コーヒー豆価格上昇 何とも苦い話

2024年7月2日(火)

筆者が初めて喫茶店でコーヒーを飲んだのは、小学校5年の時。仲の良かった友達の家の近くにある、彼の家の馴染みの喫茶店でご馳走になった。何とも言えない香りとふくよかなコク、こんなに旨い飲み物があるなんていう思いは、未だに忘れられません。一杯60円ほどだったと記憶するが、当時、子供のお小遣いは一日10円が相場なのでとんでもない高級な代物だったのです。大阪市の南部、此処は商店街の近くだが特別な環境でなく、商店主も顔見知りが多く、今と違って親は小言をいわないし子供が自由に行動できる雰囲気だった。
何しろ大阪は日本一の喫茶店文化がある。モーニングこそ名古屋に負けるが、昭和レトロの雰囲気が漂う街中の喫茶店は其処かしこにあって、誠に居心地が良いのです。
今はそんなに飲まないが、HCM市に居る時頻繁に飲んだのがCaPhe Sua da。即ち甘い練乳入りの冷たいコーヒー、ベトナムコーヒーはロブスタ種の深煎りで仕上げにバターを入れて焙煎するのが多い。Cafeだけでなく路上店では安くて気安く飲めるのが良い。

このコーヒー、豆とは言うけれど、本当は実。この赤紅色の実を収穫して精製(いくつかの方法がある)し、種子を取り出して乾燥、生豆にする。その後に焙煎するけれどこれは結構難しい。
一般にスーパーで豆を挽いたものを買うけれど、できれば自分で挽く方が良いし、好きな人はこれを楽しむと言うが、淹れる前にするのが良いと言われる。

ところが2021年頃からコーヒー価格が上昇、止まらない。これ迄アラビカ種の最高値が2011年で1キロ6ドル、ロブスタ種は1995年3ドル弱。
最低値はアラビカ種が2011~2004年に1,5ドル、ロブスタ種は1ドルを切っていたのです。
しかし今年4月ではアラビカ種5,23ドル、ロブスタ種4,23ドルとなり、価格差も縮まってきており、さらに上昇する可能性は高いと言う。
価格変動で大きかったのはこれまで地域の需要で、缶コーヒーは価格に関して優等生で長年変わらなかったけれど、一年前にとうとう値上げされている。
中国やインドでコーヒーを飲む人が増えた、と言うのは価格が上昇する大きな要因、何しろ人口の多さが異なるのだから消費量が増えるのはやむを得ない。即ちこれまでの需給バランスが壊れたという訳なのです。
またコーヒーも先物取引の対象なので投機筋が動けば当然価格は変動するが、この所の上昇はそんなものではない、別の事情があるとされる。
その一つが栽培地の気温と、環境変化という問題。コーヒーは平均気温20度、降雨量が年1500㎜以上必要、最低気温が15度以下にならない条件があるけれど、この条件を満たしているのが赤道に近いコーヒーベルトという一帯。
ところが異変が生じていると言われる。これまでの大生産地であるブラジル、や南米諸国、そしてベトナムがあり、この生産量は世界二位となっています。
だが大洪水とそれがための病気、更なる温暖化がコーヒーを苦しめる。植えてから三年ほどで葉が出て来るけれど、良い実が取れるためにはまだ先。さらに土壌の問題もある。暑ければコーヒーの味が変わり、収穫時期が早くなって、苦くなるのだとある。
特に高級とされるアラビカ種は高地で栽培可能なので、すなわち暑さには弱い。
温暖化が進むとなれば大きな打撃を先に受けるのはアラビカ種という訳。

また病気も世界の学者グループが研究してきたとあるが、コーヒーの葉に付くさび病、コーヒー萎凋業があると言う。大学などの研究機関では、植物には病気に対する耐性が必ずあるので、この耐性菌を得る育種方法を見つけること、遺伝子の制御も研究されているとされます。すでにタイの研究所は耐性を持つ苗木を特定し、タンザニアでも耐性を持った新品種があり、すでに栽培実験を行なっている農家が2700戸あると云われており、増える可能性があります。
作物は天候など自然条件に大きく左右されるので、これから温暖化がもっと進むとなれば到底栽培できないし、できなくなる地域が増えるのは予想されます。
こうなると生産地域の殆どの農家はそんなに裕福ではないため、栽培を諦める人が増える、すると価格が高騰するという悪循環が発生。
このため米と同じ様に品種改良が期待できるけれど、またベトナムにはバンメトー市にコーヒー研究所があるけれど、此処から暑さ強いとか、病虫害に強いとされる新品種が生れたとは聞かない。コーヒーを生産する各国の機関がこうしたテーマを持ち積極的に取り組む必要があります。

もう一つベトナムで問題となっているのが栽培の転換。中国がベトナム産果実の輸入を許可し、これに拠り大きな市場が生まれた訳です。誰だっていい値段で売れるなら、それに転換したいのが当然。
中でもベトナム産ドリアンは中国人に大人気。飛行機内には持ち込みが禁止されているのは、あの独特の臭い。誰もが気が付く程なので土産にも持ち帰ることが出来ません。またドリアンを食べたのちに、炭酸系飲料を飲むとお腹がパンクすると言われるくらい膨らむと言われる。だから現地で食べるしかなかったのだが、今では輸入されていて、あの臭さとチーズの様なねっとり感が堪らないという。
中国が4月にベトナムから輸入したドリアンは金額ベースで2億400万ドル、これは前年同期比で約6,5倍もの増加。また1~4月は前年同期比で2,7倍ほど、なんとベトナムのドリアン輸出量の92%が中国向けだった。
中国への輸出量が急増したのは収穫期に入ったためと、競合するタイは干ばつの影響があって例年よりも収穫が少なく、品質も良くなかったという。

そこでコーヒー栽培農家がドリアンに転換しているとの話題になっています。こうなるとコーヒーからドリアンへの転作が増え、コーヒーの生産量がさらに減少することになる。消費が増えるのに生産量が減少するということは今以上に需給バランスが崩れ価格が上がる心配はあるけれど、中国のドリアン人気が一過性であれば、栽培農家は反って大損することになるリスクもある。
だが価格と輸入量が安定するなら、中国という大消費地は金にも等しい、

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生