筆者が気になるベトナム企業、それは一世を風靡するVinグループではなく、ラーメンから事業を起こしたマサン(馬山)。ラーメンが事業の原点であるという点ではVinグループと共通するけれど、筆者は企業歴史を見てきて事業家として納得できるのはマサンに軍配を上げます。
ベトナムでのインスタント麺は日本のエースコックが進出して以来、トップの座を走って来て譲らなかった。だが地場企業は価格の安さを武器にして、また国民のラーメン消費も後押しして急速にシェアは地場企業が稼いできている。
またベトナムの国民食であるPHOも人気で、これは日本でも販売されている。
味の好き嫌いは誰にでも何処でもあるけれど、中でもマサンに流れが傾いていると言えます。しかし今ではそれだけでなく巨大小売企業を率いている。
強みの理由は、この企業グループの経営者であるグエン・ダン・クアンさんの経営方針であり、研究開発と流通が極めて重要とする考え方があるからです。
最近の現地発の経済記事には、マサングループの事業の歴史、海外進出、またマサン・コンシューマーに関する記事が報じられている。
・R&Dと流通能力がマサンの世界展開を推進する原動力
ベトナム地場企業の多くの社長に聞かせたいのはこのタイトルだが、経営戦略を明確にしている記事が掲載されています。コンシューマー社(MCH)は、大規模な研究開発(R&D)センターを持っており、消費者ニーズを吸収して輸出を促進し、ベトナム製品の存在感を高めているとしている。
日用消費材業界が厳しい競争の段階にある中、マサンは製品の品質を高め国際基準、継続的な改革に焦点を当てた経営戦略を追求しているという。この事業は原材料から完成品まで、食品の品質と安全性に関する国際基準に従って管理され、バリューチェーンを形成しているとあります。
MCHはマサンエコシステムの一部を形成、ベトナム大手企業のひとつであり、その開発戦略に付いては、プレミアム化、家庭外諸費の拡大、イノベーションの促進という三本柱が中心となっている。これに拠るユーザーへのアプローチは同社が顧客ベースを拡大し、また世界的なトレンドに沿った製品開発を行うことで、自続可能で優位性を確保するのに役立つというわけです。
コンシューマー・イノベーションセンターでは、消費者の思考や行動に関する調査研究で、製品の開発を管理する全ての研究開発を管理する収穫を成す。
毎年このセンターでは100以上の新製品のアイデアが生み出され、その中にはOMACHI(ラーメン)の自動過熱鍋麺、唐辛子ニンニク・ニュックマム(魚醤製品)ウィイクアップ47など現代が好む消費トレンドを形成している。
日本企業の製品開発力からすれば、この数はそれほど多いとは言えない。だがこの国の企業に在って、研究開発に、また消費者目線でマーケティングに時間を掛けて研究施設を保持し、調査研究を形にする企業はそれほどありません。
かつては国営企業が企業、経営力もマーケティング力、まして研究開発を行う施設を持つ地場企業は無く、それ以上に社会主義計画経済下での生産しか経験せず数を造ればいい、品質は二の次、文句があれば買わなくていいとしていた。
これではまともな製品は出来ず、まして輸出などとんでもないこと。全く進歩が無かった時代が長く続いたのは国民にとって不幸の極み。だから経済は成長せず社会も進化せず、国民の所得は上がらず、国際的にも貧困国からに抜け出せなかった。全てを海外からの支援に外資系企業の進出に拠るしか外なかった。
筆者が1997年に初めて訪越、1999年に日系企業のマネージャーとしてHCM市に赴任した時点ではまさにこの状況を呈しており、進出した大手日本企業の現法社長は、北から来た能力のない相手の責任者にはウンザリしていた。
要するに国営企業は開発能力にマーケティング力はなく、製造にも限界がある。出資できるのは土地建物という現物。生産する最新鋭機械や企画できる力に、新製品を開発する能力、それらに必要な投資資金は持っていなかったのです。
それから20数年、このマサンの様に、創業者が海外の現実を見てきて起業、現在に至って何が企業に必要なのか、ようやく人物が出て来たわけです。
マサンはこの研究施設が完成した結果、研究開発システムを活かして線製品の発売サイクルを業界平均の半分、12カ月未満に短縮したという。2018年から2024年にかけMCHの収益の20%は革新的な製品だと言い、R&D主導の効果であるとしており、戦略が見事に当たったとも言える。
だがサイクルは先進国からすればまだ長く、ようやくスタートラインに立ったとしか思えないけれど、それでも此処まで来られたのは才覚かも知れない。
また生産とR&Dへの投資の結果、MCHはアメリカ、オーストラリア、韓国などの厳しい食品安全基準を満たし、海外展開への道を切り開くことが出来た。
こうしてMCHはアメリカと韓国のコストコやオーストラリアのウールワースなド世界有数の小売企業の商品棚に、日本人にもお馴染みのチンスーと唐辛子ニュックマム・ナムグーを並べることができたのです。
これは重要な成功体験であり、品質、生産過程、食品安全性における国際基準を満たし、輸出機会が増え、ベトナム産製品が物流、包装などで継続して高い水準にある事が証明できた。輸出を増やせる重要なステップになると言えるし、MCHも貴重な海外経験を持てたし、海外展開への自信を深めることができたとも言えるのです。また国内地場企業との競争に於いても優位性を確保できたと考えて間違いありません。
・社内力の強化
MCHは国際的なひのき舞台に躍り出て相できる可能性を見つけたが、国内にあっても効率を高める食流通システムも改善しているという。この流通ネットワークの改善の結果、同社今年第4四半期に追うプラス成長に戻り来年度には回復の基礎を築けるとしているとCFOのタン氏は語り、34の省・市で完了し、全てが稼働した10月以降、効果が得られたとしている。
この直接流通モデルは在庫と供給を最適化、製品がロスなく消費者に最も近い販売拠点に届くというものだが、経営に於いて最も重要である機会損失を失くすという課題を克服している様に考えられます。これは筆者の最も得意とする経営学における領域であるけれど、同社では地域ごとに営業担当を再編成し、自動註文提案ソフトの開発で、営業と小売店とを直接つなぐことが可能で、人とテクノロジー、リアルタイムの接続がポイントとある。この結果、販売店が34万5千となり、卸売りチャネルがシェア60%から30%に低下、労働生産性は50%も上昇し大きな短縮と利益確保が実現できました。これは日本企業というより日本古来の流通チャネルからすれば大英断。しがらみがなく、商業流通と物的流通が未熟であり未開拓だからこそ、むしろ自社での整備と開拓が可能であったのかも知れません。
だがMCHのCEOであるレ氏は、自社にと流通の再構築は中長期的に重要であるが、ベトナムの消費者にとってバリューチェーン全体の近代化を目指す訳で、小売り最前線に立つ企業であるからこその消費者思考だと思える。まさに中内氏が起業した主婦の店ダイエーの原点、より良いものを、より安くという、企業理念をひっさげ、常に消費者の目線で価格決定権は流通業にあるとし大手家電メーカーや政府の規制と真っ向から闘い、大店法でスーパーは規制されるまで消費者の味方として君臨したスーパー台頭の時代の寵児と重なる気がする。同社に拠ると、強力なファンドメンタル、好調な業績と投資家の信頼に支えられ、今年後半もしくは2026年度初めにはHCM市の証券取引所に上場することが実現可能であるとし、そうなれば国内大手商業流通企業の地位を強化するのに貢献できることが期待される。またグループ全体では、Winコマース、MeetLife、マサンハイテクマテリアルの成長にけん引され、最高益を達成。
MCHにとっても今年から来年2026年にかけて成長軌道に乗り、資本市場での地位を確立するのに重要な時期に来ていると思えるのです。
すでに同社ではHCM証券取引所に億株以上の10上場に関わる書類提出済で、2025年には35兆5000億VND(10~15%増)、税引き後利益が、7兆8000億VNDの計画を出している。
多くの地場企業は同族で固め、資本と経営の分離が出来ていない状況。これを打破し真の株式会社になることこそ、消費者に賛同が得られ道理だと願いたい。
・平坦な道ではなかった
2019年末、マサングループはVinグループのVinコマースを買収すると発表した。当時ベトナム最大と言われる地場小売業に投資するというけれど、実は数千奥VNDと言われる累損を抱えていた企業買収に、市場は懐疑的であったと言われる。このためマサンの株式は40%急落。しかしこの話はマサンの買収でなく、ベトナム初の自動車メーカーとおだてられ、調子に乗って大赤字を抱えてしていたVinを救済する事でもあったのです。
即ちロシア留学仲間のブン氏、二進も三進もいかない。筆者からすれば当時のこの小売り形態に疑問を持っていたし、極めて拙速な進出、教育もされていない社員、それどころか商業流通を事業として行うには余りにも酷い有様を感じていたのです。ベトナムの小売形態は、日本の様に歴史的に段階的発展をしてこなかった。三段跳びどころか走り幅跳びで、これは他の小売業でも同じだが、大規模小売業であっても理念はおろかノウハウも無く、モノを売るだけ。個人商店と何ら変わらなかったのが実態。先進国の真似でしかなかったのです。
ましてマサンが買い取ったVinコマースはいわゆるコンビニ形態。戦略は無く出店することで売り上げ至上主義、利益など構わない無謀。これでは日本から進出したセゾン系のファミリーマートに主賓力にしろ、ドミナント出店戦略にしても効率的な店舗運営ができず、勝てる筈は無い。しかし地場企業の利点を活かして地方に出店してことは後々プラスであったのです。
マサンはこの後に不採算店を整理し、第一段階として消費者と小売りの統合を目指してプラットフォームを構築する5年改革に着手していたのです。そして二段階目にシェアの強化と利益創出に注力してきた訳です。
創業者クアン氏は、マサンの理念に関して、消費者、株主、顧客に価値を創造することに力を入れるとした。だが時悪く、パンデミックの影響は免れない。
指標の一つである単位当たり(面積1平米)の販売実績は改善できなかった。
こうなると本家の足を引っ張りかねず、投資家に対しても買収したものの荷物に過ぎなかったと苦戦。このため事業再編成をせざるを得なかったとあります。
この後5年間は色々と変遷があったけれど、マサンの一貫した経営思想、即ちM&A企業を変革し、利益が出る体質に変える戦略があることと分析している。
成長のため徹底した採算構造を調査分析でB&S、消費者のためAIとビッグデータの解析を行うためR&D施設を開設。さらに品質管理を徹底、製品改革を実施し新商品サイクルを短くしたのです。企業ファン作りとトレンドを予測、フィードバックには会員制度を活用し、5千万人に成長させている。こうしたマーケティング手法でパーソナライズ化し、成功法則を地域の小売店と業態の最適モデルを構築して年間400~700店舗の新規開設に適用しているが、このような経営哲学と企業戦略を持つ地場企業を筆者は他に知らない。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生