昨年10月のコラムに「街の電気屋さん奮戦記」として、私がHCM市で始めた日本人第一号の電気屋の話を書きました。もう20年ほど前の事です。
この中では当時のベトナムの事情や、ベトナム人と一緒に仕事をした経験からの実体験、ご自宅や企業に訪問して起きた様々な出来事や日本ではおよそ考えられない実際にあった珍事を纏めました。
ベトナムはその後に大きく経済が成長して所得も向上、そのため家庭では白物家電製品の普及が進み、また何しろ暑くて蒸し蒸しする気候、このエアコンに関するコラムも別の項に認めました。
店は広くなく冷蔵庫、洗濯機、エアコン、レンジを置いている。だが売れるのは照明器具、中古白物家電、部品や消耗品等のアクセサリー程度。音響製品など文化家電は生活状態から買える訳が無く売れもしませんでした。日本人宅でも修理だけなら出張費は取らないし蛍光管やコンセントの取り付けも工賃程度。この頃エアコン洗浄は6万VND(約500円)程度の細腕商い。
さらに言えばこの時分はテレビの専門修理屋が居て、中古製品の具合が悪くなれば駆け込んだのです。今の状況をみればこんな時代など想像できません。
2000年の初頭、当方で雇っていたワーカーの初任給が60万VNDほど(約5千円)。仕事は手伝い程度で実務的なことはできない。慣れた人でも100万VND。大卒初任給でも100万VNDあったかな?という位です。
この当時のPHO一杯5千VND(約40円)だけど、とても生活できるものではありませんでした。
現在はほぼ平均で500万VNDとか言われるが、物価の上昇はそれ以上。
例えばガソリン価格は1リットルが4500VNDから約23000VND、即ち5倍。インフレの影響で実質的な生活は殆ど変わりません。日本企業などへ就職したい人の希望額は1000ドルにも。もちろん日本語はN2程度必要だし、英語はTOEICが基準になってきています。大学進学率は3%程度だったが、今では20%とかで(正確なデータはなく10%程とかする人も居る)。確かなのは格差が広がって来ているという実態です。
当時は日本人の駐在者現地手当、もしくは現地採用者は一般クラスで1000ドル程度だったけど物価は安く随分暮らしやすかったのです。しかし今、手当等はそれ程まで上がってないため実質的には厳しいのが現状。
また電気製品も大型量販店が出てきて様相が変化。チェーン化も進んでいる。これは世界的な趨勢だが、これが影響してベトナムでも街の電気屋さんは無くなって来ています。
ところが日本、かつてどの街にもあった、家電メーカーのチェーン店。これが再び人気になってきていると報じられています。
家のポストに毎月電気店が制作したチラシが入っている。しかし単に電気製品を売ると言うものでは無く、蛍光管一本のお届けとかコンセント修理など営繕仕事、さらには水回りの補修や屋根、壁の修繕に塗装等、様々な家周りや設備の点検修理まで担当者の顔写真入りで載せている。地道な努力は何れ成果が出て来ます。
世はまさに量販店の群雄割拠にM&A、通販サイトにTVショッピング。だが悪徳水道修繕などは知識のない高齢者を狙い親切そうに声掛け。一旦上がり込むと食らい付き次々吹っ掛けて高額請求。これらの輩は素人、何の知識もありません。これを撃退するコツは家人が建設会社や設備会社に居るので必要ない、もしくは出入りの営繕会社がある。この言葉。私は自分で設計したと言う。
商品知識に関しては量販店でも同じく販売員に殆どないのが実態。質問してもムダ、ムリ、ムシ。こういう風潮の中で、ご近所の昔ながらの個人経営の店が復活し、人気を呼んでいると報じている。
確かに数をこなす通販や量販店では値引き幅も大きい、場合によるが共同企画製品なんてあり、製造番号をみると解るがこれを勧めて来る。街の電気屋では種類や数は少なく割引率も高くない。しかし何かあった時には軽で来てくれるので安心。スイッチ取り換え一カ所4000円とか明朗会計。こういう理由で利用する人が増えてきたと言うのです。
昔なら商店街にこうした店は多かったが、今はニュ-タウンの商業区画か商業ビルの中に変ったが、それでも買い物がてらに顔を合わします。何でもかんでもスマホにPC、だがすべてがそうだとは限らない。高齢化、特に後期高齢者が増えている日本。場合によっては話し相手にも、いわゆるシニア世代を照準にしたある意味御用聞きマーケティングが必要なのかもしれません。
確かに日本国内で製造した物が少なく、近隣アジア諸国の日本ブランド製品の方が多くて安い。しかし実際に使ってみると、機能は多くなったけれど、これはそんなに重要ではなく、販売員が話すのは、耐久性は低くなったとあります。だから買い替え時期とか高く付く修理よりも儲かる新品を勧めるわけ。
ベトナムは過渡期。だが以前に書いたがエアコン一番人気はダイキン。他社は日本製であろうがベトナム、タイ、中国、韓国のメーカーでさえ販売店の育成や訓練などしない。これはバイクのメーカーと大きく異なる所で、日本企業は訓練施設を持ち、代理店の教育をしており圧倒的シェアがある。品質は当然だが点検整備の標準化やアフターサービスが安心に繋がる信頼戦略。固定客増や企業のファン作りとなる。マーケティングが遅れるベトナムです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生