やアクシデントが次々現れ、努力しても開花しないのが現実。多くの日本人が一定の技量や知識を持ち、経験、努力をしても現地で役立たず。運とか縁など、見えない神の手中で動かされている様に感じる場合があります。好きで来越、始めるのも大事な要素だが、やはり的確なアドバイスやコンサルを受けることも時には大切で、さらに勢い張り切ってもやれるものでは無く、ビギナーズラックなど考えず、先ずは現地のあらゆる環境に慣れることが肝心。規模が違えども進出する企業も全く同じ、担当を任されホッタラカシにされた現地駐在者が最も苦労する所で、上司は責任逃れが相場とくる。

急激に発展するベトナムのデジタル経済とネット販売の中で、留学組が起業し現在では政府の仕事を受けるとか、日本の大企業から受注して事業を拡大したケースもあるが、これは極めて稀な大成功事例。能力のある頭脳の結集であり、用意周到に準備、留学の際の語学力をフルに生かした結果であり、時流を掴み、海外経験から編み出されたと考えられる。国際感覚とビジネスセンスは必要。
だが一方でやれる範囲での小規模なチャレンジが未だ多い。こうした小さな芽は大切ではあるけど、経験上、現地の優秀な人が理想や理念を持ち、また伝統に基づき始めても実際には長く続けられるものではありません。
また農産物では有機野菜やベトナムの原材料を活かした製品で輸出を試みるなんて人も居るけれど、軌道に乗せるのは並大抵なことではないのです。
多くは個人で行うしかないが、一部で日本政府などの資金援助を受けて、例えばメコン地域での農業近代化で日本企業の支援、と大学が協力して事業を継続して行っている実態があっても特例と考えるべき。
国内で原材料の調達は難しくはないけれど、輸出となれば相手国の状況や思考、マーケティングと販売先(代理店)な確保など、一朝一夕では済まないのだが、今はネット社会。あるいはこれまでの関係先の支援も含め、これを武器に輸出を試みたても上手く行かなかった例もあります。
実例を挙げると現地の大手食品関係商社の輸出部門に居た女性役員。意を決し、有機野菜を中心としたスーパーとレストランを外国人居住者が多い7区に出店。語学力もあるし、元々度胸が備わっている。加えてこれまでのビジネス経験を活かせるだけの能力に資金力はありました。
これから先は食の安全という女性らしい思考、コーナーを作ったのだが顧客は思うほど増えない。また日本語で記したベトナム製食品を開発、これを日本のコーナーを造って置いたが売れない。考え方はいいのだが集客が出来ないのは知名度とアナウンス効果が欠如していたのかも知れないし、時の運もある。
小売経験が無かったのも要因だし、勢い会社を作ったが、日本人とか外国人に向けての発信ができていなかったのかも知れません。もっとも現地の人の多くにとって品質は良いけれど何しろ価格が高すぎる。近年は有機野菜が評価されているが、イノベーターと成るには時流が早かった。半歩早ければいいけれど、一歩先は出過ぎという道理そのまま。地盤や業績を作ってから徐々に事業を拡大する戦略なら正解だったが、頭脳明晰が仇となり、一気呵成とか焦りは禁物。
日本でアジアフードフェアにも参加したけれど、日本企業からの引き合いは無かった。まだベトナム製品への認知度と信頼度が低かったのかも知れません。

また一時期に流行ったココナツオイル。製品は確かに良いのは製造者がHCM工科大学機械科出身者で、熱を加えない方式で製造。これはベトナム初だった。空港でも販売していたが、マージンが高過ぎる。輸出を思い立ち、兼ねてから知り合いであった大阪の経営者を通じ、老舗化粧品メーカーに打診。担当者が気に入って新規部門で扱うことが決まりイオンで販売予定となったが、筆者は遅過ぎると反対した。担当者サイドで問題なかったのにやはり横槍が出て来た。要は取引(営業)慣れしていなかった。ベトナム人はアドバイスを聞かず失敗が多いし、忠告すれば黙ってやる。真面目、素直は表向きで実は勝手気儘者。

また薬学専攻者はベトナム伝統医薬の研究者で、現地の高名な学者を信奉しており、その伝統農法で薬草栽培を行ない、販売しようと起業。だが売れ筋は限られるし多く採れない。真面目な人だったから惜しいけれど続けられなかった。

他にも幾つも事例はあるが、多くの人は真面目で熱心に取り組もうとしていた。だがやはり何かの関門がある。ある程度まで進んで認知されると良いと考えるけれど、其処まで時間と金が続かない。こうした理由が継続できない原因かもしれない。これをみるとビジネス社会の未熟さと企業歴史の浅さを感じざるを得ません。しかし彼らの救いはベトナムだと挫折しても復活し易い環境がある。社会的敗者ではなく、幾度も挑戦できるが日本と大きく異なっている所です。
日本なら失敗するとなかなか立ち直れない。日本人にとって必要なこととは、社会的寛容さでなかろうかと思えます。加えて時間を掛けて地道な研究を続けるには企業・経営者の理解が要る。長い目で見なければならないし、現場をよく理解できている上司でなければ続かない。

ベトナムは国全体としてみれば、大学発の研究でも学生同士の熱意から生まれたものがあるけれど、資金支援が大学とか企業、自治体から出て来るものではありません。いわゆるインキュベーターとか投資家に財団の支援、企業や団体からの交付が望める訳では無く、苦戦しているのが実態です。
こうした中で最近話題になったのが、バナナの皮からリチウム電池を製造することに成功したという。本当ならまさに画期的で発想そのものが素晴らしい。
これはハノイ工科大学、国民経済大学、貿易大学というベトナムで優秀とされる大学の学生10名のグループが行ったもので、元々はバイオマス燃料の原料研究から発展。何とリチウム電池を生みだしたとする話題があります。
これを彼らはバナテリーと名付けたというのだから、これも若者らしく面白い。
継続は力なり、とか失敗から世界的な発明が生まれる、の通り、だがベトナムならではの事情、廃棄物であるバナナの皮というのもアイデアで、瓢箪から駒でなく、結果的に研究と努力の賜物で、評価されていいと考えます。
これは大学の研究室の中でというもので、製品化して世の中に供給できるのは先であろうが、このためには大規模生産手段と原料調達、製造コストと利潤という課題をどう乗り越えるかが課題となってきます。学生ならではのこと研究段階ではバナナの皮集めに苦労したとあり学生にバナナを食べ続けてもらったなどの協力があった。このまま事業化すれば大学初の起業になるかもしれない。
この研究成果はハノイ市の共産党青年団でスタートアップシティーコンテスト2024年緒は度最優秀賞を獲得したと報じられている。
起業の成功が難しいのは何もベトナムに限ったものでなく、日本も同じで長い時間を掛けて研究の末ようやく開発できたというものも多い。こうした成果とは本来、企業の事業体制の中で資金と設備など研究環境が整ってこそ完成するもの。それだけにこの苦境の中での学生たちの成果は賞賛できるものです。
日本では大学発のスタートアップなんていう現象が近年際立っているけれど、時流が要請する新技術などの開発の中には、企業と所謂産学共同での成果で、時には此処に官が入ってきて、産官学共同なんて事業も増えてきました。
かつて大学は学問研究の場で、産学協同は学生運動で槍玉に上がり、悉く否定された時代がありました。しかしいまではこの大学別スタートアップの多寡が選別の理由にもなり、偏差値から脱却する切掛けになってくる可能性もあるのは良い現象なのかもしれません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生