4月7日、国会で決議された2名の人事に国内外から注目が集まっています。
現地各紙は有名紙や地方新聞を問わず、またネット記事にもこの人事に関してかなりのスペースを割いて報じており、関心の高さが伺えます。
日本でも今回の人事について報じられていたけれど、当然と言えば確かにそうだがそれほど詳しくはなく、事実をごく簡単にまとめただけ。しかしこの人事がこの先どのような影響を与えるかを考えなければならないのではと考えます。
・首相交代
兼ねてから噂があったチン氏が任期満了で勇退。最後の仕事としてロシア訪問。世界的なネルギー問題を背景にして、安全保障に関して二国間での協力を高め、取り分け深刻なエネルギー問題、ベトナムが稼働を目指している原子力発電について重要とされる戦略的課題を解決するため協定に署名するとされています。
これに代わりレ・ミン・フン政治局員が、国会で出席議員495人全員の賛成で首相に選出され、2016~2031年の任期で書記局員と中央組織委員長を兼務するとしたがこれもシナリオ通りの運びとなっている。
新首相として就任の宣誓の後に国会、全国民に向けて演説を行い、常にホー・チ・ミン主席の教えに沿い人民の利益のために尽力することがただ一つの目的とし、政府は人民のための政府であり、各省庁、地方自治体と一丸となって、この国を飛躍的に発展させ、富、繁栄、文明、そして幸福の時代へ導いて行くことを約束することを強調したと、ベトナム通信社が報じています。
またトイチェ紙は、新首相は国民の信頼こそが国会にとって最大の財産であることを常に深く認識し、誠実で規律正しく、勇気があり、責任感のある政府を築く重要性を強調。包括的な方法で制度的枠組みを構築して完成させることを最優先事項としてあげた、とありなにかしら期待が持てそうな雰囲気。
首相に拠れば先の第14回全国党大会は、新たな発展に向けヴィジョン、目標、推進力、行動計画を明確に確立し、国が発展を続けるだけでなく突破し飛躍、統合と地位を高め、成長するだけでなく持続的に国民生活を向上させる新しい歴史的機会を切り開いたと好意的な論評をしている。
実現のために祖国、国民、憲法に対する政府の絶対的な忠誠と、党中央委員会の指導の下で団結を表明し、5つの主要な方向性を示した。これら詳細は長くなるので、主要とされる部分を要約します。
政府は近代的で柔軟な経営思想に基づいて統治を行うことが大切で、法体系を整備し、行政手続きを最小限に抑えてボトルネックや障害を排除、言行一致の強力で効率的、効果的にする、国民に奉仕する近代的で建設的な構築を行う。
さらに経済を高水準かつ持続的成長へ導くため、年平均10%の成長率を達成することを公約としてあげ、そのために科学技術とイノベーションを生産性、競争力、戦略的自立性を向上が原動力だと位置付けています。
国の経済が主導的役割を果たすように促進し、民間経済を最も重要な推進力とし、全ての自治体、企業、市民が平等に貢献し恩恵を受ける機会を確保する。
次に政府は人的資本への投資が将来に向けた最適なものである事と認識。教育訓練の根本的改革に充分な資源を投入、質の高い人材育成に努める。国民全員が医療資源を利用できるように公衆衛生システムの社会の実現を目指す。
文化を築き発展させることは国の基盤であり、国民のアイデンティティを確固たるものにする。これは長い歴史を持つ我が国、発展途上国に相応しい。
国防に関しては、安全保障を強化し、一貫した独立自主的な外交政策を実施。
経済外交と技術外交を推進し国家のアイデンティティを確立するとある。
政府はまた、新体制に関して新モデルに基づいて効果的に機能し、地方分権化と権限委譲を推進、資源の合理的配分と、職員の能力向上を行い、質を上げて国民への奉仕を良くするため変革、地方政府が迅速かつ効率的に動く年にする。
新首相は誠実で規律正しく、勇気があり、責任感のある政府を築く事を強調し、発展のために政府機構は清廉潔白でなければならない。官僚に対しても誠実で、公務は規律正しくなければならない。政府は国民と国民の幸福を最優先に考え最高の決意をもって行動すると表明。また浪費と腐敗との闘いを推進し、行政規範と秩序を強化し指導者の責任感を高め、権力を厳しく統制し国民の苦難から逃れる者や無関心なものを厳しく罰するとしたのです。
・略歴と中央銀行総裁として国際業務経験と実績の豊富さ
これら上記の発言を見ていると、これまでとは結構異なった思考が伺えます。
フン新首相は北中部ハティン省出身。1970年生まれの56歳だが、この年は日本では大阪万博が開催された。56歳での首相就任はホー・チ・ミン主席の片腕で清廉潔白だったファム・バン・ドン氏(49歳)に次ぐ2番目に若い首相。因みに父親はレ・ミン・フォン元内相・公安相、言わば政界のサラブレッドであるが、この公安の関係でラム氏の心証は良いのではと考えるのです。
彼の経済センスは何処から来ているのか!これはベトナム国家銀行に勤務し、2016年に史上最年少で総裁に就任している。2020年までの任期中に、柔軟な記入政策を実施、為替レートの安定、インフレ抑制、不良債権の処理に力を入れたと評価しているのです。
さらに金利引き下げ、生産・ビジネス分野への資金流入政策をも促進して企業や経済が発展する基礎を造ったとされる。
だがすでに1993年に国家銀行では国際関係部門でのキャアリアを開始しておりIMF関連の業務も担当。市場経済と金融分析の研修も受けているから、恐らく国内一の適任者であると考えられます。さらに2011年、副総裁に任じられる前は、アジア開発銀行部門で責任者、国際協力部門でも局長を歴任し、人事、組織部門の担当も行なっているというからこの上ない人材に違いない。
こうした顕著な実績が評価され、経済発展のためには経済学、金融を熟知している打ってつけの逸材としてラム氏が登用したのではと考えています。
また日本とはゆかりがあり、埼玉大学大学院へ留学し公共政策の修士号を得ている他、フランス語も達者とあるグローバルな人材でもある。
HCM市とダナン市で開設される金融センターも、もしかすると一連の流れから考えれば彼の実績に拠るところなのかも知れません。
政治的な立場としては、政治局員を2度務めており、中央委員会書記局委員も2度、党の中央委員会主任は3回。2024年に同組織委員会委員長に就任。
政治システムの合理化、二重構造の地方行政確立への政策に取り組んだとあり、これらがラム氏を側面からサポートしていたものと思われます。
2026年3月にはハイフォン選挙区で実に99,87%の圧倒的得票率で国会議員に選出されました。
今回の新首相の選出は、かなりインパクトがあり、また期待が持てそうな人事であると考えられます。若いというだけでなく、外国の事情を充分に理解し、また国内では国家体制と現体制への忠誠、さらに合理的な思考とマクロ経済と金融、党内と行政組織にも精通していると見受けられる。
こうした事情から、多分にラム氏の意向があっての新首相への就任なのだが、個人的見解であるけれど、彼の存在があってこそラム委員長の持続的経済発展に関する思想、グリーンビジネスや脱炭素社会、DX、IT、半導体など新産業への構造的転換への考えが纏まっているのではないかと推測しています。
ラム氏は今年に70歳となる筈。もはや高齢の域に達しているも親中国路線が目立ち過ぎる。これまで全方位外交を進め経済発展のために外国企業の投資と進出を促進、また世界各国と自由貿易協定を締結して来たベトナム。貿易事情や国内外の経済動向、これから中所得国から更なる高みへステップアップするため、彼の様なバランスが取れた能力なども考慮し、後継者を考えると最適任であり、将来的には国家主席、書記長も範疇に入るのではと思える。日本との関係性でも一度も来日していないラム氏とは一線を画すと思える。
・ラム書記長 国家主席を兼任 経済成長のために何をするべきか
また同時に発表されたナンバー2の国家主席の選任についても、国会は全員の賛成でラム氏を書記長兼国家主席とした。これも兼ねてよりの話題通りになったのだが権力が彼に集中するリスクは避けられません。まして彼は公安上がり、一つ間違えるとなにが身に降りかかるのか、空恐ろしい気持ちになるのです。
ビジネスでも同じだが、トップには必ず優秀な、または陰で支えるNO2がいてこそ組織がバランスよく機能することが多いけれど、これが崩れるとなれば崩壊の危険性も増すし、年を重ねれば今の習近平の様に側近まで疑い、収拾がつかなくなる。これは流石に避けたいことで、ベトナムはまだ発展途上のため、後継ぎを養成しなければならないが、ラム氏には賢人であってもらいたい。
ラム氏は北部フンイエン省出身で、法学博士と安全保障の教授の称号を持ち、高度な政治学を収めているとされます。
30年以上公安省に所属し、公安相を務め上げ階級は最高位の大将にまで上り詰めた人物。かつて首相であったズン氏も公安の出身だが、彼は国家主席目前で失脚したが、両社とも公安出身者は此処まで来るには権力闘争の中で相手の成分を調べ上げてまで自らの立場を築いている。賄賂や腐敗撲滅には熱心だが、これもある意味では国民の不満をガス抜きとして利用しているとも伝わる。
こういう社会、体制が今回、新首相の世界を視野にしたビジネスが理解でき、発展には教育が重要と位置付けているが、さてラム氏はこの先にどのように彼を見て行くのか。彼の意志を充分に理解し、その傀儡の様に国政を進めるのを望むのか、あるいは世界のすう勢の中で彼の様な世界感覚の人材に任せようとするのかだが、始まったばかり。新首相は宣誓や党や国民へのメッセージの中では現体制と路線を忠実に継承するように述べている。先行き何が待っているのか、国が成長し国民が豊かになるため、2030年までに近代産業を持つ中上位所得国の先進国、2045年には高所得国にするため、科学技術、DX、革新、半導体などに拠る成長モデルを描いている。これは新首相も目指す所で、商工省は構造的諸問題を解決するため、量的拡大から質的に高度化する転換を進め、加工組立中心の産業構造から脱却、国内で一貫して研究、設計、生産を手掛ける体制に移行すると発表。部材の国産化を推進しサプライチェーン参入拡大を後押しするとした。このためFDIも高付加価値、基盤産業への投資を優先し、国内の能力を上がる考えを示したが、果たして筋書通りとなるか。
しかしこの件に関して何度も言ってきたこと。何も今に始まったのではなく、やらなかっただけで、その環境になく教育も遅れ、さて何十年かかるのかだが、新首相を先頭に有能な若手留学組が如何に活躍できるか。だが2千人の外国人を採用すると言っており結局は得意の空念仏に終わるのか?4月14~17日、習主席の招きで中国を訪問、鉄道やインフラ整備に関して話し合う予定である。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生