現地の経済ニュースに掲載されたのがこのタイトルの記事。今更ねと思うが。
世界銀行の最近の報告書では、ベトナムの労働生産性は2010年から20年間で64%の増加、これはどのアジアの諸国よりも上昇したとある。
しかしアジア生産機構のデータでは、2020年のベトナムの時給労働生産高は僅か6,4ドルで、タイの14,8ドルの半分にも満たず、シンガポールに至っては68,5ドルと10分の1にもならないとあります。
これ等の数字が発表されて、その正確さに疑問を持つ人もいるし、国の労働力を反映していると主張する人も居て、激しい論議を巻き起こしているという。
要するに本当に国の現状を理解しているのか否かだが、どう見ても怪しい。
ベトナム経済研究所のベト所長は、労働生産性の数値は労働力の競争力や潜在能力を正確に反映しているものでは無いとします。しかし、それにも拘わらずベトナム人労働者の質が平均よりも低いことを認めているという。
この理由に関して、ベトナムは農業国からシフトしたばかりなので専門的でない考え方や習慣が根強く残っていると説明しているが、ある程度の理屈はある。
またユーロチャム・ベトナム副会長であるのタン氏は、ベトナムの職業訓練の欠如は企業にとって課題であると語っているが、どうすべきなのか論評はない。
事実統計総局のデータに拠れば、職業訓練を受けた労働者は5200万人の内僅かに27,8%に過ぎないとされている。労働者のスキルと企業の要件の間にミスマッチがあり、特にエンジニア部門での専門部門で大きいとされる。だがこれも先進産業(事業)分野では人数も質的にも違いがあるのです。
さらにベトナムは大きな労働問題を抱えるが、これは従業員の15~20%が就職した最初の1年以内に辞めてしまうという高い離職率であるとする。
しかしHCM市職業教育協会のトアン副会長は、生産性の低さは労働者だけの責任ではないと話している。即ち生産性はビジネスや労働条件にある程度依拠すると指摘。企業は福利厚生や教育訓練に殆ど注意を払っていない。そこに激しい仕事をこなすとなれば離職率が価格なるのは当然だし、必要とされる熟練労働者の雇用も困難になる。と説明している。
訓練プログラムはスキルや専門性の向上だけでなく、労働倫理や前向きな考え方を促進することも目的だとする。また労働者と企業の利益のバランスをとることを目的とするべきだといい、これが労働生産性を高めるカギだと結論付けています。多くの労働者が雇用を求めて移住。不適切な労働条件や生活環境に苦しむことが多く、これがまた生産性に影響しているとしています。
要するに、企業も労働者はどっちもどっち。おまけに無策の政府でしかない。
企業現場での実情。タン氏は自動車部品メーカと購入契約を結んだ後、注文が遅れているとの通知を受け取った。契約締結時に彼はこの一環として技術者を訓練し、必要な部品の製造を支援した。しかしサプライヤーは遅延の原因とは従業員が頻繁に辞めているとしたのです。供給の遅れは、企業業績はもちろんだが、多くの投資を呼び込むことに大きなダメージを与える。だがHCM市や隣接のドンナイ省、ビンユン省など、南部の主要都市の労働者の考え方を理解することになったという。この地域の労働者の80%は他の省から来ており、彼らの多くは転職を、よりよい機会と高い収入を見つける手段としているだけ。
短期的な利益を重視する傾向にあり、それがベトナムの生産性が低い原因となる理由のひとつだという。目先の事しか考えない国民性が現れているのです。
この感情は転職経験のある人に共通するが、ある女性工員、過去7年間で5回転職したが収入は増えなかったという。業務は電子部品の組み立てで、生産量と品質の両面を満たさなければならない。休憩は10分でストレスに晒されているタイトなスケジュールという。物価は上がるが給料は増えないし、昇進する可能性も無い。こうして僅かに高い賃金や福利厚生を求めてどんどん転職するけれど、結果は大して変わらない。そこで一念発起して中国語を学ぶことにしたという。30歳を目前にして解雇されるまでにもっといい仕事に就きたいと考えた。良い所に気付いたのは立派だが、転職の多さは言い訳に過ぎません。
要は個人の資質にも拠るが、歪な転職文化があり具体的な解決策はありません。
こうした状況の中で、先ほどのタン氏は生産性の低さは一部には企業に起因していることが分った。そこで労働者をキープし。熟練した人材を育成するためにある戦略を実施したという。先の部品製造で失敗した経験から、北部の部品製造企業と提携。この理由、北部の労働者は仕事の安定と家族の近くに住むのを優先する。賃金事情は大きくないが、離職率が低いと考えた。これで納期画家に会うようになった訳だが、ベトナム経営者自身が労働力の有効活用の仕方を充分に理解していなかったという。だが南北問題が解決した訳でありません。
これまでにも何度かベトナムの生産性は低いとされてきました。この現地記事には製造業に関連した現地に置ける特別な事情を書いている。
此処に指摘されているのは現地で事業をしたり、現地法人でベトナム人従業員を採用したりして、モノの生産やビジネスを経験した人は大筋で間違いないと感じる所と考えます。
ある日本人経営者は、変える必要があるのなら、それは経営的な視点だという。
職業訓練に関していえば、地場企業の関心度は絶対的に低い。これは記事にある通りで、作業に必要なスキルを製造に入る前、十分に行うかと言えば多くの場合そうではありません。教えた所で真剣に仕事するかどうか疑問、少し慣れると一人前と勘違い、少しでも賃金が高いと転職する節操のなさがある。
またこうした場合、会社や同僚が困らないようにとの配慮など一切しない。
何の連絡もなく辞めてしまうし、携帯電話も通じない。こんな状況にあります。
双方が疑心暗鬼で、企業にも理念とか風土が無く、労働者にも道理や節度など求めても無意味。いわば身勝手同士、だから多くの企業は年中従業員や労働者を採用しければならないのです。
就職するというのは、日本人が学卒はこの会社に入りたいという希望が前提で選びます。だがベトナムでは多くの人はこういう企業ブランドではなく、如何に給料が良いとか、福利厚生、例えば工場勤務なら給食が良いなど単純な動機でしかない。かつては日本企業の制服を着て出勤、これがひとつのステータスでもあったけれど、時間の経過と共にわずかな賃金差で転職ごっこが始まる。
筆者の考えるのは、専門性が低いとされるのは、一つに矜持が無いことです。
何処に勤めるのかは別にして、その仕事に誇りを持っていないし、職人としてモノを作る仕事ならば引き継がれた伝統を重んじ、情熱を持って取り組む姿勢に欠ける。目標や計画もなく、何に取り組もうとすら考えない。中には語学など費用を払って夜に修得する人もいるが、自ら勉強しようとする人は多くない。歴史的にその日暮感覚が身に付いて、仕事するのは単に金を稼ぐ手段、生きるため対価として賃金という考え。だから向上心に欠けるのは当然の帰結です。
国家資格も無く、競争が無いのも企業、技術者などのスキルが上がらない原因であるし、これで以って給料が上がるならば勉強する人は出て来る筈です。
かといって企業も社内資格を設けて競わせ、結果として企業の業績やイメージが上昇するなんて戦略的思考もありません。
日系企業の職員の転職は少ない。これは給料が安定、一般的日本人の性格から従業員とのトラブルは殆どない。駐在員は比較的面倒見がよく親切、信頼関係はあると思えるが、余りにも浪花節過ぎると単なるお人好しバカ。欧米の様にビジネスライクも良くないが、一部の中国・韓国企業の様に現地職員を見下しトップダウンが絶対というのも問題。また恩や義、信に疎い人が男女年齢を問わず多いのは経験する所で、これは貧困から。能力を過大評価し性懲りもなく給料増を求める、応じなければ転職する強引な従業員、権限がなく勝手に判断するなど結構多く人は見掛けに拠らない。家族中心主義も行き過ぎると支障があるのに連絡なく休むし、その言い訳や平気に付く嘘にも腹が立つ。自己勝手を気にも掛けず、いい加減さはやはり民族性かと考える。採用は慎重を期する。
職業訓練に付いては政府が未熟だと認めており、日本の高専制度を導入するに至っています。ベトナムにも職業訓練を行い短大があり、ある程度のスキルや語学を修得させて海外に送っている。またHCM市でも直轄で訓練学校があり、遠方からの学生には寮も用意する程。だが全体的に外資企業で通用するだけの技量が最低限でも備わっているかと言えば其処までいかない。
経済研究所長が認めるベトナム人労働者の質が平均よりも低いことは、海外と接点のある商工会議所の人などは以前から解かっていることで、政府の所轄が井の中の蛙でしかないだけ。だからこうした記事が出ても社会が変わらない。
農業国からシフトが原因で生産性は低いとするが、では農業関係でも先進先端のR&Dが行われているか、ITなど活用して先進農業を実践しているかと言えばそうではない。やっと大学と日本政府や企業との連携が始まったばかり。
また産業構造の変換を睨んでも技術者の技術のばらつきも多く、常に人材が足りない実態。優秀な留学人材を大手企業の役員でも使い熟せない問題がある。
さらに経営者と役員に上級管理職の間でも能力格差はかなりある場合も、上場企業の内実であり、海外留学し学識も見識もある社長にとっては悩みの種です。
即ち役員など経営サイドの人物でさえも立場に合った経営力があるかと言えばそうでないこともあるのがこの国の企業実態、これを理解している人は少ない。
此処で問題となるのが海外労働者の派遣で、政府が自ら年間計画を持って海外に派遣し投資無くして外貨を獲得する手段。海外で得た技術などを持ち帰って地場企業でこれを活用するなんてお伽話。こんな時代ではもうありません。
根本的に地場企業が出す給料など思いもかけない程、望み薄でしかないのです。
実習生制度は双方の国に利点と補完作用があるけれど、徹底的に排除して自国で養成し、国内で就職させるのが理に適っている。これを実施するために教育制度を基本から改めないとならないが、それでも物作りや、IT情報通信関連など先端産業向けに将来は有望だと考えられます。何故これをしないのか。
こうすることで産業の変革に対応でき、付加価値生産と新規事業が可能になる訳で、結果として国力と生産性は絶対的にあがります。直的視野に立って物事を捉えないから、何時までも利権にしがみつくようなことになる。
ベトナムは経済成長と遂げており、未だに外国からの投資は多いし、貿易も伸びている。逆に言えば自国で産業を興そうとか、自助努力して研究開発を行うとか、教育に多額の費用を投入して優秀な人材を育成するなどの考えはない。
外資系企業の投資と進出を今以って希求しこれが国の発展だとしている。
したがって輸出に占める地場企業の製品割合は30%を切っており、しかもこうした状況は続く可能性は高いのです。自国で輸出する製品は付加価値が低い一次製品が多く、また繊維製品、靴履物などが多いけれど、これ等もこれまでの歴史が証明する所の新興国の典型的な姿です。しかも地場企業も日本、中国、韓国などに大企業にM&Aの憂き目。経営者がここぞとばかり売ってしまう。
企業や労働者に問題があると言っても、真の原因は国家戦略にある。本当の繁栄でなく、これを根本から変えるには無理過ぎる。所詮は豊かさに目が眩み、中途半端な社会主義国家に持って行ったのが大きな誤りと思うのだが。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生