人材が不足するベトナムIT・AI業界

2026年1月30日(金)

ラム主席は11月16日、ハノイで開催された科学技術部門66周年記念イベントで、ベトナムを発展させるため今年3月に統合された新しい科学技術省にイノベーションとデジタル変革を加速するエコシステムを育成する様に求めた。
国家管理機関としてエネルギーの安全保障を確保し、持続可能な成長を促進するため半導体、人工知能、バイトテック、新素材、原子力など重要なハイテク分野の成長を、近代的で統一され安全な国家デジタルインフラの必要性を強調。これを国家統治、デジタル経済、また社会の中核と評したのです。
また資源を最適化して、科学技術への国家予算の配分を大幅に増やし、企業やベンチャーファンドへ関心を促進するべきだとした。グローバルな人材を登用、革新的スタートアップを支援、高等教育においては市場ニーズに合わせるためカスタマイズされたメカニズムを求めたとあります。
盛沢山な内容で、ごちゃごちゃして良く判らない。要するに国家を発展させるには科学技術が重要であり、先端技術を得るため必要な人材を確保しなければならないので教育をしっかりするように指示した。だが国はその予算は出すと、ありったけの言葉を羅列しただけの感じがする、本当にやれるのか。

・グローバル人材の誘致に政府は住宅と車を提供!と大判振る舞い

随分前のことだが、友人に誘われてある集会に引っ張り出された。何でも新しい会社を作るため人が必要と集まった会合の様だが彼は魅力を感じたという。
代表者は将来、住宅と車を社員に提供すると話をしたが、なんだかアヤシイ。こんな話は嘘っぽいと彼に忠告したが耳を貸さない。結局暫くして新聞に掲載されたのは詐欺師とあったが、すでに彼は席に居なかった。一人っ子で母親との将来の生活を考えての事だが、真面目な人ほど美味しい話につい乗せられる。
ベトナム政府はテクノロジー、イノベーション、デジタルトランスフォーメーションで優秀な人材を確保するため、科学者に住宅や車両を提供すると新しい政令を公布。また最大4か月分のボーナス支払い、医療パッケージ、移転手当、外国人ならば年に一度家族共々帰国する費用を提供するとした。さらに市民権を申請すれば資格も与えることを法令で条件を定めたが、先走り過ぎです。
対象者は特許取得済の発明者や共同研究者、また海外の有名な研究機関、大学、企業で豊富な経験と専門知識を持つ専門家、または国際的な賞を受賞したとか、効果が証明された研究成果を出した人。あるいは世界のトップ200にランクインした大学で博士号を取得、著名な学術誌に10本の国際論文を出した人。
だそうだが、誰がこの国へこの程度の待遇でわざわざ先端技術未開の国に行くのだろうか?明らかに高度な専門人材が居ないことを証明しているだけの話。

・半導体エンジニア5万人不足を心配だというが

現地発の経済ニュース、ベトナムでは毎年1万人の半導体エンジニアが生まれているとある。えっ、そんなにいるの?高等教育機関の人数を拾ったのです。
政府が画を描く2030年までの半導体産業人材育成。2050年を見据えたオリエンテーションでは、少なくても5万人のエンジニアと、15,000人のIC設計者、35,000人の製造・パッケージングのエンジニアを育成するとしているのです。
HCM市では集積回路の設計、チップ製造、また関連部門で9,000人が今、AI、IoTビッグデータ、スマート電子機器などハイテク分野の基盤を築いていると市の科学技術局は説明している。市当局は国の経済、科学技術の中心として半導体開発事業は大きな発展のチャンスであり、また南部経済圏と国全体にドミノ効果をもたらす責任があると自負しているという。
世界の半導体市場は2030年までには1兆ドル規模の巨大産業に発展するとの予測をアメリカの調査会社がしており、これに乗り遅れないようにとの考え。
ところが経済紙に拠ると地場半導体産業は、10億ドル規模の事業機会があるというけれど、実は高度なスキルを持つ人材がいないという極めて深刻な状況に直面しているという。
ベトナムの半導体産業はまだ初期段階にあり、サムスン、エヌビディア、クアルコムなどの大手企業はベトナムを戦略的に捉えているが、地場企業のFPT、VITTELなどがサプライチェーンに参加を始めている。HCM市は年間、400~500人の人材を輩出しているが、これは国の目標の1割未満、またテープアウトチップを教えられる教員は10人未満とされています
2025年8月に首相が議長を務めている国家運営委員会の会議で報告されたのは、ベトナムには現在7,000人のICエンジニアが居て、その他のエンジニアは7,000~8,000人と言われるが、これらの人達がどの位のレベルなのかは定かでありません。
2024年に30近くの大学がマイクロエレクトロニクスの課程を開講したが、此処に10,000人が入学した。今年はさらに多く入学すると予測している。
しかし現地報はスキルの高い人が不足していると心配している。*ベトナムの新学期は9月。

こうした事情からHCM市科学技術局は、HCM市半導体技術協会と協力して半導体とマイクロエレクトロニクスの研究と訓練を行うため同盟を設立した。
国の研究機関と協力して開発プログラムの再構築、国際的な研究開発の提携、訓練、技術移転を促進する計画。また大学や研究所は実践と理論とのギャップを埋めなければならないとしたとあります。

・5万人ものエンジニアを本当に育成できるのか?

現地報はまた5万人のエンジニアを実際に育成・訓練できるのか、との疑念を呈しているが、これには促成栽培の様に3カ月間の短期コースに重点を置いているからとしている。多くの企業にとっても迅速かつ費用対効果が高くなるとするけれど、要するに正式に学部として設置する様でなく、短期で取得が可能というのは、背に腹替えられない、やむを得ない事情があったと解釈できます。
だが果たしてこんなことでベトナムに進出する世界のトップ企業に通用すると考えているのか。また国が考える成長を促進するための国内産業として成立が可能なのだろうか?教える側も少なく、どこかに無理がある。
ベトナムは2025年3月にマイクロエレクトロニクスに関する学部、大学院の基準をやっと公式に制定したとある。以前は卒業間際にこの課程の専攻していた学生は年間数百人規模というから恐れ入る。世界の潮流に全く乗っていなかった訳で、出遅れ感、今さら感が強いのです。
今回、多くの学校がこの新しい基準で募集を始めた結果、応募する人は1科目あたり平均9点(10点中)を超える位になったという。すなわちベトナムでは100点が満点ではなく、10点が満点。記事をそのまま解釈すると難度は高いという訳。しかし幾ら最先端のクラスであろうが、明確に募集定員が書かれていないし、修得期間が3カ月のままなのか。または就職が有利になる資格を取る様な講座か、であれば単位はとれないのか、など判らず解釈が難しい。

そこで記事には、多くの学生がこんなに迅速に訓練を受けながら、品質を確保できるのかと問いただしていました。
また大学のプログラムには実際のラボと実践的な実習が必要。しかしベトナムにはまだ十分な施設は不足しており、卒業時にはスキルギャップが生じている、即ち能力格差が激しいと書いているのです。
それでも5年後には予定通り人員を確保でき、工場を稼働することができるとする一方、コストと困難を伴うけれど突破できるだろうが、より深く進めるのは重要としている。かなり強気、だが楽観的な姿勢だが、粗製乱造の感はある事を示唆しています。であれば、何も無理してまで中途半端な人材を増やすべきでないし、就業しても、少なくとも企業が考える一定レベルの業務すら遂行できる能力に達していない場合があるという外ありません。
そうなると設計や製品に品質に問題が出て来るのは必至で、ベトナム地場企業特有の付焼刃的経営思考に過ぎず、お粗末の限り。よくも平然と出来るものこれは古い機械でネジを造るのと訳が違う。失敗が許されない超高度な最先端技術をどのように考えているのか、本気で国家が優先する事業の一環として、人材の育成を進める気があるのかだが、真剣度が全然伝わってきません

・ベトナムのAI 人材不足の壁にぶつかっている

また別の日の経済記事だが、これにはAIファーストという如何にも自信満々な話の裏で、多くの企業は充分な資格に能力を持つエンジニアが見つからないため、プロジェクトを先延ばしにしている状態だという。
ハノイのある企業は12の人工知能アイデアを持っているが、専門知識は不足しており保留中。実装できるエンジニアが居ないので機能を一時停止している状況にあることを取材に対して会社は認めている。
国立大学情報技術研究所に拠る2025年のレポートで、2025年7月から10月に掛けて、AIベンダー、研修期間、企業の100の組織を対象に調査したところでは、最大の障壁がAIの進化に伴う人材不足と回答している。
また仕事は沢山あるけれど、人が居ないので事業を絞っているとあり、組織の45%が質の高い人材を求めている状況にあるという。

求人市場でも、急速にAIエンジニアの需要が増しているが、これは2023年の2,5倍、さらにマネージャークラスでは5~6倍にもなるけれど応募すらない有様という。要するに人不足だけでなく、戦略を立て大規模なプログラムを運用できるリーダーがいないと事業は進まないというのです。
こうした人材のギャップは研究、開発から生産に至るまで全てに及んでおり、ベトナムの高度人材不足を象徴しているのが現実となって表れているけれど、政府は何にも気が付いていません。
人材紹介のキャリア・ベトナムでは銀行、金融、電子商取引、メーカー、教育分野でAIへ関心が高まり人材獲得競争が激化しているとしています。
そこで、これらの企業はスキルを持つ人材にますます給与を増やしているのが実情。現在確認している最高額は新卒者にも2000万VND(760ドル)、スタッフには3700万VND(1400ドル)、リーダー格では3800万(1440ドル)、マネージャークラスだと6000万VND(2280ドル)となっており、さらに増える可能性もある。この人材募集欄への閲覧回数は、600~1000回と関心が高いとしています。

スキルギャップ解消は重要で、推計で数十万人の情報系エンジニアがベトナムに居るとされますが、AI専門家は少数だと言われているのが現状。
従来のITと重複することも多いけれど、AIは数学、データ、機械学習手法に厳しい条件がある。情報技術研究所に拠ると、大学でのAI教育はまだ始まったばかりで、教育訓練課程では数学とプログラミングの基礎とあっていない。
実験用の高品質なデータセットの不足、最先端の研究資料へのアクセスが制限されているといった問題が指摘されているとあります。
また大学と業界との繋がりは余りなく、多くの学生は実際のプロジェクトではなくシミュレートされた学習なので、実務経験が無いので就職活動も遅れる。
またベトナムにアイデアがあっても、世界的にみると3~5年トレンドが遅れていると指摘されているのです。
そこで一部の大学はカリキュラムを見直して、AI開発に向けて必要とされる基礎教育である数学のレベルを上げてその単位を追加している現状にある。
これに企業側も応じて技術的取り組みを支援。大学と企業内トレーニングとを組み合わせ、若手のエンジニア研究への参加を促し、生産現場と大学のクラスとのギャップを縮小する方向性を出してきたのです。いわば産学共同で国家が要請する先端産業の人材確保に協力するという。
国家イノベーションセンターとJICAがこの4月に発表したベトナムのAI経済に関する報告では、ベトナムがIT教育に投資するに連れて人材のパイプラインは強化されつつあることが分ったとしています。
2023年時点ではITカリキュラムを持つ大学は165校あり、この課程を卒業した学生は年間4%増えている。ベトナムは数学教育に長年に渡り力を入れて来て、数学オリンピックでは常に優秀な成績を収めています。数学教育は黒板があばれいい。実験や実務教育の様な教育コストが掛からないメリットがある訳で工科系など実務課程は無く普通科しかないのはこのため。
こうした数学の基礎教育は世界的にみても相当しっかりしており、ここにAIのワーキングが組み合わされば、競争上で優位に立てるというのは納得。

しかし、現時点でのIT関係の労働力は、2026年までに53万人に増えると予測されている。いくら数学が世界的に上位にあっても専門的AI教育そのものはプログラムが不足しているため、また業界との接点が限られているので、AIツールに、フレームワークに関しても、実践的スキルは依然として不足していると分析している。

先の人材紹介のキャリア・ベトナムに拠れば、人材の需要は安定しているけれど、重点は量ではなく、質へと移っているとあります。
AI人材は継続的に成長すると予想するけれど、これはビジネス上での問題に付いて、直接解決するよりも、AIの応用に転換する傾向が増える。小売企業、ヘルスケア、メーカーに銀行などユーザーと向き合う業種ではAIリテラシーが採用における必須の基準になるであろうと、近年のトレンドを分析している。
さらに政策も重要で、AI研究、開発、事業展開を促進するための共同研究、資金、技術交流などで一貫した政策が必要で、企業がベトナムに合わせたAI製品を構築できるように、そのルールとプラットフォームが必要としている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生