ベトナムの農業 まとめ 4

2023年12月8日(金)

米を中心に書いてきたが、生産量の多いのはコーヒー、ゴム、カシューナッツ、コショウは世界的。また年中何らかの旬があるトロピカル果実です。

コーヒーはネット記事に拠ると2050年には世界の生産地が半減する?とかだし、中国の消費量が近年急増していることもあって、価格の高騰は将来的に避けられないともあります。
現在輸出量ではブラジルに次いで世界2位。約14%のシェアで、80か国に輸出されているとありますが、高級品と言われる高地栽培のアラビカ種が10~20%、ロブスタ種が90~80%と言われる。日本へはロブスタ種の輸入が多い様だが、多くは他国の豆と混ぜて使われています。しかし丁寧に栽培し上手に焙煎して淹れるとアラビカ種よりも旨い。生産地は中部高原ラムドン省、ダクラク省など。この所は日本のメーカーの支援もあり品質は向上しています。また有機栽培も手掛けられている外、CHONといい、イタチの種類の動物が食べた後の実が一番美味しいとされ、スーパーなどで買うことが出来ますが、実はニセ物も多い。さらに言えば、ひと山越えればラオス。品質は落ちるのだが、これがベトナム入って来て、ベトナム産として流通している。何とかしようとバンメトー市に取引所を作って防止しようとしています。

ベトナム産ゴムは世界3位の輸出国で、約9%のシェア。80以上の国と地域に輸出されている。中部から南部にかけて生産されるが、HCM市郊外、周辺省でもゴム林は多くみられます。伐採後の木は家具に加工されて輸出される。
ゴムの原種は南米だったが、僅か数本の苗木がマレーシアに持ち出されて以来、東南アジアでも栽培されるようになったとかの謂れがある様で、此処ベトナムでも多く栽培されています。かつては映画(例えばインドチャイナ)に出て来る通りフランスの植民地だった頃、プランテーションでは多くのベトナム人が奴隷の様にこき使われ、フランスへ莫大な利益をもたらしました。

コショウは歴史的に西洋人が肉食のために必要不可欠なスパイス。金より高価であったとかで、列強のアジア植民地支配の一因になったとも言われます。
実はベトナムが世界一の生産量を誇り、約40%にも達していて110ヵ国に輸出している。黒コショウが約87%、白コショウが13%程度とあります。
フーコック島の特産で空港から少し離れると胡椒畑の中に道路が走っていて、目的のリゾートへは此処をバイクで行ったことがあります。現地では生のまま肉料理に使うほどポピュラー。お土産にも嵩張らず香りも良いので喜ばれる。
此の他には茶があり、生産量は世界7位、輸出量は5位とか。実は紅茶にされるのが51%で、緑茶が48%、1%はその他。北部の中国に近い省が特産だが、正直いって加工技術に問題があるのか、日本茶の旨さ(味・香り)には劣るし、種類も少ない。ラムドン省ではかつてコーヒー園だった農地を、日本の製茶Kメーカーが土作りからやり直し、日本の機械を導入して緑茶を作っている。

この他にはベトナム伝統医薬である漢方に使う薬草を栽培する畑地があります。
HCM市郊外で個人が高名な薬学の博士に傾倒して畑を作ったが暫くして頓挫。小規模採算が取れないし、多品種少量栽培と需要からも簡単ではない様です。
また高地で栽培される輸出用の花卉。ダラットなどは陸路でHCM市へ運び、その夜のカーゴ便で輸出できるようになりました。
果実は初めに書いているし、他の根菜類については敢えて記さないが、この所は輸出が増えている。
高品質と残留農薬検査に厳しい海外、また国に拠って検疫体制が異なるので、それに合わせる必要と意識改革が必要です。これまで隣国は殆どこうしたややこしい検疫は無かったが、今後さらに輸出は増えて行くものと考えられます。

・問題点と課題

世界有数の農業国であり、輸出国でもあるベトナム。だが幾つかの問題と課題があります。
生産量の10%程しか加工されていないし、近代的な設備がある工場は少なく、機械化されていない場合が多く生産効率は低いとある。このように付加価値が低いけれど、おまけに農産物の加工とブランド化が進んでいないのが現実です。
加工まで出来るが業者は輸出までは面倒だとして、バルクとかノーブランドで海外の相手国業者に輸出しているケースが実際にあります。検査機器も揃っていて品質管理もきちんとする、まともな業者もいる。正真正銘の本物だと確認して、もったいないとオーナーに独自ブランドを開発して輸出を勧めたけれど、全く聞かなかったことがありました。これが相手先のブランドになって日本で販売されていた実態があるのが残念。適当に儲けがあるので、商売の意欲に欠けるのです。ならば配分を考えればいいだけだし、投資も考えていなかった。

また、折角良い製品を造っていても、ベトナム産として低い評価でしか見られていない現実があるという。品物も良く商品開発に熱心で良心的な業者がいて、海外の食品展に出品したが全く効果が無く、引き合いすら無かったという。
一方で実例だが、ベトナム原産で加工もベトナム国内。外国人が経営する企業があってマーケティングと販売(輸出)を直接行っている所がある。
こうなると事情が異なってきます。
生産地はメコンだが、時間を掛け農家を回って関係を構築。指示通りのものを栽培してもらい、外国のノウハウと機械で製造した。結果は収入が増えて双方の信頼関係が強固になり、一層の向上があったという。これはHCM市のフランス人と、別のアメリカのベト僑の二つの食品会社の話です。
一番の課題は政府が改善と支援を進めなければ地場企業だけでは限界がある。大手ベトナム農産品輸出企業(元国営)も輸出には熱心だが、其処までは考えない。自由経済下での競争原理が分かっていないし、グローバルな知識が無い。また経営観とか販売戦略には疎く、何よりも情熱を感じなかった。

次には、生産性が低いという問題。
此の原因は、小規模生産と言うのが最も大きな理由。かつては地主が小作人を雇っていたことが歴史上ある。しかし現在の体制になって細分化された農地が多いと云われています。
また狭い商圏内での栽培が主であったためであり、何しろ暑い気候。こうなると生産物の傷みが早いから、その日に採った物は、その日に売る。これが鉄則。だから多くは作らなかった。これに関連して物流問題が挙げられます。
また農家の専門知識は高くありません。受け継がれてきた方法をそのまま繰り返すことが多いのでは進歩がない。さらに後継ぎがいないという問題がある。
日本の様に農協がそれぞれの専門員が農家を指導するなんてことはない。大学を出た人が地域一帯の指導を行うケースはあるが、慣れ親しんだ方法をすぐに替えろと云われても時間が掛ります。
また小規模農地ゆえに、機械化が大変。大規模化して生産効率を上げる。また安定して生産と収入を維持するのなら、企業化して行く必要も考えられます。

またロスが多いという指摘もある。
先に挙げた物流。例えばダラットから大消費地であるHCM市への輸送はかつてバスに載せていたことがある。時間は8時間以上掛かる。道は悪くて振動が来るし、梱包や野菜等の入れ物であるコンテナが無かった。おまけに冷蔵設備はない。これでは朝に採った新鮮なものでも、傷みが出て来るのは当りまえ。
ある有機栽培を手掛けていた人の話です。夜に彼の販売所兼自宅に行った時、余り物を頂いたが、決して売り物にはならない。

高速道路が途中まで開通し、道路も良くなったので時間は短縮できたのだが、では農作物のアフターハーベスト問題、物流と冷蔵倉庫に関してだが何処まで改善されたか。これが解決しなければ意味はない。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生