海外進出成功のカギは現地中核人材の育成

ミャンマー事業支援
一般財団法人海外産業人材育成協会
The Overseas Human Resources and Industry Development Association
略称:HIDA (ハイダ)
設立:1959年(昭和34年)8月10日(吸収合併存続法人であるAOTSの設立日)
事業内容:主に開発途上国の産業人材を対象とした研修及び専門家・インターン派遣の実施
事業規模:約95億円(2016年度予算)
実績人数:
(1)受入研修 182,185人(1959年度から2015年度までの累計)
(2)海外研修 197,486人(1973年度から2015年度までの累計)
(3)専門家派遣 8,418人(1979年度から2015年度までの累計)
(4)インターンシップ 1,011人(2004年度から2015年度までの累計)
事務所:
(1)国内:東京(東銀座、北千住)、関西(大阪市)
(2)海外:バンコク、ジャカルタ、ニューデリー、ヤンゴン

1. 団体概略、進出の経緯

近年、アジアを中心とする新興国・開発途上国は著しい成長を続けており、その成長力を取り込むため、日本企業の海外展開は日増しに拡大している。それに伴い、現地の高度な産業人材の育成は喫緊の課題となっており、企業の海外進出成功のカギはいかにして現地の中核的な立場の人材を育てるかにかかっているとも言える。一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA:ハイダ)は半世紀以上に亘り、人材育成を通じ、「共に生き、共に成長する」世界の実現を図ることをミッションに掲げ、国内外の産業人材の育成を目的とした受入研修(訪日研修)、海外研修(現地研修)、日本人専門家派遣、インターン生の派遣など、各般の人材育成事業を行っている日本の機関である。HIDAは2015年10月に新たな海外拠点としてヤンゴン事務所を開設し、日本企業の顕著な進出を背景とした現地産業人材育成の必要性の高まりに対して各種支援事業を展開することで、ミャンマーの経済発展、日本とミャンマーの経済関係の強化並びに友好促進に対する実績を上げている。

2. HIDAの事業

HIDAの主な事業は①研修事業、②専門家派遣事業、③インターンシップ事業、④新国際協力事業、➄HIDA総合研究所が行う日本企業の海外展開支援事業の5つに大別される。①研修事業はミャンマーを含めた海外の企業等の技術者や管理者等に対する研修を行う事業で、対象者を日本に招聘して行う研修(受入研修)と、講師を海外に派遣して行う研修(海外研修)がある。さらに受入研修は、日本の優れたものづくりや省エネ技術などを習得するための主として海外の現地日系企業(出資先、技術提携先、代理店、取引先等)の技術者を対象とした「技術研修」と、日系企業を含めた現地企業の経営者や管理者を対象に、企業経営や工場管理等の経営手法を習得するための「管理研修」がある。➁専門家派遣事業は日本の企業・産業界から主に開発途上国の日系企業、取引先企業、業界団体等に専門家を派遣し、OJTによる技術指導や委託者のテーマに沿った内容等を現地で助言・指導する人材育成事業である。③インターンシップ事業は企業活動のグローバル化に対応できる人材や、現地の市場特性に合致した新製品・サービス・ビジネスモデルを企画できる人材を育成するため、日本人の若手社会人、学生を新興国の企業・団体にインターンとして派遣する。④新国際協力事業ではHIDAの半世紀以上の経験とネットワークを活かし、リーダーシップ、人材育成、生産管理、品質管理等をテーマとした主に企業幹部を対象とした研修や個別の日本語研修等を日本で実施している。この事業はHIDA独自の事業として国内外の企業や機関等の個別の要望を的確かつ迅速に取り込みながら行うという特徴がある。最後に、➄HIDA総合研究所が行う日本企業の海外展開支援事業であるが、HIDAは新興国・開発途上国の人材育成に関わる豊富な業務経験と国内外の産業界および帰国研修生等の人的ネットワークを有しているため、これらを有効活用して、ビジネス交流事業(海外インターンシップ、ビジネスマッチング等)、情報・調査事業、グローバル戦略事業、海外展開サポート事業を行うものである。
さて、ミャンマーに限ったことではないが、海外に進出した日系企業から「現地の技術者・管理者を育成し、経営の現地化を進めたい」、「現地の工場や協力企業の生産性を向上させたい」、「日本の管理技術、低コスト・省エネノウハウを現地に定着させたい」などといった声をよく聞く。そのような課題に対して、「HIDAが実施している日系企業の社員の育成を支援する日本政府の補助事業(受入研修事業、専門家派遣事業)の活用をおすすめする」とHIDAヤンゴン事務所の江口健一郎所長は言う。受入研修(技術研修)は日本の企業(研修生受入企業)にて固有技術を習得することが主目的であるが、ただ単に研修生が新しい技術を習得するということだけではなく、HIDAが行う導入研修や研修生の日本滞在などを通じて研修生が日本語や日本の社会、企業文化なども学ぶことができ、「日本を知る、肌で感じる」というコンテクストにおいて、日本の事を知っている現地幹部候補を養成する大変有益なプログラムとなっている。HIDA受入研修制度を利用することでHIDA身元保証書による「研修」査証が申請でき、公的研修として企業内実務研修が実施可能となる点、研修生受入、研修実施経費に対して国庫補助金が交付される点、研修生受入計画・準備から実施までHIDAがトータルサポートしてくれる点など、様々なメリットもある。また、日本企業の従業員が専門家として現地企業にてOJTによる技術指導を行う専門家派遣についても、現地の生産現場を直接指導できることでQCDの改善等現地企業の現地化促進につながる制度になっている。こちらも専門家派遣経費への補助金が交付されること、目標の明確化や指導方法及び育成計画の具体化に対するサポートを受けられること、専門家の健康管理・安全管理・危機管理体制が構築されていることなどの特徴がある。
江口所長によると、民政移管前の2009年度、2010年度あたりはミャンマー進出日系企業が僅かだったこともあり、受入研修・専門家派遣制度の利用企業は数社だったとのことであるが、2013年度ぐらいから徐々に増え、2016年度は15社計29名の日系企業従業員がHIDAの技術研修生として日本での受入研修に参加するとともに、計8名の日本人専門家が現地日系関連企業で技術指導を行ったとのことで、今後の制度利用拡大が大いに見込まれている。

3. これから進出する企業へ一言

HIDAヤンゴン事務所には現地日系企業やローカル企業から人材育成に関する様々な相談が日々寄せられている。「特に日系企業については、日本の親会社と現地法人の橋渡しとなるような、中核人材の確保に困っているところが多い。ミャンマーは1960年代から長年続いた鎖国状態、及び1980年代後半から90年代にかけての政治的な混乱に起因し、優秀な中間管理者層が極めて乏しい。探しても見つけることが困難なのであれば、残った唯一の方法は自社で育てることしかない。実際、ミャンマーで成功している日系企業は自社の人材を非常に大切にし、彼らの育成を本気で取り組んでいるところが多い。」と江口所長はアドバイスする。