経済発展が続いているベトナム。2025年度上半期の成長率は7,3%とこの20年間で最も高い成長を示しており、またFDIも前年同期比で32,6%増と絶好調にあると言われています。
しかし反面、様々な格差が拡大し社会的なひずみが生じているのも事実であり、これを政府がどのように是正してゆくのかだが、確たる期待を持てません。
トランプ関税が合意に達したのはイギリスとベトナムだけ。これは意外であったけれどベトナムはアメリカからの輸入については関税をゼロとし、ベトナムからアメリカへの輸入に関しては、当初46%と高関税を謳っていたけれど、20%に落ち着いたという尻切れトンボ。ベトナムは航空機を50機購入する等の約束をしたと云わるが、拙速判断はシタタカな計算に拠る。ベトナム側の巨額輸出黒字を考えれば、ラム氏の有無を言わさない手締めはトランプを満足させるだけのものがあった訳で、交渉への焦りが目立ってきたところへ助人の役割を演じた。こうなると勢い付くトランプ。他国へは負の影響が免れません。
それにしてもアメリカにおもねる様なベトナムの動きをよくぞ中国が何も言わなかったと思えるが、巷では習近平主席の最近の動向が取り沙汰されており、その行方も気になるところです。
ベトナムは全方位外交だと言われるが、ラム氏が書記長就任時から全国の省を再編するとか改革に乗り出している。しかし一方で前主席の中国寄りの姿勢と意向をしっかりと受け継いでいる筈。では今回の急速妥結の意図や真意は何処に在るのか。最大の黒字をもたらすアメリカへの配慮だけに拠るものだろうか。
例えばベトナム製の自動車。依然として赤字体質だし、レシプロエンジンからEVへ急速転換、アメリカで工場も建設し売っていこうとしている。だが投資額は大した額でなく、トランプは化石燃料を復活させる意向なので、この計画が吉と出るのかは不透明。となれば必ずしもアメリカへのベトナム製品輸出が生命線だと分かったうえで、他に出すモノが無く早期妥結に持ち込んだのは、メリットありと踏んだのか、あるいは勝負に出たのか増々もって分かりません。
こういう状況だが、いまもベトナムが経済発展しているけれど、社会主義国であり未だに人材も金もない新興国であると思っている人は多いのです。
その日の暮しでさえシンドイ層が多く、地方から都会に出て来たけれど仕事が無く宝くじを売って凌いでいる実態は変わらない。市中心から少し離れた日本流に言えば4畳半一間で家族全員が起居する生活。このような実態が有る反面とんでもない大金持ちが存在。多くの企業の歴史などたかだかここ三十年にも満たず、世界に誇れる技術も無いのに何故か金運に恵まれ、成功した人も居る。今回のコラム、この億万長者と言われる5人をピックアップしてみます。
かつて国有企業が中心で、企画力や戦略、いわんや経営理念に経営力、資金もやる気も製品の改善・改良もせず、造ればいいという考えしかなく、ドイモイ政策以降に進出してきた外資系企業に土地を資本として供出するのが関の山。だが先進国の投資が進み経済が発展、みるみる豊かになり欲が出て来たが再編が続く。この20数年間で資本主義的企業活動を学び経験してきたベトナム。現在では民間企業が国の経済とビジネスを引っ張っている状態と言って良い。
若くて優秀な人が海外へ留学し帰国。こういう人たちが事業を起して自国でも海外でも成功、事業規模も大きくなって来ているのが実態。この先も国を背負って行くことになるが、国家体制が変わるとまでには行かないと考えます。
この様な状況の中で、ベトナムに関心がある方であれば一度は聞いた事がある企業や経営者の名が出てくるが、こうした企業の利益は112兆VNDとも云われており国有企業の経済力を上回るとされています。
企業の経済力が大きくなれば必ず国家権力にも影響を及ぼし、中国の様に潰される可能性があるのか。現時点では何とも分らないが、其処まで至らないだろうと思われます。しかし未だに成長が留まることを知らして拡大する一方では、資本主義的拡大再生産となる訳で、社会に何らかの影響があることは否めない。
ベトナムは、現在の経済社会を、社会主義実現の一過程として見做すとの前提に立っているので直ぐにこれを変革することはないと考える。それ以上に政府は国が豊かになるために未だ外国からの投資をさらに必要としており、従って当面、新しい事業やビジネス分野で成功者が現れる可能性が大いにあります。
・ビングループ ファム・ニャット・ヴォン氏
何度も出て来た飛ぶ鳥を落とす勢いのVinグループの創始者。常にベトナム産業界で話題を振りまくが、市場での時価総額最大の一位企業に仕立て上げた。
グループは2024年に35兆VND以上の利益を計上。国をけん引する企業グループとなったのです。この年、国へ支払った金額は土地に関する使用税、リース、法人所得税、VATの合計額が46兆3千億VNDとも報じられ如何に貢献しているか分かるが、同社への政府の支援策を考えると安いもの。
また個人資産はフォーブスに拠れば今年6月30日時点で105億ドルを超えているとされ国内で最も富裕な人物、世界でも273番目と評される風雲児。
この国で事業を開始、成功を収めた不動産業、リテーリング、観光、輸送から自動車関連まで大規模に成長。直近では6月29日VinFastのEV自動車工場が完成、これは国内二番目となり年間20万台の生産能力があるとされる。
国産車というけれどご多分に漏れず寄せ集めた部品のアッセンブリー。まさにこの国の工業力を象徴している。大した開発力に高度な技術力など無く、売れるだけ赤字が増えるという問題児でしかありません。
これで工業国家とはお笑いだが、政府は何としてでもベトナム製として海外で販売し、ベトナムは自動車を造れる工業力があるとアピールをしたいけれど、いまさらそれだけで先端先進工業国として認められる筈などあり得ない。
ガソリン車からEVへ急展開したのは正解なのか答はまだだが、何よりも簡単に製造できる。社歴が浅く物作りの経験、技術が無く、企業ピラミッドが完成している訳で無く、殆どのモノは海外調達しなければならず、R&Dも充分でないのが弁慶の泣き所。このようなベトナム企業に共通する実態を見逃してはいけないが、垂れ流しの赤字を補填するだけの不動産利益があるから今は何とかやっていけるだけ。勘違いしてはいけません。
突如として誕生したニャチャンの超高級リゾート・ヴィンパールが、ベトナム事業の原点であるけれど、今年5月に上場している。このリゾートが当たって小売業に進出したが、ルーツはロシアに留学にある。インスタントラーメンを売って成功し、自国でこの資金を不動産につぎ込んだのは大正解だったのです。
因みに後で出て来るマサングループのグエン・ダン・クアン氏とベトジェット・エアのグエン・ティ・フォン・タオ女史の二人もロシア留学組のお友達。殊にマサンのクアン氏には小売りを譲渡して自動車部門の赤字補填に協力してもらっており、譲渡後に業績が上ったのはビジネスセンスに欠けているのだろうか。
僅かの期間で急成長したのは幸いだが、稀代の名経営者として名を馳せることが出来るのかは疑問でしかなく、挫折すれば成り上がりで終わるのか。
不動産部門は打ち出の小槌。リゾート開発は元より都市・住宅開発に工業団地と留まらない。直近ではHCM市南部にあるカンザー地区での沿岸都市開発を起工。これは2870Hrという巨大なものでベトナム最大規模。都市、観光、大型商業施設などの複合施設というものだが、この地域はマングローブの生い茂る自然豊かで、海浜はHCM市民の海水浴にも利用される保養地。現地報道にはこの自然保護に関する環境調査については何も書いていなかった。
そしてこの開発エリアとHCM市中心部を結ぶ鉄道を建設するために造ったVinSpeed社。これを皮切りにインフラ事業にも乗りだす構えを見せている。
この他にEV車を使ったタクシー事業とドンドン事業を拡大している。国に金がないから一民間が力を入れる訳だが、公明正大というのではなく不透明だと現地では囁かれている。まさにVin帝国だが、これほどまでにこの国で拡張、拡大できる道理はなく疑問だらけ、何やら漂う政治的にキナ臭さは免れない。
しかし規模が大きくなるにつれ、一人で何もかも出来る訳では無いので経営層に有能な人が居るのかとか、果たして資金が回るのかと思えるけれど足りなければヴォン氏のポケットから注ぎ込んでいるという。グループには日本人経済顧問とやらが居るみたいだが、さてどんなアドバイスをしているのか。
・ホアファット チャン・ディン・ロン氏
このホアファットはベトナムの鉄鋼メーカー。鉄製品は元より、鉄製の家具、パイプなども造っているが、建設・開発事業なども手掛けている。
昨年は13兆4000億VNDの利益だが、これは前年比で49%増加、急成長している企業グループです。
経営者のロン氏は19億ドルの資産を持つとフォーブスが報じており、世界では1650番、ベトナムで4位の大富豪だとされます。
2024年度のグループでの鉄鋼生産量は1500万トンとし、これは世界でトップ30に入るとされています。この目標達成に向けてズンクワット2製鉄プロジェクトを完了するため、企業が持つリソースを集中させる戦略を策定。
さらに今後5年間での計画で、年間15%成長を果たすとしているのは賢明。
ベトナムが長い間成長できず、R&Dなどの自助努力に欠けていたのは、国家体制にもあるけれど、鉄は国家なりというこれまで世界で言い続けられてきた格言通り、製鉄所が出来なかったことに大きな原因があると思われるのです。
製鉄も日本、韓国などの支援で出来たわけで地場企業の資本力と技術力で賄えたものでは無い。また鉄は作れるけれど特殊鋼などの製造はこれも技術と研究開発力は及ばないので、これからの成長と変革に期待したいところでもある。
そこに来て、またもや降って湧いた南北高速鉄道建設案件。政府は何としてでも地場企業でやりたい。無理であるけれど、多くの場合、鉄道建設はもちろんだが、列車の製造や信号などの運行システムの技術にノウハウがない。恐らく各企業が参加の名乗りを上げているのだが、これは虚勢を張っているだけで、日本やドイツ、フランスにカナダ、中国に支援を求めて来るのが見えている。
そこにこのホアファットは、レール製造に参加すると発表したのです。しかし超ロングレールはおろか一般鉄道用のレールも造れない。これでは冒険の域を出ないのに、今になってハノイ工科大学と技術研究を始めるとおっとり刀とはあきれるばかり。またドイツのSMSと年産70万トンの目標で、レールと型鋼の生産ラインをこの5月に設け、2027年度に供給可能としているのです。
そうなるとホアファットは東南アジアで唯一鉄道レールと製造できる企業となる算段です。このラインは現在ヨーロッパでもっとも近代的な製造ラインで、国際基準をクリアできる品質が保証できるのだが、このSNSの圧延技術なるものは鉄道レール圧延設備の世界需要の90%占める強みを持っているという。
工業団地分野では、フーイエン省で500Hrのホアタム工業団地造成の許可が下り、年間600万トンの鉄鋼生産が可能となる他、合計2000Hr規模を持つ大工業団地となる。さらにこれまでの実績だがハナム省、バックザン省で合約750Hrの工業団地を北部で運営しています。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生