・最近の小売業の動き
伝統的小売り形態(トラディショナル・トレーディング)である市場(いちば)や路面(上)店などが未だに圧倒的にシェアを持つのがベトナム。
しかしスーパーマーケットやショッピングモールと言った近代的小売り形態(モダン・トレーディング)である大規模小売店舗やコンビニエンスストア、ミニスーパーが店舗を拡大し、売上比率を急速に増やしています。
さらにCOVID‐19が切掛けとなりEC(電子商取引・オンラインショッピング)市場が年々拡大してきている。
またこれまで外資系小売り企業が経験豊富な戦略、企画力や商品力で地場企業を完全に凌駕していたけれど、この所はローカル企業が徐々に力を付けてきていることがはっきり分ります。この傾向は大都市部だけでなく、地方都市にも波及しているが、地方はむしろ地場企業の方に展開メリットがありこの流れは今後より明確になって行くはずで益々競争が激化してくると考えられる。
消費の伸びは経済成長に拠る所得が増えた事が大きな要因であり、さらに企業に勤務する給与所得者が増え、こうした中間層が急増して消費を牽引しているのが理由。大規模店舗へは少々遠いが購入したい商品は何でも揃っているし、アミューズメント性もあって、様々な飲食もできるので家族で一日中楽しめる。館内は冷房しているので家にいるより余程過ごしやすい。小売業者から見ればターゲットとして最もお金を落としてくれるので集客したい層です。
さらにタイの財閥資本がベトナムへ進出。HCM市で流行っていた家電量販店を皮切りに買収。この所は事業展開を加速している傾向があるし、このほかにも日本、韓国などの小売業がベトナム国内で投資を拡大している。だが半面、撤退していった海外企業も多数あり、必ずしも外資系企業が成功している訳ではなく、今後も淘汰と新規参入が繰り返されることに違いありません。
日本は高島屋が進出済だし、この他に無印良品や、ユニクロなどSPAの特色を活かして特に都市部の若い人達に人気を博しているほか、靴のABCマートまで進出。DIYの大手であるコーナンはイオン2号店でショッピングモールであるタンフーセラドンが開業する際に初出店したが、商品アイテムは思うほど充実していなかったように感じる。ベトナムでは家の修繕やインテリアなど自分でする人が多いので、この業態は先々伸びると以前に書いたが、いよいよ店舗を拡大してゆきます。さて二番手、三番手が進出するのか。
この様に小売業は急速に発展・進化し、現地のニーズに合わせて短期間に業態も細分化されてきた傾向が分ります。これから先も引き続いてさらに専門性が高くなり、新たな分野で進出の可能性が見込まれると考えて正解です。
・ベトナムの伝統的小売り形態
ベトナムは急激に近代的小売り形態が発展しています。しかし伝統的な小売り形態は急速に減退しているかと言えばそうとは限りません。
国内小売市場規模は2021年に約3950兆VNDだったと統計総局が発表、他の飲食・宿泊、旅行などサービス部門が減少しているなか、ほぼ前年並みの規模を維持している。
ベトナムで食品や小物・雑貨等を買うとなれば、まず思い浮かぶのが伝統的な家族経営の個人商店(パパママストア)と市場(いちば)。
また路上にズラーと並んでいるのが野菜、果物、魚類などの生鮮物、はたまた服や日用品を対面で商いしている人、菅笠を被り果物など売り歩く人もいます。
こうした伝統的小売り形態だが、日本は22%となっておりアジア主要国の中で最も低い。ベトナムの割合は約85%(2020年度)だが、インドネシアとは殆ど同じ、インドの98%から見れば近代的小売り化が若干進んでいると言えなくない。
HCM市やハノイ市という二大都市では早く(と言っても20年程前)から、スーパーなどの近代的商業施設があったため、幾分かモダントレードは進んでいるがそれでも25%程度の普及率でしかありません。
商工省はモダントレード比率を2020年までに30%、2025年に35%、2030年に50%に引き上げようとしているが、目標通りに至らずいささか計画倒れと言われています。
しかし市場や路面店で小さな生業を営み、日銭で糧を得ている人達にとっては死活問題。急速にモダントレードを推進すべき理由は明確でありません。
外国人が観光に行けばガイドが必ずと言っていいほど連れてゆくのが市場です。
HCM市では1区のベンタン市場が有名だが、北側にある魚類や肉を販売する店舗以外はほぼ観光客向け。土産用の繊維製品に雑貨やコーヒーなどが多い。
5区のビンタイン市場は改装中だが、広くて様々な品物があって、此処は個人商店が仕入れに来る所でもあるため、規模が全く違うので興味が湧く。
だが少し離れた地域には観光客など来る訳が無く、昼になれば殆どが店仕舞い。気温は高く冷蔵設備が無いので生鮮食品を保存できないためだが、一旦休憩して夕方に商いを再開する人も増えた。スーパーで冷房した館内で氷の上に魚を並ばせて販売するのに対抗。氷はもちろん使うけれど水槽(タライ)に空気を送って活魚を泳がし、客の注文に応じて捌いている。
地方市場はローカル色の強いのが見所。世界共通と思うが市場を探検するのは旅の一番の醍醐味。現地食や雑貨など本物の異文化に触れるのが楽しく、何時までも飽きない別天地です。
ベトナムは小売流通業が段階的発展をしてこなかったため、都市部であろうが市場や路面・路上店が市民の台所であり、朝の早いベトナム人にとって便利。しかも朝食を作らない家庭が多く、このため明け方から麺類や粥、日本でもお馴染み人気のバンミーを求める人で常に混雑しています。
多くの家庭は昼までにその日の食事の準備をするためこの市場などへ出かけ、必要なものを要るだけ買うことが多いので無駄な出費は殆どしません。これは冷蔵庫が無かった頃かと言えばそうでもなく、今でもそんなに変わらない。
また買い忘れがあって店に行けば余った香菜などくれるし、卵一個やネギ一掴みだって売ってくれる。こうした近所ならではの顔馴染みになれば尚更のこと、好みまで知っているのが愛される理由のひとつかも知れません。
仕入れに行くのはまだ暗い払暁、バイクのない人は雨の日でも自転車で行く。こうした苦労を聞くから応援したくなる。急に廃れる事は無いと考えている。
国内にこうした市場や個人の店はどのくらいあるのか。市場は約9000カ所、これは行政の単位であるフォン(坊)に一カ所、基本的に設けられる。
また専らその地区だけの狭い存在となる零細パパママストアは、実数を完全に把握できないが220万軒にも達すると言われ、扱う品物は身の回り品や生鮮食品に加工品が主。此処は大型店で買うより安価で購入できる利点がある一方、回転に難がある。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生