現地ニュースに拠ると、海外労務管理局は今年三カ月間の海外への労働者派遣に関する報告をまとめたところ、37,027人が海外に就職したとしており、今年度の派遣目標の28,4%になったと報じています。このうち女性は僅かに7,061人で約19%。また派遣国は日本が第1位で18,930人、2位は台湾で11,076人、3位が韓国で4,140人と例年通りの順番です。
また今年の派遣目標は13万人としており、この派遣事業を行っている企業は国内に505あると報じています。
今年の派遣に関して同局は、伝統的な海外労働市場への維持・強化を図ると共に、労働者のスキルと資格に見合った高所得を目的としてその拡大を目指すとあり、このために事前準備を行ない、積極的に労働力資源を開発し職業訓練と語学習得を奨励するとしているのです。そして全ての労働者は受け入れ国側の習慣、伝統、法的規制をカバーするオリエンテーションを受ける権利を有するとし、その必要性があるともしている。またこれと同時に労働者の権利と利益を保護する取り組みを強化し、帰国する人への就職相談や支援も行なうとしています。なるほど如何にも一見親切な様にも伺えるのだが果たしてそうなのか。
記事を読めば国は労働者を派遣する体制に変化はない。相手国、派遣企業に受け入れてもらうため派遣前に充分な技術習得と語学教育を行ない、現地の法律や習慣を守るようにすることを送り出し機関へ要請しているとあります。だが本当?と思いたくなる位よく出来たお話、なのだが実は大きくかけ離れている。
日本は一番派遣者が多いが、技術やスキルなどを持たない単純労働者に過ぎず、実習生として日本の技術を習得するとの考え方など微塵もなくあくまでも就労。さらに、近年新聞などに掲載されるベトナム人が関与する犯罪の多さを見ると、もはや外国で働くということに対して、相手国の実情に沿った取り組みを長年実行していなかったということであり無責任極まる、と思わざるを得ません。
日本で罪を犯すに至ったベトナム人は、全体からすれば一部の者だと思えるけれど、であるなら送り出し機関はどれだけの事前教育を行なったのか。これにはいささか疑問を呈するが、今更ながらこの様な記事が出ること自体、送り出し側のレベルに大きな格差がある証拠でしかありません。
労働者派遣を国の目標にし、彼らの得た賃金を国の収入として考えているのであれば、国が責任を以って相手国や、また受け入れ企業が納得するだけの技術や語学等を修得させるべきであり、これを放棄し送り出し機関に一任するのは間違っている。要するに彼らはコマの一つでしかないのが実態なのです。
裁判沙汰にまで発展したケースも多いが、これはまさに事前に精神的に未熟な若年者に対し何ら教育や告知を行なわず、放置した責任があるといえます。
また徒党を組んでの詐欺への加担、窃盗、同国人同士の血の争いなど言語道断。
日本の記事を見ていると、外国人労働者にとってもはや日本で働く魅力が無くなったなんて自虐的に書いているけれど、実はそうでないのがこの現地報から見れば分ります。確かにベトナムでの動きから欧州へ一部派遣も始まり、その他オーストラリア、ニュージーランドで増えたとあるけれど、建設、農業漁業、高齢者ケア、家事労働が多い。こうした労働集約に終了するベトナム人が80%占めているとあるけれど、しかしアジアの文化や習慣、思考、食事情などとは大きくかけ離れているためそれほど急激に増えている訳ではないのです。
円安であると言え、ベトナム人や他のアジア諸国の実習生以外の欧米諸国などから日本へ来る若者は意外と増加傾向にある。自国より給料が少ないとしても、物価水準を考えると充分。何よりも安全で安寧な生活が送れるうえ医療や教育も進んでいるし、表立って争いを好まない日本人や社会に問題なく入り込めるという人は実は多いのです。こうした事実を日本人があまり知らない。
ベトナムが世界の最貧国から一歩抜け、日本への大きな魅力は減ったにしても、自国にはない最先端技術にノウハウ、職人の伝統技に気概。国際競争力は低下しているが、品質管理、マーケティングなど学ぶべきことが多すぎる。
別の記事が証明している。政府の報告に拠ると昨年海外に居るベトナム人労働者の月収は韓国が1600~2000ドル、日本は1200~1500ドルで最も高かったのです。これは外務省の報告書によるもので、台湾とヨーロッパで800~1200ドル、マレーシア・中東だと400~1000ドルとある。
現在海外からの送金は40ヵ国で65万人から、年間35億~40億ドルあるそうで、最低賃金はニュージーランドでベトナムの約15倍、日本、韓国では7~9倍もあるため、多くのベトナム人は未だに海外で働きたいと希望する。
また管理職やエンジニアは多くなく、未熟練労働者が多く、契約期間を終えた不法就労が多く、他の海外で働く人の機会を妨げていると自国が警告している。
懸念するのは将来的にロボットやテクノロジーにとって代わられる単純な仕事が多い。この状況から競争力を維持するためにも、ベトナム人労働者はスキルと言語の訓練を受ける必要があると管理局の職員は語っていたとあります。
海外へのベトナム人労働者の派遣は継続するということであり、これまでにも問題点を幾つか述べて来たけれど、国内の産業構造変化に伴う高度人材の育成とか職業訓練、思考と創造力を高める高等教育には全く触れていません。
現時点、トランプ関税でベトナムは48%もの高関税を課される可能性があるけれど、これに関して自国でのR&D、企業経営力の強化。要するに自助努力で内需を活性化させるとか、生産性を向上させ輸出力を強化するなどの関心が無く、何時まで経っても単純労働者の派遣と、外国の支援と外資企業の投資による成長に頼るという愚策しか頭にないことが見えて来るのです。
・若者の10%以上が就業も勉強もしていない 骨抜きになる若者
産業構造の変化と所得に関連するのか?
もはや戦後の中で苦しい生活に耐え、貧困を分かち合った親世代に育てられた若者など居なくなりつつある。経済成長が徐々に進み社会が豊かになって行く過程で暮らした人が増えた結果、新たな問題が出てきたと云う記事がある。
統計総局に拠ると、ベトナムでは15~24歳の約10,4%に相当する135万人が雇用されておらず、教育や訓練にも参加していないとある。
2025年度第1四半期の労働雇用報告書では、此の数字は前年と比較すれば84,400人増えたと指摘している程に病んでいる人が多いという訳です。
引きこもりと日本では指すけれど、ベトナムでの若者割合は農村部で11,7%、都市部だと8,2%。また女性が多くて11,5%、男性は9,3%となっている。
因みにこの年代の失業率は7,93%なので、如何に多いか分ります。
ベトナムの15歳以上の人口は5290万人で、前年同期から532,000人増加し、この傾向は当面続いて行きます。しかし就業者は5190万人と推定されるが、これは前年から234,000人の減少だとあります。即ちこれは高齢化社会を意味することになりベトナムが人口ボーナスの減少傾向に入ったと云われる証明であると考えるのです。
セクター別にすれば、サービス産業が40,7%で最も多く、前年より60万人の増加で2110万人。工業・建設は33,3%の1730万人、農林水産業は26%で1350万人。この国もサービス産業に従事する人が増えたのです。
所得は2025年に改善の兆しがみられるとあり、労働者の平均月額給与は前年から131,000VND(1,6%)増え、830万VND(321ドル)となりました。また都市部では労働者の賃金が農村部に比べて約1,4倍で、1010~720万VNDで格差は解消されていません。
また省別でも違いがあり、ヴィンフック省は月平均で労働者は990万VNDと100万VNDの増加。これは外資系企業の存在がモノを言った訳です。
またセクター別ではサービス部門が良く、平均月収は990万VNDで前年から892,000VND。農林水産業は約43万VND増加したけれど平均月額は490万VND。工業・建設では910万VND、690,000VNDの増加となっている。
何処の国でも肉体労働者の賃金は労働時間が長く、天候にも左右され、かなりハードだが低いという特徴があり、ベトナムも同様。農業を継ぎたいという若者は減少しているという問題も共通しているのです。
働かない、勉強しない若者が農村部に多いと云うのは此処に原因があるかも知れないが、絶対数としてみれば解明できないほどの僅かな差でしかありません。何が理由なのか調査はないけれど、豊かになったため?
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生