困難に直面するベトナム企業

2024年7月16日(火)

今年のベトナムのGDP予測は6%程度となっています。世界銀行は5,8%で世界各国の最も成長する国の上位20ヵ国に入っている。またアジア開発銀行は6%だし、ベトナムに支店を置く海外主要銀行も6%。これに対してベトナム政府は6,5%と若干強気。確かにこの所の経済指標を見れば、COVID19から回復傾向にあり、国内マーケットも消費が前年同期に比べて8%の上昇、起業も増加し、資本額も年々増大している。外国投資も増えておりベトナムを投資するに価値がある国とみている状況は基本的には変わっていません。
またベトナム政府も一層の経済発展を遂げるため、さらなる海外企業の投資と進出、また技術移転を希望しているがいささか行き過ぎ、甘え過ぎ感がある。これまで殆ど為されるまま世界の先進工業国入りを目指してきたが、止めれば成長は思うようにはいかない。ところが今になり中国との関係改善見直し状況、さらにロシアとは絶対的に切れない関係で、プーチン来越は招待というより、露国からの要求と噂され、どちらにもいい顔をしなければならない政府。西側諸国を含めて中立というけれど、全方位的政策の真意は測りかねるし立ち位置も良く分からず、これが将来的にどう経済に影響してゆくのか見えて来ません。
この様な情勢の中、計画投資省はベトナム企業が困難な状況に直面しており、海外からの投資やサプライチェーンに深く参入できるだけの充分な力を備えていないと大臣自らが言及。これを地元経済誌が報じているが、叱咤激励なのか、それとも地場産業の経営能力に御不満なのか、意図や想いがどこにあるのか。
なんだか水を差すような感じにも受け取れるけれど、こうした旨の発表は今に始まったものでは無く、このところ比較的紙面に出て来ている様に思われます。
これは6月に入ってから、さる討論会でズン大臣が計画投資省・統計総局に対して現在の企業の運営と閉鎖状況に関する実態調査を命じました。
この理由だが、街に出ると多くの店が閉店しており、企業がオフィスから撤退している有様を見て非常に心配している。とあるが至って正論です。
国会で無駄な論議ばかりして金と時間を浪費、大臣が自ら街中を歩くことなく、庶民の生活実態を知らないで机上の空論ばかりする茶番劇場、日本とは大きく異なり、異論ともとれる大臣発言が飛び出したのには少なからず感心している。
これまでも計画投資省の局長が語っていたのと同じ内容だが、大臣は国内企業が今困難な状況にあるのは、成長するのに十分な力がないと指摘したという。
経営する力とは、資金力、人材、工場など、いわゆる人・物・金の経営三要素はもとより、技術力、R&D、マーケティング力、企画力、販売力などに欠け、生産現場に在っては製品の完成度である品質管理力に納期などや、超精密部品とか特殊な注文品、ファインケミカルは国内で造れないので輸入に頼っている。
国内企業の経営面全般で言えるのは、事業の歴史が浅く、技術や製品を造るために職人が積み重ね、造り上げて来た伝統や技に気質も劣っているといえる。
これまでにも述べて来たけれど、経済成長の現場の真の実態とは、自助努力で成し遂げてきたものでなく、豊かさとは外資企業の参入や投資の恩恵によって作られてきたものであるという裏返しなのです。

奇しくもこうした大臣発言が出て来たのは、計画投資省が毎月データを公表している起業の数が発端であり、これまで殆ど意識することなく良いとこ取り、如何にも企業が増えてビジネスが活性化してきたという錯覚の外なりません。
極だってこの企業数が多いのは歓迎すべきことに違いはないけれど、表向きの数字だけを見ていると勘違いすることに成ります。若い人が独立をして成功を狙うとするその気心、チャレンジ精神が大切なのはいうまでもないが、期待感だけで立身出世が達成できるのであれば良いけれど、そう易々とはいかない。
起業数は毎年増えているけれど、閉鎖や休業も比例して増加している。
即ちせっかく満を持して起業したけれど、何らかの事情で閉店に追い込まれたとか、あっけなく事業継続が不可能になったりするケースは実に多いのです。
この答えの一つが充分な経験がなく、勤務する会社や店を飛び出して自分の店を作る、持ちたいという願望です。夢の実現の希求は良いのだが、一歩始めたものの資金は、従業員の採用、仕入れは、物品なら製造委託は、などなど次々に出て来る問題。事前準備や計画することなく、深く考えず、目標も設定せず勢いに任せて開業。その内に資金のやり繰りに困ってくる。金が無ければ無心するという計画性の無さ、財務諸表どころか、簿記なんて全く知らない人間が実に多く、毎日の金や商品の出入りだってまともに把握していないという状況。その日暮し的感覚が染み身に付いているのだから無理もない。
これは自分で会社や店を作り、ベトナム人を雇って任せてみれば大筋ではこうなること請け合いです。だから熱心な人は夜に会計を学ぶ学校に行って勉強し、資格を取るのだが、外資系企業はこうした会計責任者を置かなければならないため、誠実で真面目に努力した人にはより高い給料が約束されるわけです。
日本人が経営する店に居た人で地方出身者がこれで小さな家を購入したとか、夜にCaféでアルバイトをしながら一連のノウハウを修得。昼は大手企業に勤務、夜間と休日に自分でCaféやコーヒー豆を販売。さらに人生の目標である自身の農場まで保有、苦労したが着実に夢を実現するに至った人も居る。
またHCM市には若手経営者の会があって時々参加したけれど、ビジネス情報を共有しながら新しい事業を模索する人達が居るし、特に女性が多くて熱心な人もまた多いのです。こういう姿を見ているのでもっと事業機会があれば人は育つし、様々に面白いアイデアが生まれて事業家が誕生するチャンスがある。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生