ベトナム不動産年初の動き

2025年4月26日(土)

・今年1~2月にベトナム南部で売れたヴィラ、タウンハウスは僅か1%

不動産高騰が長く続いたベトナム。だが多くの人は高層住宅より庭付き1戸建を望んでいるのが本音で、これは我々日本人と同じ農耕民族の血ゆえと思える。
これまでデベロッパーが企画した大規模開発案件では、その多くに高層住宅とタウンハウスが建てられている。このヴィラやタウンハウスは周りを塀や垣等で囲まれ、出入口には警備員が24時間常駐し、人の出入りを監視している。見知らぬ人が来ると何処に行くのかと聞かれ、場合によっては確認をとるのはセキュリティーがしっかりして安全な証拠。しかし仕事で中に入るのに苦労した経験が何度もあります。
このヴィラとかタウンハウスは一昨年の記憶だが、一棟が日本円で1億円以上もしていたけれど結構好評であったのです。しかし3月の報道では売れ行きが芳しくなく、年初来2カ月でHCM市郊外、ビンユン省、ロンアン省、バリア・ブンタウ省で供給した戸数約5000戸に対し、販売できたのは75戸と僅か1%に過ぎず、開発業者は苦労しているとある。
この理由は主に価格が高くなったからとベトナムで不動産コンサルタント会社を経営するDKRAが調査し報告しています。また昨年同期比では16%が売れており、通年での平均販売率は21%だったとも報じている。
別のHCM市にある大手不動産開発企業であるBatDongSan社のレポートでは、今年度の不動産市場は大幅に回復傾向が見られ、土地やアパートへの強い需要はあるけれど、ヴィラやタウンハウスへの関心は購入者の心理がもうひとつで、減少傾向にあるため、この先の販売回復はかなり厳しい様だとしています。
HCM市ではプラットフォーム上で別荘とかタウンハウスの検索は、問い合わせ全体の僅か2%に留まっており、先の厳しい状況を数字で証明している。
なるほど、そういえば筆者のメールにベトナムから不動産販売の案内が来ているけども、久しくなかったので何で今時!と思っていたところだったのです。
DKRA社の幹部に拠ると、魅力のなくなった商品と位置付けているが、現在土地付き住宅の供給とは主に2024年度の再掲載された売れ残り物件という在庫で構成されているというのです。即ち新規に開発や建築されたものではありません。
HCM市でヴィラとタウンハウスは5,3百億VNDから、7百億VNDまでが主価格帯。隣接のドンナイ省は3百50億~2百30億VND程度となっているけれど、価格が高すぎるため投資家でも購入を躊躇していると説明している。
外資系のサヴィルズではHCM市内で建てられたヴィラやタウンハウスは1㎡当り平均3億5千万VNDとかなりの高額になっているとしています。
こういう流通が滞っている状況にも拘わらず、殆どの開発業は値下げをせず、支払の延長に応じることしか考えないので、買い手を見つけるのは難しくなっているし、これだけの高価格物件を購入できる人などそう易々とは居ません。
あれほどバブル期に乱高下を経験した筈なのに、金利とか経年劣化を考えると損切り覚悟で処分するのが得策と思えるけれど、踏み切れないのはなぜか?
と筆者は考えるのだが、またもや不動産の価格が上がるとの期待感なのか、土地やアパートが復活する気配を感じているからかもしれないが、これは恐らく無理ではないかと考えるのが妥当です。
今年に予定されているベトナム南部での販売戸数は3000~5000戸だと調査会社が分析しているが、こうなると購買予定者が先に検討するのは新しい開発物件であり、都市化が進むHCM市を中心として、交通が便利な地域へと移って行く可能性は高いとみる。特にやっと地下鉄が開通し、これから幾つかの新路線計画があるのでこれを参考にするのは道理です。人口がまだ増加するベトナム、だが未だ都市部への流入は続いている。COVID-19の結果、帰郷する人が増えたのも事実。だが幾ら地方での生活環境が良くなったとか、工業団地が地方にも出来、外資系企業が地方で生産活動を始める傾向にあると言えど、都会へ人が出てゆくのは日本の人口移動動態を見ればよく分かる。大学などの高等教育やR&D、医療や様々な利便性は格差が大きいので、向上心が高い人は収まらない。当面は都市部での生活や仕事の環境は変わらないが、産業構造に変化が起きつつある状況では経済活動は活性化が期待できます。年齢を重ねた人であれば別の考え方もするけれど、こうした現状を考えると不動産市場への極端な変化はなく、仮に急激な高騰が無くなったとしても高止まりの傾向は続くのではと考えられるとみて正解、ベトナムも例外ではないと筆者は考える。

だが昨年2024年の秋位、第三四半期から、HCM市の区から市に昇格したトゥドック市(HCM市の東部)のヴィラやタウンハウスの価格が下落に転じたのです。
かつて国道一号線と統一鉄道が並行して走っていた地で、市内中心部へも遠くなかったけれど、国道一号線が付け替えられてから寂れていた。いわゆる川向こうなので開発は遅れ、地方からの移入者が数多く住みついたのです。筆者はこの地に約8年住んで変遷を見てきた。新橋が架けられて、タンソンニャット空港への道路などが建設、拡幅されるなどインフラ整備が急速に進んだ。
こうなると俄かに不動産開発も進み、あっという間に街の様相が変化し、これまでの緩やかな生活環境も変わって行った。道が出来ると開発はさらに奥へと進んでゆき、またこれまで小さな規模で建てられた住宅販売から、大規模開発へと移って中心部から遠ざかって行き、土地は広いけれど不便さが増します。
不動産コンサル会社サヴィルスVNのレポートに拠れば、前年同期と比べると28%減少、第二四半期から14%価格が下がったというが、平米単価は2億7500万VND。他地域で新築住宅が766戸、一戸当たり100億VND以下の物件が販売開始されたのが切掛けだと言えなくありません。
ところが従来よりも格安住宅が第三四半期に新規供給の29%も占めたというから尋常ではなくなる。これに刺激されたのか、郊外の区では70~100億VNDという物件も出てきて、この期の販売の特徴というか、企業戦略なのか、第二四半期に140%、第三四半期には170%と四半期ごとに徐々に増えて、とうとう73%を占めたとあるから売れ残った物件は堪ったものではない。
このトゥドックの別件も中途半端な場所。郊外と言っても道路が広くて立派になっただけで遠離感は否めない。となれば低価格にしなければ到底売れない。
この辺りがマーケティング力の分かれ目なのか、売れるから矢鱈滅多造れば良いという時代ではなくなったことに開発業者や担当は気が付かない訳です。
今年度はこのように有利な条件にマッチしたヴィラやタウンハウスが140件出て来ると思われるため当面この価格帯が主流になって行きます。

話題となっているのが建設したまま売れずに放置。老朽化が進んでいる物件があると写真入りで報じられました。
住宅都市開発公社が開発した物件は同じくトゥドックの市街地から20キロも離れている。
約160ヘクタールと開発面積はかなり広いけれど、住民は殆んど居住せず、空き家は壊れ、工事を放棄した建物に土地だけが残り街全体が荒廃している。当時の価格はヴィラが200~400億VND、タウンハウスは80~180億VNDと安くない。市内から移転した人は約束されたショッピングセンター、学校、病院等の施設が建設されず居住者はまばらで不便。引越しをしなければ生活できないのが実態。
これ等はまさに日本の公社と全く同じ。要するに役人は仕事の知識や知恵などなく技術者もいない素人集団。マスタープランはバブル時に描いたもので盛沢山な夢物語。当時の感覚として金は使い放題だし、造れば売れるとでも思っていたのか常識的な不動産開発理念からかけ離れているのです。

この様な馬鹿げた物件や計画はハノイ近郊でも同じ。HCM市と同様に昨年の第3四半期から崩れ始め、第4四半期には17%程価格が下落したのです。
一時は投資家が買って利益を抜いて売ったけれど、もうこのやり方など通用しません。これは物件が急増したことだと解されています。だがHCM市と異なりこの地域は元々供給不足なので、今年度には解消されると見込まれている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生