わずか2カ月前のコラムだが最近のベトナム不動産事情に触れました。その後HCM市近辺で多くの物件を供給してきたアパート分譲企業はどうなっているのかだが、良い方向にはなくむしろ悪化しているのが現状です。
例えば最近の報道では、さる会社の資産でもある国内に一台(世界でも31台)しかない超高級車を売りに出したニュースがありました。だが売れない。
価格は日本円換算で1億1300万円とか。此処までくれば遮二無二換金できる間に売っておこうと誰しも考えるが、もはや末期的症状だと判っていない。
ビギナーズラックではないが、比較的早い内に分譲事業に参入し、急成長した会社らしくたっぷり稼いだ劣悪の成金趣味の権化。多くの事業者は不動産に関する知識や経験はない。聡明な経営者とは思えないし、分不相応なアブク銭など持つものでは決してありません。
この会社、株式も上場しているがこの所の不動産が売れないという問題を抱えており、今年9月時点で総資産約260兆VNDの内、棚卸資産が約129兆円とほぼ半分を占めていると言うから驚きです。
こうした状況の中で、株価は下落して連日のストップ安。11月の直近1月間で52,3%も下がったとある。従業員は半分削減しなければならないし、抱えている負動産物件をほぼ半値近くに下げて売り切ろうと目論むけれど、そこはどっこい消費者が怖くて動かない。状況が悪化しているのは誰しも分かっており企業が倒産すれば元も子もなく、支払った金は戻らないし住めなくなります。
実は筆者も経験したのが昭和50年前後。建設会社が新規に開発部門を作る際、私は両手を両挙げて社内応募した。関西で第一号の億ションなるものを芦屋市で建設、販売にも係わったが、当時法的規制などなく面白いように利益が出た。
普通の会社なので特別ボーナスなど貰えないが、それでも自尊心は芽生えた。会社は入札に参加するとか営業で受注するより簡単に自社開発で売り上げがあがるし、利益も出せるとどんどん用地を購入した。ところがじわじわと響いてきたのがバブル崩壊の足音。福岡で開発したマンションが売れず、社長が出して結論は半値で売れと博多へ長期出張。新聞が記事にして、大阪にある本社が当地の状況を掴めずなんて叩かれたが、皮肉にもこの宣伝効果は大きく全戸売れてしまった。
要は建設のプロであっても開発の業務はできない。調査や企画・販売も別物でしかありません。居住型はまだしもリゾート物件なんてどうにもならない。
その後も誰が担当しても売れなかった物件を、全国数カ所を走り回って全て売り抜けたのです。
ましてベトナムは不動産に関する法規など整備できておらず、ほぼ野放し状態であるには違いありません。ある知人のアパートを訪問した際に、このN社が建設している物件が目の前にありました。現地では中高級物件を分譲する企業とあったが、筆者にはとてもそのように見えなかった。何れ窮地に落ち込んだ負動産法則、半値・八掛け・二割引、坂道を転げ落ち底なし沼に入って行く。
・来年の不動産市場の天気予報は大雨
こんな中、来年はどうなるの?との記事が出て来ました。誰しも興味はある。
専門化に拠ると、また多くの市民でさえ不動産を取り巻く環境は厳しいものがあると理解しているが、年末から来年にかけ急落すると予測しています。
ベトナム不動産協会では住宅そのものは引き続き増えてくるけれど、販売価格は上昇しないと見ている。これは素人でさえ考えることで、目新しい見かたがある訳ではありません。しかし政府は本腰を入れて障壁を取り除こうとしているため、来年は徐々にバランスが取れて来ると中途半端な期待感を演出する。
HCM市不動産協会でも、HCM市が決議したとされる、決議18NQ―TWに基づき革新を続け、制度、政策を改善、土地管理とその利用の有効性と効率改善し続ける。このため来年は不動産市場において現在の困難と重複する問題を解決する絶好の機会とみなしている。からと訳の分からない禅問答の様に、要は、来年は回復すると予測している。これには土地法と幾つかの関連法改正が予定されており、不動産供給問題は解決する、と夢のような話が裏付なのか。
またまた不動産バブルが生じないかといえば人口と経済が発展過程にある間はその可能性は消えない。ベトナムは外国投資で経済を活性化し成長してきたが、未だに海外から投資を広く深く高度に歓迎しているのが現状。またベトナムは人口ピラミッドが崩れてきたとされるが、人口の増加と都市部への集中は未だに続いている。こうなると余程の覚悟を持って政府・各人民委員会が法的効力のある具体策を持って掛るかに拠るが、短期間で大きく変わる事はあり得ない。
道路交通インフラ整備が加速し、地方へ分散していくとなればこの傾向は拡大するのは常套です。此処はやはり先進国の歴史と過程を研究するべきでしょう。
だが経験則から見るといくら期待感を持ってポジティブに語ろうが、購入者の心理が冷え込んでいては如何ともし難いのです。必ずしも一社だけが苦境に落ち込んでいるというものでは無く、先記のように社会・経済全体からみて業界全体が信用を無くしていれば、不安感を払拭するのは容易でなく時間が掛るのは絶対法則。そうなると一部の企業は経営破綻を迎えるのが自明の論理です。
回復へのプラス要因とするのは、依然として続くベトナム経済の成長で、こうなると不動産市場へ資本流入が見込める。また与信限度額の見直しによる資金の枯渇を防ぐことだと識者が語っています。しかしベトナム経済は一見順調に見えるが、初めに記述したように不動産企業だけではなく製造業なども同様に資金調達などに苦労している現状で、しかもコストの上昇と地場企業の輸出減、従業員確保が歴然と降りかかっているので、安易に信用すべきではありません。
また仮に資金がある程度潤沢になれば、回転資金や設備投資に回り、余剰分は慣例通りに株式など金融商品に投じられる筈。先ずは来年(テト)以降の株価がどうなるのか、これを見極める必要があるのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生