ベトナムの2025年の給与上昇率 東南アジアでリード

2026年1月27日(火)

今年の経済は好調の様だし、外国投資も順調に伸びているとされるベトナム。これを裏付けるのは、COVID-19によるパンデミックから復活しつつある不動産市場の活況。バロメーターのひとつになるかも知れません。
地場大手不動産企業のノバランドCEOの給料が4億VND(15,200ドル)になったと現地経済ニュースが報じている。会長のニョン氏は以前に国内でも大金持ちの一人とされたが不動産不況で失速。だが復活した業績で1億VNDに回復したという。さらに上級社員にはボーナスとして発行済株式の2,5%、4870万株を分配したと現地ニュースが報じている。上昇気流に在れば株式の譲渡は嬉しいけれど、売りたくても会社の目があるから長く居たければなかなか売りにくい。まあ頑張って、業績を上げれば株価も上がるョ、という暗示。
上期は6,660億VNDの損失を計上し、運営資金が無く私募債の発行という危険を冒したけれど、時の運が味方して、降って湧いた様に復活を支援した。
しかし実際のところ、保有する資産(土地や建物という販売用不動産)がどれだけあり、有利子負債は幾ら存在するのか、人的資源である従業員は相当数が辞めたけれどどれくらい戻ったか。だが彼らは歩合給、経営陣と違い馬車馬のようにチラシを配りメールを送って働くが成績が悪いとどんどん辞めて行く。
今後の計画などは記されていないので、下期にこれだけの大判振る舞いを何故したのか、出来たのかなど分らない。こんなお手盛りの様な分配をする企業がもし日本であるのなら、絶対に何かおかしいと見られても仕方がない。

其処に来て今年のベトナムの賃金上昇率は、東南アジア諸国の中で高く7,7%となっていると他国の例を挙げて発表されたが、プロフェショナルサービス社、Aonの最新調査に拠ると云われ、現地の経済ニュースが報じていました。
これは今年7~9月に掛けて実施した東南アジアでの2025年昇給と離職率調査であり、インドネシア、マレーシア、フィリッピン、シンガポール、タイ、ベトナムの700社以上の企業の給与調査と離職率の分析結果だが、サンプル数が少ないのは信憑性に欠ける。
国別・業種別給与を見れば、シンガポールではライフサイエンスに医療機器に特色があり4,6%、ベトナムはテクノロジー業界で7,1%、マレーシアではコンサルティング、ビジネス、コミュニティ・サービス業界・4,8%とある。
Aonの東南アジア人材ソリューションの責任者は、現在企業組織が直面している課題として2つあり、それは東南アジア全域でテクノロジーと戦略的投資が加速するにつれて、組織は優秀な人材と高度なスキルを持つスタッフが増々必要になるが、実際にはこうした高度人材は常に不足している状況にある。
しかし業績を上げて維持するため、また他社に人材が転じないようにするに、給与など必要コストとして上昇が避けられない。このため企業はリアルタイムで市場を読み、成果主義や業績評価を用いた方法を採りバランスをとることが重要になってきているのが現状。

また離職率はこの地域すべてで二桁と高いのが特長。フィリッピンが20%、シンガポールは19,3%、マレーシアが18,2%と高い御三家となっている。
業界に拠っても職率に差があり、コンサルティング、ビジネス、コミュニティ・サービスが22,6%、小売業21,6%、製造業は17,5%とある。
さらにこの調査で企業の42%に従業員の雇用や維持に課題があると報告しているという。
筆者はこの調査がインドネシア、マレーシア、フィリッピン、シンガポール、タイ、ベトナムとされているのだが、国力や経済格差に社会制度、ビジネス・企業の歴史、経営者の国際ビジネス・センスとその経験値、また企業の民主度、産業構造が異なっているため、同基準、同列に置くこと、内容を精査せず数字だけでの評価は正しくないので単なる目安と感じる。

さらに63%がスキルギャップに問題があるとし、12%が短期的なギャップ、16%は長期的ギャップが在るとする。中でも情報技術、エンジニアリング、営業力は最も充足が困難だとしています。
しかし時代を反映する最も重要が高いホットな仕事は、営業24%、情報技術が24%、AIは21%、サイバーセキュリティ―20%、エンジニアリング19%となっており、デジタル化とリスクヘッジ重視の機能へ急速に向かっているとする。
これらの国は歴史的に海外企業の進出と投資で産業と経済が成り立っている。早くから外資系企業が進出してきた製造業中心のタイ、マレーシア、また国土が狭く、金融サービスと観光で先進国に仲間入りした華僑経済のシンガポール。社会主義国であり外国の支援と外資系企業の投資と進出のお陰。ここ20年でようやく安定して経済が成長してきたベトナムは、国有企業が足を引っ張り、民間企業が台頭してきたがその裏に国家があり、資本と経営は分離していない。
インドネシアは人口を多く抱え将来性が高いけれど、多島国家で島ごとに文化が違うし、政権はコロコロ変わるし、近年は強く中国寄りの姿勢も見せている。
フリッピンは独裁者政権と内戦が続いてきたが、海域で中国との問題を抱えていて不安定な政治。タイは政情不安。アジアは国家体制、言語に宗教も文化も異なり、共通認識を持つには乏しく、国毎に異なる問題を持っておりビジネス事情が違っていて一律でなく纏まる訳がないのです。
こういう状況にあるのだが、Aonは採用と定着の問題はあるけれど、殆どの企業は慎重であるが楽観的とし、従業員を維持し増やすことは可能だとしていると分析。現在の不確実なビジネス環境を乗り越えるため企業は生産性の向上を優先し、ターゲットを絞って採用を行い、昇給を実施、回復力があるチームを構築しているとしています。
しかし企業の事業歴史が浅く、国の教育制度を知り、従業員のスキルをみれば必ずしもそうとは言えない。ベトナムは急速に教育制度が発展し高等教育への進学率も上がってきたのを20年に渡って観て来た。だが筆者がこれまでにも指摘してきたのは、まず現在の高校教育は普通課程でしかなく、工科系、商業・ビジネス系、看護医療系、音楽系、その他何らかの職業系など分化しておらず、国家がIT化、 AI化を推進、あるいはカーボンフリーやグリーンビジネスを国家戦略として掲げているにしては、そういう教育課程は無く、大学教育でも先進国からすれば30年以上遅れているのが実態です。
さらに工業国家を目指していた時期でさえ、職業訓練を行う所はあったけれど、内容をみるとお粗末な限りで、これでどうして物つくり国家を国家戦略にするのか疑問だったが、実際に裾野産業を育成できるまで至らなかったのです。
ようやく日本の高専制度をベトナムに導入したけれど、自主的ではない。おまけにCOVID-19以降に世界の部品調達網の中国からのシフトに応えられるだけの人材、地場企業の生産力と設備は追い付いていないのが現状。国内で裾野育成は無理、という様な経済記事が出て来るほど足元が見えておらず浮かれていた。こういう現実をこのAonとやらが認識し、比較できているとは思えません。
では何故ベトナムの昇給率が高いのか。それは単純にベースが低いからでしかないのに、外資系企業の投資進出が増えており、上げなければならないだけ。
それに伴い形で専門職の確保さえできていないのは、現地経済紙を見ていると事情は呑み込めるのです。

・昇給が10年振りに低水準 だが人材安定への根本的原因は?

別記事だが、ベトナムの昇給調査で人材紹介会社のタレントネットとマーサーに拠ると、多国籍企業の昇給率は平均で6,3%、地場企業では平均6,2%とほぼ変わらないが、これは過去10年間で最少となったとあります。
これは国内678社を対象に実施、世界情勢を反映して慎重さと人件費引き締めの傾向にあり、来年もこのベースになる可能性を示唆している。
だが昇給を凍結する他国籍企業は半減したけれど、人材維持への取り組みでは、地場企業が4年連続で鈍化しているとしており、中でも保険は5,5%、運輸・物流5,2%、銀行4,2%と低く業種間で違いがある。一方上昇率が良かったのは化学、サプライチェーン、製薬で6,7%~6,6%と大幅な開きはない。
企業内でも職種や職能に拠って大きなばらつきがあり、有能な管理職を引き留めるため7%を上回る昇給を実施。だが肉体型労働者では3%とあるが、これはこの労働力が安定して維持されていると判断。追加して採用する必要がないということとしているのです。
こういう昇給のばらつきは、日本では個人業績と人事査定に拠るので、職種は関係ないけれど、ベトナムではかなりの差が出て来るのは筆者が在籍した日系企業であってもベトナム人スタッに対しては実際に幅がありました。ある意味経営者の恣意的な部分はあるかも知れない。

・離職の多さは解決できず 昇給率では変えられないのに気が付かない

だが問題は離職率。先の様な事情があるので従業員は警戒心を抱くといい一貫して低いというが、多国籍企業6,5%、地場企業だと9,6%と日本から見れば結構高い。従業員の安定雇用は必要と調査した企業の半数が回答しているが、経営側がそう思っても、雇用される方は矜持も無く勝手気ままに転職します。
理由は種々あるが、同じ仕事なのに同郷の仲間と比べ給与額がかけ離れている。工場では昼食を無償支給されるが、問題はその中身で他社に比べて良くなければ離職の理由になる。さらに新規入社時の教育制度は滅多になく、配置されたラインではいじめに遭う。ベトナムでは年1~2回の社員旅行を福利厚生として行うが貧弱であれば辞める理由に繋がる。多くの従業員は国内旅行に行けないので唯一の楽しみ。まして海外など考えられないが永年勤続者はいません。
要は些細な事で転職する。ある日本企業、優秀な社員を日本に研修という名目で行かせた。だが物の豊富さに目が眩み、欲しくてつい手が出てしまった。
これを知ってから海外研修は一切止めたと聞いたけれど、現地事情を知らない日本人管理者の親切心だったのに仇となり、何か勘違いしていた訳です。

如何に従業員、ワーカーをつなぎ留めるのに苦労しているかは分かるけれど、問題は充分な給与額はもちろんだが、人を人とも思わない態度をする人もいた。
また共通するのは、真面目に貢献しても立場は変わらない。日本人は3年程で帰国して交代するがその度現法社長の考えも違っていて苦労する。実際は現地のスタッフなど纏めるのはベトナム人管理者、彼が居なければ事実何も現場が回らないのに然るべき待遇に昇格は考えられない。つまり将来性が無いのです。
地場企業でも同じで、儲けは経営者のモノであり、これを身内が占める経営陣で分けるのだから堪ったものではない。こういう昔の考えが横行するのが実態、此処でも将来など無く何時まで経ってもワーカー止り、役員などに成れず良い生活は不可能。こういう現実がだんだん分かってくるから辞めてゆくのです。だから昇給で繋ぎ留めて人事を安定するなどは古い考えでしかありません。

・Z時代の従業員 同僚と給料に付いてはオープン!オジサンは理解不可能

これは今に始まったのではなく昔から。筆者が在籍した日系企業でもベトナム人従業員同士は誰が幾ら貰っているか知っていた。明細書を見せあっていたのです。あからさまに自分の給料は、だれだれに比べて低い。それ以上に仕事をしているとアピールしてきました。距離に応じて幾らかの交通費(バイク通勤なのでガソリン代を支給)日本の様に細かく手当は規定されていないから単純に月給から保険料の自己負担金は控除されている。だがこの保険料も、自分は若くて病気しないから勿体ないので引かないで欲しいと訴えてくるのです。

Z世代とは1997年から2012年の間に生まれた人で、現在13~28歳の人達。インターネットと共に育った人なので、なにかに付けて通信には詳しい。即ち筆者が初めて渡越した時に生まれたZ世代が誕生、もう28年も経ちます。
この人達はベトナムだけでなく世界的に給与は透明であるべきで、オープンが良いとするが、時代は変わった。
最新の調査では、Z世代の40%近くの回答者が職場で給与額を率直に話す傾向にあるとし、幾ら職場で制限しても話し合うのを辞めないとしている。中には経営者が禁止してもなお18%が辞めないというのはやむを得ません。
これは他人の給与に関心や好奇心があり、若い人ほど同僚の給与に関心が高くなるそうで、特に若い女性はその傾向が高くなるとある。
回答したほぼ半数の49%は完全にオープンであるべきと回答しており、給与を非公開することを好むのは僅かに14%。これは我々高齢者世代からすると考えられない。他人のことなど考えず自分なりに懸命に仕事してきた。
ところが専門家は給与の透明性は全ての人に利益をもたらすという。何故かは、オープンになれば公正かつ公平な決定を下さざるを得なくなると言うのです。
企業や組織が従業員に給与についての話をすることを望まない唯一の理由とは、従業員が何かを隠したいものがある場合と言われるとあります。専門家がなぜこのような主張をするのか分らないが、少なくても日本ではそのようなものではなく、大阪人の場合はそんなに深く考えず、あっけらかんと話をしている、古来商売の街であり、金銭感覚に取り分け敏感であるからこそ、比較的平気で話せる文化があるのだろうと思えます。
また企業の殆どはこれを依然としてタブーと見なし規制する場合もあるという。
地域に拠っても異なるそうでEUは3分の1が未解決のテーマだとし、アジアでは4分の1に過ぎないという。
しかし研究に拠ると、給与の透明性がもたらすものは、男女における給与格差を縮小することが分ったとある。また歴史的に有色人種の給与の低さがあるけれど、不平等性を打破する最良の方法の一つではなかろうかとしている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生