日本のコメ騒動に関心 ベトナム有力紙が詳細を報じている

2025年7月29日(火)

テレビでは米価格高騰と備蓄米の放出を受けて、連日ワイドショーで大学教授や専門家とか、社会問題への見識が希薄で、他の識者の意見に頷くだけの首振り人形でしかない素人と呼べる芸能人のコメンテーターをズラッと並べて黒幕探し。あるいは消費者に米生産者、量販店担当者、米販売店経営者、はたまた元JAの役員など夫々の立場から見解を述べさせるなど役者を揃え、ここぞとばかり問題点をぶち上げています。だが何処もかしこも横並びでしかない。
さらに族議員と呼ばれる政治家は講演で不適切発言を繰り返しており、悦に入ってリップサービスを撒き散らすが口は災いの元。これが参院選にどう響くのか一般市民は気になる所。米騒動は明らかに政治問題化しているのが現状です。
さらに何かと問題ありとされてきた農政と農協、流通プロセスまで様々な見解が報じられている。ブラックボックスへメスを入れ、騒ぎの元になる犯人解明も肝心だが、常識が無い不要・老害議員の在庫を一掃する政治改革意識が必要。
多くの人に観て欲しいと18時から始まった国会での党首討論、聞いていて、これは建設的でもなくアカンと思った人は多いことでしょう。党首と言っても、売り言葉に買い言葉、所詮粗探しか非難の応酬という低レベルに過ぎず、進歩がない泥試合とはアホらしい茶番劇。何の解決にもならず時間と金の無駄です。
日本国民がこれほど米に関心を持っていたとは思えないけれど、主食として、また食の安全保障などと喧伝されれば、嫌が上でも日本の米が高騰しているという報道に関心を持たずにはいられないのだが、価格が収まれば、あの騒ぎは何だったのかと忘れてしまうのが日本人の常。折角の良い機会、米価格が急騰、備蓄米に購入者が安いと列を作ったけれど、感情論や消費者目線だけでなく、根本的に考えなければならない問題が山ほどあることを心すべきです。

此処にきてアメリカ米だけでなく韓国産、台湾産、ベトナム産の米が並び出した店・地域もあるけれどやはりジャポニカ米が好まれます。このジャポニカ種、単粒米とも云われるが、世界で約20%弱栽培。殆どはインディカ種・長粒米が大勢を占めており80%ほどとなっている。アメリカ、香港、シンガポールが三大輸出先だが、これは寿司とかおにぎりが現地で好まれているためとか。
隣国台湾、米余り韓国、輸出世界二位でジャポニカ種を栽培するベトナムの米生産者は輸出チャンスと捉えているとあり、1キログラム当たり341円もの高関税さえなければ生産地価格は低いので、輸入が増える可能性はあります。そうなると日本の米生産者へしわ寄せが来るから頭が痛くなる。しかし日本米は品種改良が進んでいて高品質でブランド力もある。となれば価格は二極化し競争と買い分けが起きるはず。此処はしっかりとした農政を司って貰いたい。
騒ぎの渦中にある日本の状況を、ベトナム有力紙はAFP通信の記事を載せ、「日本では米は農場の内外でホットな政治問題に価格を付ける」とのタイトルを付け、新潟県の米生産者の圃場の風景写真入りで取材記事を掲載しています。
記事は日本の米作りについて、米生産者へのインタビューを行ない、米作りの問題点を挙げている。また米価格高騰の原因の幾つかと、日本の米作りの問題点と将来、さらに減反政策にも触れ、インフレと米価格高騰により石破政権の支持率急落という政治的な部分にも目を向け結構詳しく論評しています。
記事には数枚の日本の米作りについての写真を添付しているが、これは日本の米作りの実態がベトナムとかなり異なる部分があり、ベトナム人には分らないので作付けと刈り取りの機械化、あいがも農法を紹介。米価格の高騰はグラフを示し時系列で説明しているほどの熱心さです。
この前も書いたベトナムの日本種米だが、近年品質はかなり向上。今回も店頭にあった米を買った人がどういった評価をするのか。また日本へ輸出が可能となれば生産意欲が上り、付加価値を求めて品質への競争力は増すかも知れない。

さて記事の内容だが、日本の主食である米価格を巡る争いは、7月の選挙では政府に打撃を与える恐れがあるとしている。これはサプライチェーンの混乱に拠る米不足により価格は1年間でほぼ倍増。インフレに対する有権者の不満を煽っており怒りは参院選で具現化する可能性がある。このため消費者とレストランの痛みを軽減するため政府は緊急備蓄米の活用を開始したと掲載。
有機栽培をしている米農家を取材し、利益の少なさは生産者にとって懸念事項であると強調。しかし店頭価格と農家が業者に売る価格にはギャップがある。
不足の背景には猛暑で乾燥した夏が全国の収穫に損害を与えたなど様々な要因があるけれど、一部のトレーダーは米を買いだめしているとあります。
しかし昨年の作況指数は101なのでこの辺りは理解していないのか、または指数そのものに問題があるとの指摘が日本でもあるので、これはどうやら農政に問題があるとみて良いかも知れません。
さらに価格上昇は日本米の人気を押し上げており、記録的な観光客の消費による急増の所為にされていると、これは国内記事から引用している。
さらに重要なポイントを指摘。これは1971年からの農地削減政策で、日本人の食生活の変化に拠る需要減のため減反政策を述べ、ピーク時の330万Hrから2024年には140万Hrになった。減反政策は2018年居廃止されたが未だにインセンティブとして継続しているとも書いているのです。
もう一つの危機的状況は高齢化で、稲作農家には後継者が居ないとしており、この理由として農家の80%は耕地面積が狭く、生産の20%であるが重労働。
主な収入は他の仕事や年金から来ているとしています。
実は現在のベトナムの農業でも同じ様な状況にあり、国全体が高齢化に突入。農民の子供たちは都会へ行き、現金収入のあるお洒落な職業に就きたいという願望が強く、殆どの若者は親の後を継ぎたくないのが実情でもある。
このため穀倉地帯のメコン地域にある国立大学の指導の下で、機械化の導入やスマート農法を実践しているが、これらは日本が支援しているのです。
現在は世界二位の輸出国に成ったけれど、これから先は今の日本が抱える状況と全く同じ様になってゆく可能性もある訳で、うかうかしていられない。
さらに記事は大規模米農場に付いて触れており、長年に渡って減反政策に反対してきた日本で有名な人物を取材。日本の米作りの問題点を挙げて海外市場へ輸出の増加を追求すべきであるとの彼の主張を掲載しているのです。
「55年間の作付面積削減は日本農業を破壊した」と、小泉大臣に書簡で米の生産を拡大すると宣言したことも付記しているが、これから日本は若者が機械や農地への初期投資への負担なしに農業ビジネスを始めるスキームを、産業界、銀行、商社などを巻き込んで検討すべきと加えている。
これらの農業に関する問題と今後必要な枠組みは、ベトナムにとっても重要で起こりえる事態に変わりがありません。すなわち今回の日本で起きた米騒動を取材して浮かび上がった状況は、近未来のベトナムそのものであると考えるからこそ、かなり詳細な部分に触れているのではと考えられます。

筆者が東京に居た時のことだが、この生産法人から購入したことがあります。価格は安くなかった記憶があるけれど、当時としては顔が見える、という安心感はありました。実際に農政局やJAなどから数知れずの嫌がらせがあったけれど、此処まで続いたのは購入者がその理念に共鳴したから他なりません。
幾ら丹精込めて品質の良い米を作っても、十羽一絡げでは面白くないのは当然。
独自に編み出した農法を実践、化学肥料や農薬を使わないなんて始めた当時は誰もしていなかったけれど、何人かはめげずにともに此処まで来たのです。
農業法人による大規模化も近年増えてはいるけれど、いわゆる先覚者。さらに乾地での米作りを若い人が実践しているなど、日本の米作りは、先行きが暗く悲観するだけは決してありません。

記事には、最初に登場した米農家の人の話として、安くて高品質な米は夢物語とし、米農家が脚光を浴びることに困惑していると報じているけれど、これは実は多くの米農家が感じることで、置き去りにされているというのが事実です。
しかし国民が、米はどのように生産されているのかを考える良い機会だと思うと語っているが、その通り。生産農家の実情を考え、米作りに関する問題から、政府の農政、流通過程、食の安全保障を知り、食育の機会になればと考えます。

・ベトナム米は東京の食糧安全のソリューションになる 現地紙の独自目線

一連の日本での米問題を報じている現地紙は、ベトナム米を日本のコメ危機の解決策として期待されていると書いている。この内容だが日本が過去数十年で最悪のコメ不足に悩ませる中、世界有数のコメ生産国であるベトナムは、特にプレミアムな低炭素米の導入で、食の安全保障の重要な部分を占めるとした。
今回のコメ価格高騰の原因は様々にあると記事には指摘しているけれど、注目すべき記載は日本の農業政策に根強い問題があったことも米危機の一因になっているとあります。すなわち、何十年もの間、日本政府は価格を高く保つため、農家に米作を減らすためお金を払ってきた。一方、コメの流通を支配する全国農業協同組合は、競争の激しい市場環境下で迅速に対応できる柔軟性に欠けている。政府は非常備蓄から21万トンもの米を放出したが、特に玄米を白米に精製する際の物流上のボトルネックに拠り、流通が制限されていました。
とかなり状況を詳しく書いているのです。さらに珍しい動きとして日本の農林水産省は、政府が穀物の価格を設定する裁量契約を通じて国有の備蓄米の売却を決定した。これは従来の姿勢から転換であり、危機の深刻さを浮き彫りにしている。こうした背景から、ベトナムは潜在的なライフラインとして浮上しているとするがこれはまるで鼓舞するかのような内容です。
世界5位の米生産国で、二位の輸出国ベトナムは、特に日本の消費者に適したジャポニカ種について、需要を満たすだけの規模、一貫性、経験を持つ。だが日本の厳しい輸入基準、特に残留農薬は大きな障壁になっている。これを満たすため高度に専門化された栽培技術と多額な投資が必要で、生産性が低ければ、日本と共同で技術支援、種子開発、精米と品質管理など農業協力を行なう事で二国間関係を強化しながら日本市場に合わせたコメの供給が出来ると提案。
最近初めて低炭素米を500トン日本に出荷したが、トン当たり820ドルで、日本の消費者が受け入れれば注目を浴びる、とベトナム食品協会は語った。
ハノイの輸出業者は世界が増々や様な供給源と高品質な米を求めており、今回の輸出は他市場へのアピールになるのは間違いないとの自信を深めた。とトイチェ紙に語っているのです。
インド米と比較してベトナムの低炭素米は価格と信頼性で際立っており、より競争力のある地位を確保するのに役立っていると一例を挙げている。
年初来5カ月間でベトナムの米輸出価格は1トン、約516ドルで昨年比18,7%減少。買い手はフィリッピンが41%、コートジボアール12%、中国が10%だったが、環境省はバングラデシュが515倍と急増、インドネシアが98%増えているとした。
今回の騒動を絶好の参入機会と捉え、これから俄然注目するのが我が日本への輸出だが、さて食味や香り、品質が本当に日本で一等米として通用するのか。

・アンジメックス木徳 現地での新しい動きとは

現地報に拠れば、アンザン省にある木徳神糧の子会社アンジメックス木徳は、現地で栽培委託を行ない、精米している日本種米に関して今後2~3年以内に全量を無洗米にする計画という。
月間約100トンを無洗米として出荷しているが、今後は従来品と同じ価格で無洗米にして業務用に加え家庭用も販売する。
今年4月に本格的に無洗米をベトナム市場に投入。現在は月産の10%程度であるけれど評判が良いという。この無洗米は日本で開発した最新技術で米糠を落としているので研ぎ汁が少なく環境への負担が少ないけれど、海外で使用するのは初めて。原理は超微細気泡で糠を除去するとあるが、筆者が日本国内で時々使う精米機よりも新しい方式かと思える。また研ぎ汁を草花に撒いていたが、これをしなくてもいいのは助かる。
日本の精米機はかつて農業大臣が訪日した際に工場を訪問、ベトナムで使いたいと言ったくらい高性能。筆者は地場の米屋で日本種米(GAO NHAT)を買ったけれど米粒程の小石が混じっていた。当時ベトナムで使う精米機はこれを取り除く事が出来なかったのです。
以前書いたように「富士桜」は古くからあるブランドだが、今はコシヒカリも栽培している。価格は5キログラムで23万VND(約1300円)だから、かなり値上がりしたけれど仕方がありません。
これを無洗米にするとあるけれど、そうなると歩留まりは悪くなる。だが旨み成分を保持できるのがこの新式精米機の特長で、常に安定した味が得られるとしている。節水に繋がる以上に、家庭や飲食店などでは研ぐ時間を省略でき、研ぎ汁を流さなくてもいいとのメリットは大きく、ベトナムでも需要が見込めます。そうなると環境規制が厳しいUEUへの輸出も可能性が出て来るので、会社としても力を入れたいわけ。
アンジメックス木徳はベトナムに進出して30年以上になるメコンのアンザン省の企業と合弁企業。日本式の米作りを契約農家に指導して、日本種米の種籾を提供。それまで現地では多ければ三期作をしていたのを一期に集中。品質の良い米を作って貰いこれを良心的な高価格で買い上げていたので、農家も安心できました。
収穫後はアンザン省の自社施設で乾燥して、倉庫に玄米を定温で保管するが、これは日本企業ならでは。地場企業はノウハウや技術が無くできないのです。
こうしてスーパーなどから注文があれば精米と検査を行なって出荷。日本語で書かれたナイロン袋に入れられて店頭に並びました。従ってこれまで石が歯に当たった事など一回もなかったのです。今回さらに差別化要因としての無洗米はベトナム初の試みだが、必ず受け入れられるでしょう。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生