公衆電話 それなりに物語は誰にもあった

2020年8月24日(月)

もうほとんど死語になった公衆電話。しかし日本では15万8000台が今でも現役で活躍していると聞きます。
携帯電話が普及し、一般家庭でも固定電話を置く家が少なくなっている中で、どうして日本では公衆電話が残っているのか、と不思議を覚えたという中国のネット記事を見ました。
ドラマや事件の舞台になった電話ボックスの大半は撤去。至る所にあった昭和の思い出でもある赤い公衆電話。もはや名前さえ知らない世代が増えています。日本でさえ50年ほど前、家に電話を引くために何年も待たされ、設置するには電話債券を買わされました。また電話番号は売買され財産であったけれど、今では家の固定電話を処分しても一銭にもならない。
家に電話がなかった子供の頃。10円玉を握りしめ、誰が出るのか分らずドキドキして赤電話に投入。想いを馳せて友達に電話した経験は誰にもあること。
言葉や礼儀など社会訓練になったと思いますが、今時の若者は電話恐怖症とか。またポケベルで呼びだされ、公衆電話を探すのに一苦労。40年くらい前には、国際電話も直通ではなく申し込んで暫く待ってやっと通じたなんて、考えられないでしょう。
災害時に全く繋がらなかった携帯。しかし公衆電話からは掛けられると新聞やニュースで知った方は多いはず。赤字ではあるけれど、「人口集中エリアにおいては、500メートルの範囲内に必ず1台公衆電話を設置すること」との規定を総務省が設けているのだそうです。この規定とは、災害や緊急事態が発生した時、迅速に連絡を取れる状況を保証するためだとある。固定電話回線は無線通信より通話が途切れにくい、また停電時にも使用できるといった優れ技を持っているのです。
したがって、昭和の遺産とか時代遅れでも何でもなく、言わばライフライン。アナログだからこそ必要で、イザと言う時にこれに勝る通信手段が無い限り、まだまだ現役で動いていてもらえる安心感があるのです。
空港にあるグレー色の国際電話が通じる公衆電話。何台もあるのに掛けている姿を見たことはありません。なるほど納得、これもその為なのか。

さてベトナム。20年ほど前、昔のガイドブックには写真入りで黄色い公衆電話が掲載され、電話の掛け方が書いてありました。まあ、あった所で意味はなさないのですが、当時でも殆んど見かけることはありませんでした。
タンソンニャット空港には電話コーナーがあって、担当者に電話番号を書いた紙を渡すと相手に掛けてくれる。自分では掛けられず、繋がるとボックス内で話をして、料金は終わってから清算しました。
固定電話を持っている一般家庭は、それなりの階級とか金持ち。近所の人はこれを借りていました。村では電話を貸すことを商売にする家もあったとか。
店をしていた頃の話。電話代などしれたもので市内通話は確か千VNDほど。ところが請求額を見れば100万VNDを遥かに超えている。これはオカシイと調べると従業員の私的使用が原因。田舎の親などへ近況を電話しまくったのです。
彼らの給与月額は100万VNDにさえ満たない時分で、携帯端末がまだ高かったころ。遠方の家族の声を聞きたくても出来ない。気持ちは分るが公私混同などお構いなし。
また友人宅では電話番号を押せない工夫がしてある。家人が留守の時、使用人が目を盗んで勝手に使う常習犯。自己防衛手段です。マナーのなさは何処も悩みの種、夫々の家で工夫をしていました。

これから携帯電話が流行ると踏み、新規事業で立ち上げたのが携帯電話の販売店。調べると2000年初期、全国で普及していた台数は僅か35万台。携帯端末も安くて100ドル、300ドルなどザラ。価格の安い物を求めれば、箱無しの非正規輸入品が出回っていました。種明かしは航空職員。この当時彼らは検査なし。一回のフライトで何十台かを詰め込んでのアルバイト。このため箱があれば多くは運べないので裸でスーツケースに入れるという訳です。正規品の保証シールは貼っていないがそれでも売れる。現地ではモーバイ・フォンか、Dien thoai di dong(移動電話)と呼びました。
通信費も高くて一般人には高根の花。オネダリは必ずと言っていいほど携帯電話。
販売店では盗難防止でケースの中に収納。あるいは注文の都度、卸屋へ取りに行くくらい在庫は置かない。中古品は本体もコード等部品も売っている、小規模で資金の無い所が多かったのです。しかしこの仕事で大儲け。メコンの田舎から都会へきて、小金を貯め僅か一畳の店から始め、家を2軒建てた女性のサクセス・ストーリーも。時代が大きく変ろうとしていた時期、プチ資本家がドンドン表れてきました。

固定電話は設備が少ない時代。必要ではあるが、何しろとんでもないインフラ整備費用が掛かるため、友人宅も何年も待っていました。
其処へ急速に携帯電話や今のスマートフォンが発展進化。この理由のひとつに、莫大な費用が嵩む設備が要らない、どんどん端末が安くなっている理由があります。
日本より多くの場所でフリーWifiが利用でき、誰もが簡単に使いこなすのには
こうした過程があるのです。
新型ウイルスによる外出規制があり、オンラインショッピングや宅配の利用が急速に伸びている。またキャッシュレス決済の普及も加速しており、感染予防をきっかけに市民生活のスタイルが一変しそうな気配。地方でもスマホを誰もが持っているお陰です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生