ベトナム産米

2025年11月1日(土)

日本は2024年産米不足が原因で価格が急騰、ベトナムから日本種米を日本に輸入することになり、ベトナムの米最新状況を7月のコラムに書いています。
ベトナムでは日本の米穀大手業者が20年以上も前に進出し、現地の米農家を指導してジャポニカ種を栽培しており、これを実食すると結構美味しい。
さらにベトナムの米研究者にも触れ、近年はベトナム産米の品質が良くあって来た現状も記しています。これは日本の大学、研究者、企業の支援によるものが大きく、また現地の大学の教員と研究者の努力の結晶だと感じています。

・ベトナムが世界2位の米輸出国に だが喜んでばかりではいられない

現地誌は2025年度上半期にベトナムはタイを追い抜き世界二位の米輸出国に成ったと報じており、これはまたタイのメディアもタイ米輸出協会のデータから引用して記事にしています。
世界一はインドで、前年比36,5%増加、1168万トンを輸出してリード、二位がベトナムで3,5%増加し427万トン、3位に入れ替わったのがタイで27,3%減、373万トンとなっている。次いでイラク276万トン、米国が140万トンだが、これらの国はタイ産米の輸入国でもあるというから何ともややこしい。アメリカが輸出する米は恐らくジャスミン米を指すと考えます。

日本と全く異なり世界的に供給は過剰となっており、さらに需要が停滞しているとある。このため輸出業者は価格を下げているので米価は下落する可能性が高いとタイ側はみているが、8月1日に発行したトランプ関税はそれほど影響がないけれど、むしろ米の過剰供給と、日本の米輸入がどうなるかが関心の的になっているのです。さらにベトナムが開発したST21の様な新品種などで勝負をかけ、ベトナムが米の生産量を増やして価格を下げるのであればタイの競争力は無くなるとしています。

ベトナム政府は7月に75万トンの米を輸出、3億6610万ドルを稼いだ。
7カ月間の総輸出量は550万トン、金額は28億ドルに達したけれど、これは3,1%増加。だが米価格は下落し前年比で15,9%もの減収というのです。
輸出価格はトン当たり514ドルで、昨年の同時期と比較すれば18,4%下落となっている。輸出先一位はフィリッピンで42,6%を占めたが、収益は13,5%減少したのです。
こういうのが実情なので、日本の米不足、価格高騰なんて騒ぐのは日本人だけ。ベトナムにしてみれば、ベトナム産の日本米を輸出したい気持ちはやまやま。
一方でアフリカ市場は成長が著しくガーナへは53,5%増、コートジボアールは96,9%と期待が持てるし、バングラディシュなど188倍、マレーシアは反対に58,5%減少とあるので、バランスが取れていません。
豊作貧乏という言葉があったけれど、まさに世界的には価格下落圧力がかかり、利益が圧迫される状況にある。タイに比べてベトナムが輸出に有利なのは市場を失うことなく、安定した輸出先を持っており、さらにアフリカ市場への輸出だが、ベトナム産の米が好まれているのにも要因があると現地誌にはあります。

・8月には米価格は小幅上昇

インドとタイは輸出を減少させているけれど、ベトナムは品質と安定した市場に支えられ、8月には米価格が若干上昇したと報じられています。
インドの価格下落はインド政府が国家備蓄米を2000万トン放出したことで、アメリカでオークションによって750万トン、エタノール用に520万トン、その他インド国内などではトン当たり257ドルで販売したために、世界的な米価格下落を引き起こしたとしています。これは日本と桁違いでビックリ。

インド政府は米価格を下げて過剰在庫を減らすことが目的。だがパキスタンとタイでは輸出価格がトン当たり10~15ドル下落。2017年来の最安値に。
反対にベトナム産の破砕米は4ドル上昇している。ベトナムに進出した日本の味醂などを製造するメーカー、かつて社長と会って話をしたが、実はベトナム産の破砕米を使わずタイからの輸入米からだと言っていたが、この方が安い。もう20年ほど前でも事情は一緒だったのです。

記事によれば、ベトナムは高品質な米の輸出に重点を置いているため、インドの大衆米との直接競争が避けられているとしている。また研究の成果がこの所出ており、ST、D、OMという香り米の製品ラインがシェアを広げているとしています。何とも味気ないブランド名で、日本の一等米の製品ラインと比べると面白みに味気もないと思うのだが、堅調な米価格が維持できているのは、海外市場への開拓だとあります。
これまでベトナム政府は世界の国々と積極的に自由貿易協定を締結してした。アジアは元より、中東にアフリカ諸国、EUにTPTTAも然り、これが功を奏してアクセスが可能になったと考えているのです。工業製品だけではなく、農水産物にまで効果があり、結果を生み出したという訳なのです。
ベトナム産米の主力はインディカ米、世界の7~8割はこの品種を日常食している訳で、ベトナムは輸出し易い品種を栽培しているともいえます。
では日本で現在論議されているのは、これまでの誤った減反政策からコメ増産へ切り替えたけれど、そう簡単に米が増産で来るものではないし、不足が解決できるという訳ではありません。
温暖化傾向で耐熱新品種の更なる研究、高齢化で儲けの少ない米作りなんて辞めたい、耕地面積が狭いので機械化するとか、直播工法を取り入れるのが良いのか、もはや本来の機能を失った農協改革、未だに闊歩する自民党の農水族。こうした様々な問題や課題はどうなっているのか。また仮に増産できたとして余剰米はジャポニカ種。いくら海外で日本料理、オニギリが人気だとしても、価格の高さにも負けずに売れる接点はあるのだが未解決。

ベトナム産米効果は栽培農家を元気付け、生産効率にまで好影響があるという。20年ほど前など中国へ輸出するため、メコンのある省が人を送り込んだけれど品質が良くないことから売れなかった。これ等の事実はこの先も輸出にいい影響があるだろうとし、インドの一位は変わらないけれど、世界二位の輸出国という立場は当面キープできるとしています。

・ベトナムは米の価格をリードする

8月に出されたベトナム食品協会のデータは、5%破砕米は1トン当たり399ドル、25%破砕米は368ドル、100%では339ドルと他国よりも高い。
ベトナム税関総局は8月15日現在、558万トンの米を輸出し、30億ドル以上の収益を生み出した。平均輸出価格はトン当たり512ドルとなったが、タイはどう314ドル、インドが376ドル、パキスタンは355ドルに下落したと発表した。世界的に需要が弱くなっているのに拘わらずベトナム産米はきわめて好調。量から質へ転換したのが理由だとしているのです。
HCM市の米輸出業者は、今では品質の良い米を輸出できるが、過去数年間、ベトナム産米を扱う貿易商社は極めて小規模だと見なされ相手にされなかったこともあった。しかし今では品質と価値が見止まられているとし、勢いがついており、世界はベトナム産米のサプライヤーを求めているとした。さらにこれは価格面で優遇される可能性があるともしています。
長期的にこれを持続可能にするため、有機米の開発、国家としてブランド米の開発戦略が必要。チン首相は農業省に対して米輸出を加速させるため関係部署に協力を指示。2030年までにメコンデルタで100万Hrの高品質で低排出米の開発計画を推進するとしている。
ベトナムには優秀な米研究者は多く、日本の大学へ留学して博士号をとるまでになったが待遇は良くなく研究設備も貧弱。日本の大学や企業などが支援したのに掌返し、筆者にすれば政府や行政なんてご都合主義の塊で相乗りも良い所、予算も講じず何を今さら、とい感じがします。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生