日経新聞電子版でハノイ工科大学の溶接学科に関する記事が掲載されました。
同学科は東南アジアで唯一溶接技術を専門的に学べるとされ、日本のIHIや神戸製鋼所などと連携し、技術力の底上げに力を入れる。また2022年には大阪大学などの協力で最新鋭の機器を揃えた研究所を新設とあります。
NHKのロボット世界大学選手権にも毎回参加するほど優秀な学生がいるのは間違いないが、外国の支援に委ねなければならない技術教育の実態。
国内はもの作りの基礎ともいえる溶接技術が貧弱。大学の実験棟ではソ連製が置かれている有様で、最高学府もこの様な実態。記事では溶接技術者の不足が製造業高度化の足枷になっているとするが政府の無策が原因です。
日本には約3万人の技術者が居るようだが、ベトナムは僅かに500人とか。これで先進工業国入りを目指すなど可笑しくないか。2020年に先進工業国入りを国家戦略にしたが不可能と判断。これを明確にせずに2030年への新たな戦略設定だと上手く躱して事実上延長したが、先のようなレベルは氷山の一角で、R&Dに投資をしなければまたも達成できない可能性は高い。
何時まで経っても自立できないもの作り。素材や部品を輸入して労働集約産業である組み立てから一歩も前進することはできません。
こんな状況下で世界のサプライチェーンを中国からベトナムに移転を促進するというのでは、何が造れるのとさえ疑問に思う位。
こうした実態を知らないで進出だ!とかベトナム人は手先が器用だとか、何時までも神話の世界に振り回されているのは馬鹿げています。
特殊車両を製作している企業が、現地で製造できるか?と視察で来越。この時にいくつかの現場をご案内したが溶接は思っていた以上にうまくデキル。普段は見る事さえ出来ない軍の工場に行ったけれど、実は日本の自動車会社の部品を製造するくらいで精度は高い。また造船関係にしても綺麗に仕上がっており、日本と比べても遜色がないと専門家が話す位だから技術が貧弱とはこれ如何。
この記事で技術者とは何を指すのか不明だし、現場では溶接職人がしっかりと良い仕事をこなしているので疑問が拭えず、何が真実かどうも良く解らない。現在は国内で地場企業が製鉄を行っているが、当時、鋼板は日本、中国、韓国などから輸入しなければならず、各国の規格に拠るため大きさや厚みが異なる。残念だが日本の基準には合わない「帯に短かし襷に長い」のが実情でした。
これでは日本企業は発注出来ません。
この国では工業規格がないし、Gマークなどもない。要するに制度や資格、独自の工業戦略や企業でもR&Dは弱い。
ある工業団地へ日本の視察団を案内した。日本企業に進出して欲しい。ところが質問の中でメッキの可否が問われ、先方はできないとの一言。要するに排水処理ができないのです。もの作りとは何かとの理解できていない素人の証明。こんなレベルでは日本企業は来る訳がない。これが実態でした。
これを熟知するある企業。日本で働いていた実習生を社長にして工業団地以外で鍍金工場を立ち上げた。評判がよくて注文は途切れず事業拡大している。
・CAO DANG
以前にも少し述べたが、ベトナムにはCAO DANGという、敢えて言えば日本でいうなれば専門学校、もしくは短大の様なものがあります。
高校卒業後に進む上級の学校で、機械などの工学系、電気、オートメーション、建築関係、会計、経営、語学、科学、教員養成や観光、看護等々と分野が多岐に亘っています。修業期間3年のカレッジコースと、2年の職業養成コースがあって、単科校や複数の課程を持つ大規模な総合校など全国各地に沢山ある。
ベトナムの高校は日本での普通科。工科高校や商業高校などという職業訓練的性格を持つ学校はなく、教育システムも異なるため、実質的にこのカオダンがその高等職業養成機関と言う役割を担っているともいえる。遠方から入学する学生のために寄宿舎が用意されているところも一部にあります。
当地に長く在住する知人から話があり、私が住む区にあるカオダンへ視察に行く事になりました。用件はこの夫妻にハノイにある学校の創立者から依頼され、姉妹校となっているこの学校に日本語クラスを作りたいので、手伝って欲しいとの協力要請を受けたのです。
このカオダンの女性校長であるLY博士の説明に拠ると、正式名称はCAO DANG CONG NGHE THU DUC(トゥドゥック工芸高専)とある。創立から30年以上の歴史を持ち、その使命は全国あるいはHCM市の工業化と近代化に貢献する事で、高度な技術を持つ人材を訓練する学校として日々努力と躍進しているとある。「常に改革と発展」と立派なモットーの許で、5万平米の敷地の中、全校11課程のクラスでは約8千名の学生が在籍していて毎年グレードが上がっていると誇らしく話されました。
すでに語学課程では英語クラスがあり、2年課程の韓国語クラスも持っていて韓国の大学と提携しているが、日本語のクラスを新たに加える計画です。
ミーティングには校長の他、副校長も2名が参加したので関心は高いと思える。ではその目的は何なのか?端的に言えば卒業生を日本へ送りたいという思惑なのだが、流石にベトナムの学校。自由にしてくれていいと言うけれど裏を返せばノウハウに具体的な方針や予算がなく、人材も居なく他人任せ。
先生の案内で各課程の教室を見た。しかし実習用に置いてある電気設備・機械、またIT実習や語学教育に使っているコンピュータは古く、トヨタのエンジンモデルは普通のレシプロ。日本だとハイブリッドが多く、電気自動車また水素エンジンが普及しようとしている段階。しかしベトナムではこれ等まだなので授業は時代遅れ気味で、いまの時流にそぐわない。国内はまだしも、授業内容は世界に通用するものでありません。これで海外へ卒業生を派遣したいとは虫が良すぎる。いっそのこと国内で急速に伸ばしているビンファストの自動車の整備や、EV車の要員として養成する方が良いのではと思ってしまう。
このEV車、国内予約は2万台を超えるとあるが充電スタンドの設置など先行きは不透明。
先のハノイ工科大学と状況は似ているが、技術教育の現場はこれが現実です。
ようやく実態が分り、これはいけないと悟ったのか日本に高専制度を導入したいと依頼があり試行中。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生