工場製品の横流し被害の実態

2024年6月27日(木)

現地報の記事。工場で生産された製品が横流しされると企業はパートナーに拠るキャンセル、金銭的損失、信頼低下、時間の損失など様々な問題に直面する。
実は結構深刻な問題で、地場企業だけでなく外資系企業でも自社のワーカーに拠る持ち出しが行われており、これを堂々と売る。こうした製品は夕方になると道端に置かれたシートに並べられ、格安の値段で売られているが、何とこの路上店は毎日「出店」され、その数は何十店にも及んでいる。
夕刻、ワーカーの帰宅時間が始まると、夫々の店にはバイクが並んでいて品定めをしている。衣服、下着、時計、帽子、おもちゃなどの雑貨類、ちゃっかりと食事を出す店も数店あり、連日連夜営業をしているが、安い、速い、旨いと吉野家が顔負けするくらいの状態。これには何度かお世話になりました。

HCM市の繊維企業は輸出用衣料品を製造。国内には販売していないが輸出前の製品が出回っていた。だが突き止めることが出来なかったという。
流しルートの根元を絶つために経営陣は店舗を回って回収、これは社内の摘発チームと顧客からの連絡もあるという。あるブランドも輸出前の商品の写真が送られてきたが、これはアメリカへ輸出するもの。だが国内ですでに売られていたのです。もし相手先に知られると全ての注文はキャンセルされる。これは企業にとって大きな損失、発注主へは信頼を失うため次の注文など期待できなくなる。それをワーカーは分かっていないほど低レベル、自分勝手なのです。
筆者が住んでいたトゥドック市の工場。ノベルティーとして製造を依頼されたぬいぐるみ。これは投稿されていたので判明したが、会社は誰が犯人かを監視カメラで追跡して確認した所、何とこの投稿した本人が、自分の子供のために会社から材料を持ち出し自宅で縫っていたことが判明したという。普通はこんなことを投稿する訳などあり得ないだが、余りにも出来が良かったのか、良心の呵責など全くないという証明です。
これは韓国企業でもあった。約3000枚のTシャツが盗難、だが犯人を見つけられなかった。市場に出回った製品を回収するために7000万VNDも費やしたが、最終工程を担当したベトナム人ワーカー100人から、この費用を差し引くことを決めたのです。当然ワーカーは反対。法的根拠がないとしたが、韓国企業はこの点はしっかりしている。
こういう事件に対し、HCM市労働総同盟の法務局長は、こうした事件は珍しくないと話した。企業の対応も異なり、盗難事件として警察に届け出ることもあるというが、珍しくないというのは戴けません。それほど自国のワーカーはいい加減としているだけで、何ら対策を講じないのも可笑しな事です。
またHEPZA(HCM市工業団地管理組合)は、監視カメラと警備員の配置を行ない、原材料の搬入から完成品の倉庫へ保管、工場から港や空港まで輸送に関して追跡できるシステムを採用したとある。こうした商品管理を行う事である事件では、輸送中の犯行だと判り警察に捜査を委ねた結果、犯行グループが浮かび多くの共犯者が逮捕されたという。
また輸送だけではなく、工場内での勤務シフトを変えるとか、警備員を入れ替えるとか、また輸送車両の管理も徹底して行った。経営陣は工場勤務者へ事情聴取を行わなかったのは関係ない人への評判や悪影響を考慮したという。
何故、警備員なのか?これは従業員と結託して商品の工業から出されるのを防ぐためで、警備員も決して安全とは言えないベトナムならではの事情がある。
さらに公安にも、余程のことが無い限り盗難届を出さないのは、日本と違って多くの場合、金銭的要求が無いとは限らず、信用できない部分があるから。
こうした現地ならではの事情があるため、外資系企業の現地駐在員には本社が分からない並々ならぬ苦労をしているのです。

日系企業でも同じような問題は幾つもあります。あるアパレルの製造企業は、日本から原材料を輸入して加工、これを製品化して日本や他国に輸出している。
幾分か余裕をもって記事などの材料を送って来るが、きちんと仕事をしているなら必ず生地は余ってきます。これを上手く工場内で処理する訳。余れば正しい手続きで処分しなければいけないのは当然の話。
しかしこうした作られた製品が先の様な露店やマーケットに出るのは工場内の誰かが不正行為をしているからでしかありません。
何処の企業でも朝の出勤時と、夕方の退社時に、警備員の所持品検査を受けることになっている。これは日本の小売業でも同じで私物はロッカーに、必要なものは透明のビニール袋に入れて検査をされます。

またある大手アンダーウエアメーカー。同じ様にロス分があるが、これを縫製して、帰りがけに肌身に(トイレで)付けて帰るというケースもある。流石に体までは検査できないので困ったこと。2枚、3枚重ねるので体つきで判断するがこれは女性警備員の役目。しかしグルされるとどうしようもない。そこで各企業は突如の交代をさせる訳です。
さらにこうした札付きのワルは、工業団地内の企業に報告され、この中や他の工業団地で操業する日系企業などで情報が共有される仕掛けです。
先の記述の様にベトナム側の工業団地管理委員会の対応は遅すぎるし、余りにも無責任で不謹慎な言動としか思えません。まるで自国のワーカーが問題児と(一部だが)いうような態度は如何ともしがたい。
残念ながらこれは教育上の問題でもあるが、貧困から来ることもあるし、一旦味を覚えると犯罪と認識しても止められなくなる。となれば窃盗事件として、本来は企業が毅然とした態度をとって公安に届けるべきなのです。

筆者は現職の時、出荷した製品がバッタ屋に流されたことがあり、これを何処の代理店から出たのか調査する部門に居たことがある。薬事法上では出来ないことであるけれど、製品に特殊なマーキング処理を行って、バッタ屋から回収した商品を出荷ロットと照らし合わせ違反(横流し)した所を割り出した。
此処はいま全国展開する有名店であるが40年程前は東京郊外に数店。しかも小さな店舗でしかなかったが、昔はこういうバッタ品を扱っていたとは今の従業員が知らない黒歴史を持っているのです。
有名製品でもこういう被害に遭うのは、割り戻しシステムに問題があるからかも知れない。

日本国内でも盗品ではないけれど、各企業の規定に反する行為を行う所はあります。従って警察とは無縁だが、顧客には信用問題となるのです。
定価販売は出来ない世の中だが、適正価格は本来代理店を含んで利益を確保し生活を安定するためには必要でもある。
ベトナムの場合は、明らかに就業規則違反で窃盗犯罪。製造企業の信用を貶める行為であるし、何よりもたとえ僅かな材料の持ち出しであっても罪となる。なおのこと製品をトラック丸ごと盗むなんて仕業など完全なプロの所業です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生