明暗分ける輸出産業 繊維製品企業の業績は落ち込む

2024年4月8日(月)

現地報の報じるところ、ベトナムの重要な地場二次産業である繊維関連製品の一部の輸出企業は年初に注文が入ったけれど、受注金額は思うほど大きくなく、企業の流通在庫や諸費用はかさむ一方なので、頭を抱えているとしています。
今年になって1~2月には多くの輸出企業が回復をみせはじめる中で、HCM市の縫製・刺繍協会に拠ると、多くの繊維業界では依然として低迷状況にあるとしている。この原因は受注した企業の殆どが小規模事業所で生産活動を維持し、従業員に仕事を与えて生活を守るためには、たとえ利益が多く見込めないと分かっていながらも仕事を受けざるを得ない苦境にあるとしています。
ではどうしてベトナムの繊維産業の現状がこのような事態にあるでしょうか。
先ずこれまでベトナムから繊維製品を輸入していた各国の購買力が、世界情勢の悪化の影響から抜け出せず、弱くなっているために消費者の紐が固くなっており開けてくれず悶々としている。
さらに急速に繊維製品の輸出が増えたけれど、何処の新興国でも同じ歴史をたどってきたように、ベトナム以外の近隣国、ラオスやカンボジア、さらにバングラデッシュなどの国々の製品が、その労働賃金の低さから競争力を増し輸出を伸ばしている事情が挙げられる。またこれらに加え自国では原材料の自給が殆ど出来ないので、多くは輸入に頼っている事も理由として考えられるのです。

HCM市の皮靴協会でも事情は同じで、最近の受注状況は企業が10社あれば注文を受けているのは僅か3~4社という有様。このため一部の企業ではテト期間に入る1月には操業をしないことを決めたとある。
昨年とは比べ物にならないくらい状況は悪く、今のところは明るい見通しは立たないのが実態。この理由に関して主要なマーケットであるアメリカとEUは、依然としてロシアのウクライナ侵攻の影響を受けているとしています。
ベトナムの皮靴は安い。これにはかつて恩恵を受けたし、ベトナムでビジネス活動が進み、スーツを着用する様になってからは革靴を履く人も増えている。
だが多くの人は数を持っていないし、まだまだサンダル履きの人は多く国内での需要はこれから増える可能性は高いと考えます。しかし高級品の製造やその受託はしておらず付加価値が低いという問題がある。ひとつの理由は皮自体の問題と鞣しにあると考えるが、品質的にはまだ低いので改善が必要なのです。

繊維製品の輸出状況に商工省貿易促進局のタイ副局長は、動向を注視していると縫製業界では昨年来需要減少の影響が深く残り、企業は多くの在庫を抱えていると指摘しているという。
2月に開催されたHCM市繊維関連の国際展示会・VIATT2024に関する記者会見でタイ局長は、2023年度の縫製業全体の輸出総額が前年比9%減、約400億ドルの減額となったことを明らかにしたのです。
この輸出減少はこれからも世界的経済の低迷に拠る影響を受けるとあり、今年も困難な状況が続くと予想されるとしている。今年1月の輸出について受注はあったけれど、金額、数量も少なかったと危機感をもっている。
同省は主要市場であるアメリカやEU向けは発注が減少。新しい注文についても生産者責任の問題、炭素国境メカニズムなどの問題に直面しており、輸出は世界の課題から減少が続くものと予測しているのです。
さらに追い打ちを掛けるのは物流費の高騰。これが商品価格に大きく影響しているという。アメリカやEUへの輸送コストは従前の2倍にも値上がりしているという事情があるけれど、価格に全部転嫁出来ないので負担が増えている。
ベトナムに進出して人気がある日本のユニクロ。同社が世界各国で展開しているのがPSIです。すなわち同一国内で、生産と販売を行うことであるけれど、ベトナムでも行っているはず。ところがベトナム国内で若者を中心にして人気が沸騰。なんと日本にベトナム人窃盗団がやって来て、多くのユニクロ製品を万引きして逮捕された事件があったけれど、ベトナム国内での異常なほど人気があり日本の店舗で盗んでこれをベトナム国内で売って儲けようとしたのです。
ベトナムには多くの日本企業が参入している。京都のワコールもそうでアジア向けのインナーを20年以上前に生産開始、各国の女性の体型に合わせて夫々製造するという。他にも主に日本向けやベトナムから海外向けのアパレルなど様々な製品群もあるが、中国企業も韓国や台湾も同じ様に工場を持っている。
だがベトナム国内の工場では生産が主で、製品の企画やデザインなど研究開発は殆ど行われていないのが現状。要するに地場企業は単に海外企業から生産を受けるだけで自社開発を行える企業が無く、せっかく消費性向が変わってきている、また経済成長に伴って購買力が上っているにもかかわらず国内需要を満たすことが出来ない。これは他産業と全く同じで自助努力に欠けるわけです
新興国が海外から受注を増やす時期は遅かれ早かれ時間の問題なのだが、これを意識せず、営業努力をせずに待ち受け姿勢であったのが根本的な間違い。
ところがタイ局長は、ベトナム企業が新たな受注先を開拓して発展するためには国の補助政策が必要であると指摘している。さらに海外のバイヤーと組んで展示会を世界市場で開催、海外の大手企業のベトナム進出を促進するともいう。
TTP加盟国など新市場も期待できるが企業の甘えなど良い加減にしろというべきだし、何時までも海外企業進出に頼る構造から抜け出せないのが致命傷。
だが企業は新しいトレンドを把握し、商品開発や新素材の研究、見本製造の取り組みなどで、今年度の輸出は440億ドル、9,5%増を目標としています。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生