この所何かと話題になっているベトナム人実習生。さて日本へ来た彼らが最も気にしているのは円安。何しろ年初に比べて40%近くも下がれば仕送り額に大きく影響して来て、故郷に居る親・兄弟の生活にも支障が出てきます。
そこでベトナム政府は要望として所得税の免除を依頼してきたのだが、流石にこれは無理がある。しかしこうなるとオーストラリアで募集している農業実習をする方が余程賃金が良いので、このまま手をこまねいて何ら打開策が無ければ彼らが行き先を変更する可能性だって出て来るのは止むを得ません。
ベトナム通貨も最安値、10月末に1ドル=24888VNDを記録。これは中央銀行が為替取引幅を3%から5%に広げた途端の出来事で2008年以来最も下落したと言う。VNDは今年になって8,6%の下落。だが日本に比べると下落幅はまだ小さい。
こうした中で、日本から帰国した実習生のうち26,7%しか直ぐに仕事を見つけられなかったと報じられており、これはタイやフィッリッピンのほぼ半分に過ぎません。彼らの多くは建設、農業、サービス、情報分野で働いているともされます。
報告書は帰国した人が日本語を活かして言葉を教えたり、販売員になったり、また同じ実習生の送り出しの仕事に関与しているが、スキル移転という実習生プログラムの本来的目的を満たしておらず、人材の浪費と呼ぶとある。
だが現地でその様に捉える以上に、日本での彼らの実習そのものが日本で技術を習得し、自国に戻ってそうした技術を移転するというものでは無く、単なる安価な労働力とか、日本人がもはや好まない仕事の補完をするだけの人材としか扱われていないことを問題にすべきだろうと考えます。
JICAが実施した調査では、ベトナムに帰国した実習生が就職するのに難しいとされる理由が分かったという。
他のベトナム人労動者と比べ、唯一強みであるのは日本語が話せるだけで実務遂行能力に乏しいというのです。
この理由には一部の現地企業から、日本に行った実習生の多くは中学か高校の卒業生であり、日本へ行っても特別の訓練がされていないので、仕事をする上での実力が伴わないという問題が指摘されているとあります。即ち一からやり直しをしなければならない。
もうひとつの理由は、日本で得た賃金をそのまま現地でも要求することだが、流石にこれには無理がある。
また帰国実習生を募集するための人材バンクも不足しいることを上げており、採用者の多くは知人からの紹介という縁故、自らの応募、日本の本社や勤務先から現地採用が多いとあります。
実際にこれを裏付ける話を幾つか聞いた事がある。もちろん日本の実習先でも懸命に仕事を覚えて優秀で日本語能力にも秀でている。この会社、進出を決定しており実習生の中からこれといった人材を現地に置くため採用しました。
あるいは中小企業の仲間内でベトナムに進出する際に、採用を前提に日本国内で紹介を得て面接もしていたなど、ある程度の個人に関する情報を得て安心できるケースもある。
現在約50もの海外で実習しているベトナム人は約60万人いるとされ、このうち日本が25万人と最も多く、台湾は23万人、韓国4万人という。
・不法滞在は日本だけではない
ビザが切れているにも関わらず、そのまま残っている実習生は韓国にも多いという。所管する労働傷病兵外国労働センターが把握しているのは韓国内で不法滞在、就労するベトナム人は外国人の9%を占めているという。この理由は単にお金が欲しいからで、帰国しても多くは稼げない。
このため同省では状況を改善するために、採用後の研修や約束通り帰国を促す労働者保証制度の創設が必要だと検討している。
またこの状況を踏まえて同省は、今年の韓国への実習生派遣を4省で停止すると発表している。これはハティン省、ゲアン省、タインホア省、ハイズン省でこの省の8つの区・郡が対象。これ等は不法滞在数が70人以上、帰国せずに働いている実習生の比率が27%以上だとある。であれば日本にも適用すべきだと考えるのだが、日本が甘いのか、日本を舐めているのか。
・再教育をしようと考えていたHCM市
HCM市労働局では、以前のことだが日本から帰国した実習生を再教育しようと考え、このカリキュラム作成と実施するための要綱を依頼していました。
実はこの作成に取り掛かっていたのだが、理由は明らかでないけれど何時しかうやむやになってしまったのです。
一度舐めた甘い蜜の味は忘れられない。しかし何時までも給与にしがみついていては就職できない。そこで技術の再訓練とか日本語の再履修。こうした教育を通じて進出する日本企業へ送り込もうというものでした。
このため教育するための施設も見に行った、カリキュラムの作成も始めたが、残念ながら取りやめになったのです。
この時点ではまだ日本へ行きたいという人が多く、また真面目な人が多かったように感じるのだが、事実3年間の間にお金を貯めて家を買ったとか、事業を始めた人もいたのを知っています。
筆者の友人の弟は大阪府内の工場に実習生として行ったが、休日にはYMCAの無料日本語講座で勉強していた。会社の寮は一戸建て、交代制で料理をしていたが私の帰国時には現地の食材や調味料などを持参、また時折彼らを連れて食事に行ったが、多くの人は帰国せず日本に残りたいと話していたほど会社との関係も良かったし、彼らは一様に懸命に働いていた記憶があります。
帰国後は日本電産に職を得て現在も勤務しているが、3年経つ前にはこの会社の社長から日本に残って欲しいと言われました。だがこの時点では現在のような制度は無く何時まで経っても工員のままの扱い。それなら帰国した方がマシではないかと話したことがあります。実家を建て替え、筆者なども其処に泊まったことがあるほど日本での実習は価値があった。
タラ・レバの話だが、この時点に行動を起こせば先の様な仕事が見つからない状況にはならなかったかもしれません。
国は労働力輸出と呼んで若い人を海外に送り投資コストが掛らない外貨獲得を年間目標すら立てているが、今や目先の外貨より人材育成が大切。
現在はかなり遠方の地域に行き、しかも現地の行政とコネクションを作っておかないと人が回ってこないとか、かつての様なハングリーさのない人もいる。
時代が変わった事を日本の実習生受け入れ側も心に刻むべきだし、政府に行政も根本的に理念にそぐわない間違った実習生制度の抜本的改革をしなければ、口先だけの改革案では日本の彼らに依存しているすべての産業や、モノ作りの将来が危ぶまれます。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生