・HCM市の住宅価格は平均年収の176倍にも
上がり続けるHCM市の住宅価格。もはや留まることを知らないけれど、何処まで上がれば収まるのか。地方出身の新規購入希望者は諦めるしかありません。
このほど不動産企業CBREが調べたところ、所得と住宅価格の割合を考えると住宅を持つのはほぼ不可能になっていることが分ったとあります。
これに拠ると民間の住宅価格は平均所得の何と176倍にもなり、これでは幾ら努力しても購入出来る訳がありません。HCM市とその周辺である南東部の地域での平均年収は1億7千万VND(約6400ドル)となっており、幾ら何でも所得との乖離は激しく、解決に向けた政府の施策など何一つない状態。
地方から大都市圏への人口の移動は表向きCOVID-19が原因となって、一旦収まりかけたものの容易には変えられるものではありません。外資系企業やベトナムの工業団地を運営する企業は、費用が安くつく地方へ拠点を転じ始めました。ワーカーレベルの人材は拾えても、例えばHCM市やダナン市では
金融センターを開設する訳で、こうなると地方で高度人材を得ることは難しい。また高等教育機関は地方にも出来てきたけれど、有能な人材は大都市に集まるし、帰郷する人など殆どいません。
ますます肥大化する大都市だが、インフラ整備が進み、人材に企業と富を集中させている現状。格差が広がる一方で物件価格は高騰、諦めるしかない。
大手不動産会社ナムロングループが投資家会議で明らかにしたのは、HCM市の民間住宅価格。今年上半期1平米当りの流通市場価格は、1億6千万VND(約6000ドル)。50平米の2DKクラスのアパートなら市場の実勢価格は80~100億VNDにもなるというから堪りません。
別の記事に拠ると、不動産投資管理会社JLLでは流通市場価格が1平米当り1億6500万VND(約6200ドル)になったとある。このため新規物件の販売率は僅か27%だった。買えなくて当たり前。
さらに別の不動産を供給する企業DKRAでは、7月度の販売はたったの7%しかなかったとしているというくらいの酷さです。
不動産アナリストによると、住宅を購入する殆どの人はHCM市で住むことを諦め、タイニン省、ドンナイ省、ビンユン省など近隣省の衛星都市部でしか買えなかったと述べている。其処は住宅価格が遥に安く、意外にも交通インフラは改善されていると言うのです。HCM市中心部から10キロ以内では1平米あたり2~8億VNDだが、3020~キロ圏内では4~5000万VND(約1500~1900ドル)にまで下がるというのではやむを得ない。
・不動産開発業者の在庫が記録的な水準にまで急増
国内不動産開発企業大手であるノバランド、ヴィンホームズ、カンディエンなどの流通在庫は第2四半期に前例がない程の水準まで上昇したと報じられた。
100社以上もの地場業者の在庫合計では、金額で評価すると531兆VND(約201億5000万ドル)を超えており、これは年初来11%の増加です。
業界で最も多いのは、中堅所得者への供給が多かったノバランドで、過去最高の150兆VNDとか。ただしこのうちの95%はドンナイ省アクアシティー、ノバワールド・ホー・トラムとHCM市のグランド・マンハッタンなど建設中のプロジェクトであるとしています。
またベトナム民間業界最大手であるヴィングループは、在庫が98兆6000億VNDを超え第二位となった。ツートップで50%近い在庫を持つ訳です。
地場証券会社で調査分析をするタム氏は、建設中の物件は開発業者最大の在庫となるとしているが、未完成物件を在庫とするのは建設業簿記でも、考え方としても正しくない筈。完成して売れないまま残っている物件を流通在庫とするべきなのです。
どうしてこの様な訳が分らない話になったのか、在庫が多いということは即ちプロジェクト実行のための資金調達に対する問題があるからで、2022年から2024年にかけて行政が事業を承認することへハードルが上ったため大量の在庫を持つことは、危険であるからとしているのです。しかし当局は今年になってからこのボトルネックを解消し、多くの事業案件を進められることになったため供給を増やしたからともしている。
不動産の開発事業には大量の資金投下が必要。だから資金量が豊富な大手企業しか大規模開発が出来ないし、事業が成功すれば利益も多く、再投資が可能になるため増々規模が拡大増殖する訳です。だが反対にバブルが弾ければ塩漬けとなり全く動く気配など無く下がり続けるので、このギリギリのラインの見極めが重要。ベトナムのこれ等大手であっても2度目のバブルでは殆どが売れず、従業員を解雇し、売れる物は何でも金にして来た。さらに形振り構わず資金繰りのために危険な私募債まで発行してきました。此処に来てまたもやゾンビの様に復活を見せているベトナム不動産事情。どんどん都市部へ流入人口が増え続けており、理に適った開発適地などありません。そこで現在ではかつて誰も見向きしなかった不便な郊外の土地。筆者が7区のPMHでアパートを購入した時と同じ様な状況、4区の運河を越え市中心から移動など考えられなかった。
それもそのはず、一帯はマングローブの湿地帯。誰もがこんなところに巨大なベトナムで一番の住宅都市ができるなど考えられなかったのです。アパートの一期が完成しても売れ残っていた。今では考えられないほど何の利便施設もありませんでしたから、将来像が描けられる訳がありません。
市内へは10キロも無いけれど足はバイクでしかなく、かろうじて近くにあるこれも東洋一の規模であったタントアン工業団地に通勤する日本人などが利用する会社のバスかタクシーしかなかったのです。
ところが市南部のカンザー地区開発など、何処を見習ったのかなんと開発して人を定住させ、HCM市内の勤務地まで通勤するために電車を通すというからたまげたもの。ではベトナムでこうした実績があるかと言えば、ありません。
日本では阪急の小林一三が100年近く前に初めて使った経営手法。だが此処ベトナムで、ターミナルとなる起点にデパートを創るまでの知恵があるかと言えば其処まで無い。電車を製造、運行システムを運用するなどとても行かない。
今年上半期、HCM市の当局は停滞した571案件の不動産開発事業が直面する問題を評価して、923Hrの開発用地と86兆8000億VNDの63のプロジェクトを解決したとあります。
急増するアパート開発にHCM市は開発を事実上制限してきたけれど、此処にきて停滞して動きが無かった物件の価格は急上昇。何時までの意固地を張らず増え続ける人口へ対処するため重い腰をあげたみたい。
現在の住宅ローン金利は平均6,38%と低くなっており、2024年後半からの約7%から低下。買いやすくなったので販売者、購入者の両方にメリットがあるとしている。だが先にあるように物件の絶対価格がもはや一般の新規購入者の手に負えなくなった今、焼け石に水。需要はあるけれど、ではこの状況でラム氏が言う在庫が捌けるのかと言えば、そう簡単ではないと考えるのが妥当。
しかし地場証券会社では、上場不動産開発企業の第2四半期は利益が129,6%増えたとしているのです。
住宅法の改正、そして行き詰まった不動産案件が復活、また政府が進める公営住宅の大幅な増加が功を奏したとしている。
・高い在庫は開発業者を悩ませる
別の記事にも同じようなコメントがあるけれど、ノバランドの在庫は同社の総資産の59%にもなるし、カンディエンは76%、ナムロンも65%に達しているとある。不良債権とまでは行かないけれど、市場での動きは物件価格が余りにも高額で、一般の新規購入者の所得からみて購入できる訳がないので先行き直ぐに現金化できるものではないため、状況は芳しくない。
建設省によると、第2四半期の全国不動産在庫数は前年同期比で73%減ったが、未だ17,100戸をこえている。不動産協会に言わせると必要な許可がないので多くのプロジェクトが未完、各業者はそれらを棚卸しなければならないとしているのです。
2022年半ば以降、住宅の販売は減少を続け、今ではCOVID-19以前の水準の15~30%に過ぎないと調査会社は報じているほど状況は厳しいのです。
それにしても日本の場合と異なり、業者にとって行政から様々な許認可を必要とされるのでイチイチ応じなければ販売は許可されない。完成しても売れない事情があるというのでは大きな負担になるだけで、売れないとなれば借入金が増えるばかりとなります。
日本の場合は、農地であれば形式的に農業委員会でいとも簡単に農転を行い、開発許可と建築確認を取るが、問題は地元への説明。販売は法律に基づき分譲価格を届け出、事務的に銀行などとローンの折衝を行って販売、契約の手続きをする。建物が竣工して消防などの検査を終えれば、引き渡しを行って登記。この間に何かあるかと言えば筆者の経験では何も無かった。
・公営分譲住宅は7カ月間で36,000戸完成 2030年までに100万戸政府が急に力を入れているのが公営住宅。今年7カ月間で昨年の7倍にもなる36,000戸が完成したと報じられました。
首相は二年前に、2021年から2030年の期間で少なくても100万戸の公営アパートを建設するという案件を承認しました。実施後3年を経過して、建設省が調査したところ、692件の案件が実施され633,000戸が着工。
このうち146件の工事が完了して103,000戸が完成したのです。
今年2025年は目標の約6割が完成する見込みとある。この理由は建国80周年となる訳で、なんとか政府は頑張っているという姿勢を見せたかった?
日本ならば国ではなく、地方自治体の仕事であり、また住宅公団が箱型の4階建てアパートを昭和32年に完成したが、これは当時としては超近代的な設備、水洗式トイレに全戸風呂付、またこれまでと違ったキッチンをシステム化して家事労働を合理化したのです。サラリーマン層がこぞって入居を申し込んだが当時の新婚家庭の始まりは文化住宅と称した民間の2階建てアパート。これに比べると家賃は高いが魅力的で文化的な生活が送れると誰もが羨みました。
だが窓枠は鉄製で重たい、畳はひと回り小さくいわゆる公団サイズ。法律に基づくのであるけれど、賃貸分譲共に日本の住宅を狭くした元凶です。
然しこの国ではこの様な考えはなく、不動産価格の格差の乖離が激しくなって、ようやく公営分譲住宅建設に傾いたわけだが、問題が無いわけではありません。
識者が論じるのは、用地は市の中心部から遠く離れており、インフラが不足している。また需要と供給が一致しないという。必ずしも専門的な部署が客観的データに拠って計画を立案したというのではないので、研究機関による調査が必要で、何百万人もの中低所得者の住宅ニーズに合うようにするべきとした。
・HCM市トゥティエム地区で4000戸のアパートが競売に
この地区、サイゴン川を渡ったところで急速に開発が行われた所。かつて運河を渡るのはフェリー、決して環境は良くなく、地方、特に中部からHCM市に移り住んだ人たちが多く、少し離れると沼地が拡がっていたミニメコン。
其処に建てられた3790戸のアパートだが、実は2017年に初めての競売にかけられたけれど、誰も購入しなかったのです。価格は8兆8千億VND。
それ以来HCM市当局は5度も競売を繰り返したのだが、今もって新しい所有者は見つからないという。となれば日々荒廃をしてゆくばかり。
今回はHCM市人民委員会が、5区画の3570戸を競売にかけるようにする計画を発表。また所管である農業環境局に対して定期的に検査して競売を実施する様に命じたとある。業を煮やした訳だが、人が住まなくなった建物は年数が経過するにつれて荒廃、管理を行ったとしても元に戻ることなどありません。
これ等のアパートは2015年から完成して行き、トゥティエム新市街地に再定住するために建てられた12,500戸の一部分という。ところが新市街地を創るにあたって立ち退き等の影響を受けた人の殆どは、再定住するための資金を受け取っていたので、居住する人はほんのわずか。計画がずさんであったという外ありません。
そのため市当局は販売に切り替えたけれど、全戸一括で買い取り。こんな金額を払える不動産業者などいません。入札に参加するだけで保証金を20%収めなければならず、仮に応札に成功すれば落札価格の50%を一カ月以内に支払わなければならず、残りは90日以内の支払と定めているのです。これでは殆どの業者は手が出ない。役所というのはいい加減なもの、自己資金を出しているのではなく税金からの拠出。だから自分の腹は傷まない。不動産開発業者には人口が増えるから行政サービスが機能しなくなるなどと、新規開発をさせたくなかった市当局。なぜ一般募集に切り替えなかったのか。入札には誰も参加しなかったのには、開発業者がこれまで市が新規開発を認めないとする経緯に腹を据えかねたシコリが残っているからなのかもしれません。
さらに当初の価格は、住宅の経年劣化が進み鉄製品は錆が出ている状況にあるし、ガラスは割れて部屋内に水が浸入、設備器具は傷んで使えない。また団地自体が荒廃しているにも拘わらず減額されていないのでは増々以って陳腐化。幾ら市域の不動産価格が高騰しているとあっても誰も相手にしなくなるのです。
仮に商業用に転用するとなれば土地使用量が上るので、投資家は手を出さない。取り換えや復旧費用はとんでもなく高額になり、商売に向くと言えば無理筋。
もし5回目の入札が不調なら、これらの住宅を公営住宅に切り替えて販売するべきと不動産専門家は提案しているのだが、市は耳を貸さない状況。だが改装してでも販売しなければ資金回収など出来る訳がありません。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生