香港の週刊誌、亜洲週刊の記事だが、ベトナムの高速鉄道建設で日中が争奪戦、中国が有利だが日本にも「勝機」があると、何とも身贔屓な限りの話。
筆者は以前のコラムの中で、この南北高速鉄道に関連する諸事情を書きました。
この中ではHCM市のタンソンニャット空港が離発着能力の限界から、新たに近郊にあるロンタン空港を建設しているけれど、1年遅れとの報道があった。またHCM市初のほぼ地下鉄だが、資金不足や建設コスト上昇などの理由から当初開通の予定から10年も遅れ、ようやく12月22日に営業運転にこぎ 付きました。新しいもの好きベトナム人、当面は運賃が無料になると飛びつき連日超満員とか。これが落ちつけば電車に乗る理由がなくなるので潮が引いたようになるのではと考えるのは筆者だけではないはず。さて肝心の通勤する人がどれだけ利用するのかが見物。しかし現在はこの路線の延伸とか、他路線も計画段階にきたけれど資金調達は未解決のまま。そうなると都市交通網の整備など出来ず、酷くなる一方のバイクに拠る渋滞、排気ガスが原因として起きている国民の健康や環境問題は全く解消されないことになります。
国が栄えるために公共インフラ整備は最重要案件です。だがハノイとHCM市間で運行している路線の距離は現在約1500キロあり、ビジネスでの往来や観光、帰省など何処まで利用が進むのかはよく分らないベトナムの事情がある。
ベトナム国会は高速鉄道案件に対する投資について、2010年に建設工事費が巨額過ぎて手に負えない。時期尚早であり需要が見込めないなどの理由から、他の手段を講じるべきだと、圧倒的反対で否決されたのは無理もありません。
ベトナムにとって積年の念願であった新幹線だが、一旦否決されて以来、またもや復活したのは、前回に書いたけれど、どうも気になる点が拭えません。
確かに10年前と事情が異なるし経済力も付いてきた。さらにCOVID-19が発端となりサプライチェーンの移転、ベトナム国内で工業団地の地方化が進む中、物流はトラック輸送に依存しているからコストが高くつくし、非効率。そこで鉄道を利用し、そのためには現行の南北統一鉄道を貨物に転用するという案が出ても不思議ではなく、考え方としては理に適っています。
ようやく始まったベトナムの都市交通の新規開業と鉄道新線建設と電化は重要案件であり、これに水を差すつもりはないけれど、資金にも増して鉄道建設をベトナムが独自で出来ると信じ込んでいるというお目出たい人も居るのです。日本が60年以上も掛けて作り上げ、改良を重ねて来たノウハウや技術の粋、これを何の経験もないままに、それこそ未だに車両を東欧から輸入している国が、どう考えても自国の独自技術礼賛とはあり得ない虚け話、自信過剰です。
此処に来て1月6日にネットで報じられたのが、やはりというか中国から発信された上記のタイトルの記事です。これはジャブであり、恐らくは中国に決まるぞ、という牽制のアナウンス記事でないかと勘繰られても仕方ありません。
これに拠ると中国あるいは日本の企業や企業連合が建設工事を受注するとみられている。ベトナムの事情と日中どちらに有利かという記事を掲載した訳です。
アレッ自国の独自技術とやらは何処に雲隠れ?とこの新幹線報道には一切記載がありません。670億ドル(日本円で約11兆円)におののいたのか、建築技術や複雑な運行ノウハウに車輛の製造ができないということが分かったのか、触れないというより記事にならない。訪日ベトナム人なら理解している事です。
さて勝負の行方だが、記事に拠れば筆頭候補は中国としています。この理由としてベトナムは能力がない。中国はすでに国内で新幹線網を瞬く間に実現し、インドネシアで新幹線を成功させていると謳い、これが切り札だとしている。
またこの所の明らかなベトナムの中国寄り政策。ベトナムはハノイを起点とし中国の鉄道と接続する計画があり、これはベトナム国会議員訪中団と習主席や中国の鉄道企業総裁との面会で如何にも本腰を入れて協力すると、ベトナム側の報道がある位なので間違いありません。
統一鉄道は狭軌で運行しているが、新路線は標準軌とする考えで、これは国際列車として運行されるため、列車の変更をせず双方の国で直接走ることが出来る思惑。というよりも越中両国が繋がっているという事が重要であり、実際に水面下で此処まで話が進んでいると思えなくない。であれば中国の策に引っかかり新幹線計画が中国の懐に入ってくることを意味し有利に事が運ぶのです。
即ち規格を中国に合わさせるという仕掛けがあり、では鉄道だけで収まるのか。そうであるなら如何にも不条理という疑問があってもおかしくありません。
日本に関しては新幹線開発国であり、またベトナムのインフラ整備に貢献し、発展に大きく寄与した最大の支援国である経緯がある。これはベトナムが受けたODAの総額30%にも及ぶ。昨年には鈴木財務大臣がベトナムの鉄道計画やその他のインフラ整備事業に対して資金協力を行うとの意向を示している。
また駐ベトナム大使はこの後、ベトナムの指導者層に日本は新幹線建設に関して強い関心を持っていると伝えたけれど、さてベトナムがどういう基準で以って計画を進める積りなのか。
日本の優れた安全性を優先するか、それとも経験値は低いけれどとにかく費用が押さえられる中国を採用するのか。中国の新幹線車両は日本が製造する部品が無ければ作ることが出来ないなどもあるけれど、技術面とかでなく最終的には資金の支援を含め、政治絡みの決着が待っているだけの話です。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生