田舎の家族の元を離れHCM市内のEPZ(輸出加工区)や工業団地で働き都市の発展に貢献してきた。初めは誰もが夢や希望を持ってやって来る。
HCM市を理想的な棲み家と思っていたが、今はこうした期待も消え去り、夢破れて故郷あり、HCM市から離れようと考えている人が多いのです。
市当局は統計に拠ると、出稼ぎ労働者は減少傾向にあり、2022年と2023年の二年間連続して減少している。2023年に流出人口が増えて社会増加率は0,68%。これは自然増加率0,74%を下回ったとあります。 これまで常に社会増加率が上回っていて、HCM市には毎年地方から17~18万人が流入したのだが、2023年には6万5千人程度に大きく減ったとしているほど急速に人の流入が減少し、魅力のある都会で無くなってきているのが数字のうえでも証明されたとしています。
ではこの原因とは一体何なのか。これに関して市当局の統計担当者が例を挙げたのは、多くの工業団地があるタンビン区に隣接しHCM市で最も多くの労働者が働いている企業。此処は受注量の減少により人員削減を余儀なくされた結果、多数の地方出身者が割を食らってこの地域を離れたとしている。
これはCOVID-19が流行した際にも他の地域の工業団地でも同じ状況にあったが、ようやく回復傾向になったけれど帰郷したワーカーは元の工場が破格の優遇策を提示しても戻らなかったくらい。もう都会はコリゴリだ。
この状況について社会生活研究所のロック所長は、以前のHCM市は国内で最もインフラ、雇用、収入、成功といった魅力を備えた磁石のような存在であったという。しかし最近では地方にも外資系や地場企業の工場が進出し、この結果競争力が向上している。これはHCM市の相対的な魅力が薄れて来た事を意味する訳だが、その一方でまた物価の上昇や交通渋滞なのも問題が増えたため企業は労働者削減を行ない、労働者はHCM市に移住することが難しくなっているのだとしている。
しかしベトナムの地方自治パフォーマンス指数に関する報告書に拠るなら、2023年においてHCM市は地方在住者にとっては最も移住したい場所になっているのも事実で21,68%となっている。この移住を希望する理由で最も多いのがより良い仕事に就くためとあり、まだ31%の人が期待しているとあります。出生地と言えよほど田舎の生活が苦しく嫌なのかもしれない。
これは日本の事情を当てはめると理解しやすいが、日本の人口は減少し昨年の出生者も70万人を切って毎年個の減少に歯止めがかからない。ところが東京への人口流入は未だに続いているのと同じ、だと考えてほぼ間違いない。
独り勝ちの様だが、実際に住んでみると賃料は地元の数倍だし、物価も比べ物にならない。空気も水も汚く、人間関係も薄く難しそう。それでも行きたくなる魅力が人夫々にあるのだが、実際に会社の転勤で住んでみたところ、何を違うのか考えたが個人的に得られたものは殆んど無かったと思っている。
それどころか地方の人間の集合体でしかなく、歴史は浅く明治以降無理矢理日本の中心に仕立て上げた感が強いと思っただけの話。
余りにも経済、金融、文化、教育を集中し過ぎた弊害があるだけで、自然の災害が多いにも係わらず地方分散をしてリスクヘッジをしてこなかったのは政府の責任。もし何らかの災害に首都圏が見舞われると日本はどうなるか?
余計な推測はさておき、先のように多くの人がまだHCM市は移住先の有力な候補地として思っているけれど、その一方で期待しながらも何らかの理由でHCM市に移住した多くの人々は納得ゆく結果が得られずに、涙を呑んで故郷に戻ったということを意味しています。
これが即ち、先のHCM市の社会人口増加率を急速に減少させている理由であり、もはや憧れは過去の栄光でしかない訳で、この状況はこれからも続く可能性は高いとみます。すでに行政では如何ともしようがないほどに巨大化した社会現象と高度発展中の経済に翻弄されているのが一般の人だと思える。
個人的に何もなかった7区に長く住み、その後またもや洪水に見舞われ人気が無かったトゥドック区にも8年。しかしこの時期は地方から流入者が増え市域の拡大が起き瞬く間に環境(急激な都市化)が変化した流れを観て来た。
あまりの無計画さ、歪なほどの経済成長を体験してきた身からすれば、現地の行政や企業にしても、理解が及ばなかったほどの急激な経済成長に直面したゆえ対応できない無為無策の結果だが、何れは起きるべくして起きただけとしか思っていないし、日本の高度成長期を経験してきたからこそよりこの事情は鮮明に理解、納得できるのです。
VCCIなどが調査したところ、HCM市、ドンナイ省、ビンユン省で働く出稼ぎ労働者1200人以上を対象に実施したが、15,5%が将来帰郷すると答え、44,6%がどうするか悩んでいると回答。39,9%が特に予定はない(考えた事が無い)とした。この調査対象者の殆どが家族持ちで子供を実家などに預け、食費や医療費などの生活費や教育費を得るのに十分な収入を確保するために都会に来た。しかし実際は38%以上が今の収入では不足。
田舎に仕事があれば直ぐにでも戻りたい人は47%になったが、どちらも仕事にありつける訳などない。余りの学力格差があるし、職に就くだけの技能も無いけれど、都会なら何かあるかもなんて軽い気持で来た人も知っている。
HCM市における雇用に関する戦略的方法なる報告書には、地方からの労働者を惹き付けるとか、定住することを阻害する要因は生活費が高すぎることであり、市の平均月収格差は3,5倍の開きがあるという。
これが様々な貧困のゆえの格差を生み、社会サービスでの不平等を引き起こして居るとまとめているが、具体的な解決策などはありません。
昨年末の調査に拠れば、HCM市などの大都市で生活する上で必要な給与額は861万VNDとなっている。
ところが統計局の調査ではHCM市に居住する2023年度の労働者の平均給与額は651万VNDだが、これは何とビンユン省、ハノイ市、ドンナイ省に次いで4位という。
これでは生活費さえ下回っている状況でHCM市に見切りをつけて離れるのは当然。そうして何にも安定も、向上しないと思ったらHCM市に住むことにこだわる必要などなく、別の場所を探すということになるのです。
こういう状況が明確になり、この様な情報が即時にSNSで拡散される現在、市の地位は低下する一方としており、政府が適切な対応をとらなければこうした傾向はますます加速する。地方からの労働者に依存しているHCM市にあっては今以上に労働者の確保は難しくなるとしている。
これ迄に感じた事は、企業の地方出身者へ福利厚生の概念は薄く、ただでさえ作業環境の悪い企業があり、ランチの無償提供と年に1~2回の社員旅行。家に帰れば狭い部屋に数人での生活が待っている。社員寮がある所は極めて少ないし、高賃料に関わらず家賃補助が無い。しかし殆どの人は故郷に居る家族や子供のために生活コストをギリギリにまで切り詰め、無償支給される給食をしっかり腹に貯め、出来得る限りの送金をしているのが実態です。
しかし食えなければHCM市から離れて行かなければ仕方がない。こういう現地の深刻になりつつある現在の底辺の労働者事情、モチベーションなど上がらない深刻な状況を、本国にいる経営者や担当役員がまず理解しなければなりません。
HCM市には公的職業訓練学校もあるし、此処には地方出身者のために寄宿舎もある。民間ならば公共機関以上に熱心だが、なにしろ教える教科内容が旧すぎるのです。これでは他国へ人を送るにしても反って相手側に迷惑。
ようやく日本の高専制度が日本の協力で造られたけれど、その前に高校教育を普通科一本でなく、工業クラスや商業課程など時代と企業の要請に基づいて設置するべきだろうと考えます。
基礎知識に欠けているのがこの国の教育。だから能力のある人が開花するのが遅いと感じています。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生