ベトナムへ進出する上で考えたいこと

2024年9月13日(金)

敢えて外資系企業がベトナムに進出するうえで、人材リスクを回避するつもりならダナンを中心とする中部地域、南部メコン地域、即ち地方への進出も考えに入れるということは、重要な選択肢となり得ると筆者には思えるのです。
この理由は昔と違って道路や航空機など、交通インフラの整備は急速に進んでおり、物流と人の移動に関しては以前に比べるとはるかに改善されています。
また何よりも物価は安く生活し易い、食文化は豊かと来ている。今やベトナムは通信販売が急速に伸びているから、もはや大都会とほぼリアルタイムで同じ商品を手に入れることが可能になったし、この数年の間、スーパーマーケットやショッピングモール、コンビニが地方へ進出を加速している。さらに伝統的な小売り形態もしっかり残っていて、これはその価値が地方では必要とされているからであり、生活をするうえで慣れると日々の買い物も問題無く楽しい。
工業団地もこうした地域にも出来ていて、なにしろHCM市とその周辺部に比べると安いのです。かつては外国人自体が珍しく、工場建設と同じく現地に居住した日本人を地元の公安でもどう処遇していいか分からなかった程でした。
こうした地域は人材の宝庫でもあります。国立大学は地方に幾つも出来ている。
ダナンは隣接するトアティエン・フエ省も含め学卒者が多い。これまでは大学を出ても就職先や仕事が無いから都会に出て来た訳で、全体的にまた歴史的に教育水準はかなり高いのです。歴史的に紐解けば、また意外と第二次大戦前後は日本との関りも多くて、現在でも日本語が結構通用するのだから嬉しい。
さらにこの数年の間、都会に出て行った若者がなかなか戻ってこないという。都市生活への憧れもあったけれど、単調な仕事の上に満足な生活を送れるものでは無い。大手企業のワーカーだったが、COVID-19が理由として、解雇されて帰郷すると実家は天国だと気が付いた。もちろん何人かは元の鞘に収まっているけれど、窮屈な都会での暮らしにはコリゴリという人も結構いる多いのです。
要は工業団地へは実家からも通えるし、現金収入が何よりも魅力。殊更業務に戻る必要はなくなったという次第です。さらにこうした地方の省は海外企業の誘致に割と積極的と来ている。だからこそチャンスと考えられる訳です。
またメコンの出身者で日本の国立大学で博士号を取得し、帰郷して大学の教員となっている優秀な人材だって相当いる。もし都会であれば家族を持ってからイザ家を買うとなれば余程の給料を得ていなければ出来ない相談なのです。
また女性は地元に残る傾向にあるのが日本とは同じ。しかし能力に優れているけれど企業や働く場所が無ければこれまでの学業へ努力は無駄。能力があって語学も出来るけれど、思う様な生計を立てるだけの余裕はないから宝の持ち腐れであったのです。
だが国際病院などの医療施設には問題が残っているし、日本料理店に歓楽街などもないのでオアソビが恋しい人、日本食しか食べられない人、子供が小さいなど教育には不向きな面がある。しかしものは考えようでどうにでもなる。

昔のベトナムを解かっていても何の足しにもならない。急速に変化し続ける訳で常に新しい情報を得るように努めなければ錯誤してしまう。人材不足に加え自社が望んでいる業務に必要な人材の確保はこれまた難しいと考えるのが適切。
近年は多くの若者が留学しているのでこの人材を活かして登用する工夫が必要。1997年3月に初渡越した際、ノイバイ空港で出会ったベトナム人の若者は東京工業大学で建築を専攻。彼はフエ省の出身だが、当時は日本へ留学は簡単でなく精々100人いるかどうかで極めて優秀。いま50歳前後となっており中堅以上の重要な存在に成っている筈。出会いとかご縁は大切です。
さらに何時まで経っても旧態のままの日本企業の人事。これはいただけません。
現地化と一言で言うけれど、単に工場を建てて機械を設置、部品を送ってもらって組み立てる。指導は日本から送り込まれて大体3年程で帰国するのです。こんな図式が何時までも続く道理がない。能力を正当に評価して役職者や役員に登用する、任せるかが大切になってくる筈。こういう改善改革は必要です。

また最近では日本の地方県が急速に現地の省・市と進出協定を結び、県内企業の現地進出支援が活発化。知事自らが渡越してご満悦。遅ればせながらというけれど、二番煎じ、三番搾りを免れません。いったいどのような戦略なのか?悪いけれど行政の担当者に進出へ奥の手を持っているなど到底思えない。
これはさる東北の県職員が来越したときのことだが、県内有名地場企業の露払いの様だった。彼らは何も知らず、学習もせずに丸投げ、無責任丸出し。また九州の県関係者とは知人(出身者)と一緒に話をしたけれど、此処は進出ではなく実習生や留学生の県立大への受け入れを模索していただけ。
他にも県や市が名乗りを上げ、首長や職員が訪越したのは良いのだが、その後の進展など聞いた試しはありません。どだい行政が一丁加味するなんて無理な話で、最後まで責任感を持って面倒を見られるのか。打ち上げ花火をあげてもいずれ線香花火に代わるのは無理がある。
東京・大田区の様にタイの現地で工業団地を運営するのなら効果もあり利点は大きいが、何分この国は社会主義国、簡単ではありません。行政の言い分など何の足しにもならない。
この様な経緯があるので、僭越なのだが確実に現地事情をしっかり認識、将来的にメリットがあるのかを調べる義務がある筈。何時まで経っても見栄の域を出なければ足許を掬われる結果となります。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生