ホーチミン市を去る出稼ぎ労働者たち ~始めにトランプ氏の大統領選挙勝利を見据えた進出セミナーが始動~

2024年12月17日(火)

11月20日、大阪商工会議所でVNセミナーがありました。HCM市からVCCIのTHANH会頭、ベトナムで歴史があり大手工業団地を運営するVSIPのスタッフ、日本の銀行等から講演や話を聞く機会を得ました。
参加した在阪進出企業から、今回のアメリカ大統領選の結果トランプ氏が選出されたことに関し、この先の動きをどう読めばいいかと質問がありました。それには今後のアメリカの動向を注視しているとの内容だったが、ベトナム側の回答は、これは好機と捉えているという説明がなされました。
トランプ氏が中国に対して60%以上もの関税を掛けると公言しているのは周知の事実だが、これがそのまま実施されるのか分らない。もしそうなった場合、サプライチェーンの中国からの脱出がさらに進み、ベトナムへ外資系企業が移転すると読んでおり、早くもこのセミナーが開催されたわけです。
可能性としてかなり高いと考えられるものの、現状は中国企業もベトナムへ多く進出しているし、ベトナムの工業力を支えているのが中国からの素材や部品などなどであるのも実態です。もしかすると原産地証明はこの様なものにまで及ぶことがあるのだろうかという懸念がある。
ベトナムは加工貿易で潤う国であり、アメリカは輸出最大相手国。この所の政府の動きを見ていればかなり中国寄りの考えが蔓延っているのも事実。
つまり、一方ではアメリカというより資本主義的要素が国の成長にとっては絶対的不可欠だということは、これまで経済成長の流れを見れば誰もが理解できる。しかし反面、輸入は中国が一番の相手国であり、これは様々な意味で生命線。地政学的にも長い歴史上での様々な過程から見て否定できません。ベトナムは相反する両国の間、かなり難しい立場に置かれるのが見えている。
さらにこれまでも述べてきたが、工業団地を沢山作っているが、モノを作るのに重要な電力の供給が計画停電なく需要に応じて賄えるのか、純度の高い工業用水の安定供給と排水処理も完全にクリア出来る設備があるのか。
工業団地では賃貸期間が50年となっているのだが、これも許認可が下りてから期間が開始されるのだが、今後の状況に変わりがないのか、延長は可能かなどを外資企業に対して明確にするべきことがあります。
さて今回のセミナー、即ちVSIPは当初南部で工業団地を早くから展開してきたが、此の所は中部・北部に合計14箇所もあるという。またベトナムで最も貧困とされてきたクアンチ省、ゲアン省など中部の交通だって余り良くない地域に手を広げているけれど、日本事務所の担当者もこの大統領交代を一つの大きなチャンスと見て積極的に誘致しようと考えているのです。
だが企業に人的資源(取り分け集積と高学歴で能力のある管理者人材の確保)と物流、立地や事業環境などを納得させ得るものでなければなりません。
HCM市周辺の工業団地は成功したけれど、筆者は全国63省に434箇所ある工業団地だが、こうした地域は製造することに問題ないにしても、物流については現在のところ充分に機能できると考えられないと思う。ダナン港でさえ台風シーズンは船が入らないのでハイフォンかHCM市の港、もしくは航空貨物に拠らなければ納期に間に合わないことだって事実ある訳です。
こうした中部エリアはそれ以上にインフラ整備がなされていると言えません。しかし彼らは高速道路網が整備されるので問題がないと言い切っている。

宣伝するためには優位性を強調する、これは分るけれど、今時はベトナムに関する情報は結構あるし、現地事情もある程度理解していると考えられる。
しかし地方となれば個別の詳細事情までは現地に在住するコンサルタントでさえもよく分かっているとは思えません。
さらにこれまでにもあったけれど、では派遣される従業員。彼ら全員が納得して赴任できるのかと云えば、必ずしも直ぐにOKと言えない地域であるのも正しい。この地域に精通し、コネクションのある人は在住者でもごく少数。
国際空港からは遠く何かあっても直ぐ帰国できる地域でない。物価は安いにしても今時の若い人が生活するには住環境や食べ物など、大都市からすると比較できないほど脆弱で、文化度や利便性など考えられないくらいに低い。
まして初めて家族帯同で赴任する、義務教育就学児童が居るとなれば、教育や医療などがどうしても遅れているのが気掛かりになります。余程の好き者とか腹の座った異文化に適合できる人物が社内にいるのなら良いけれど。
地域は大都市周辺よりも物価が低いし、最低賃金も低く設定されるが、いままでの低コストからみれば有利とは言えない。また管理職に成れる経験豊富な高学歴社員を採用するのは容易でなく、多くの優秀な人材は大都市に流出したままで故郷に戻る人は多くない。また原材料や資材などをこのエリアに搬入するのにもコストと時間がかかることを念頭に置かなければいけません。
筆者は確かにこれから地方の時代だと考えており、これはかなり前から述べてきました。しかし外資系企業が生産の拠点として考えるには若干の整理や事業環境の整備を要すると考えるのです。
ベトナムはこれまで若くて手先の器用な労働者に恵まれていると多くの人が持ってきたハズ。然しながら急速に人口ボーナスが失われているのが実態。
しかも此処数年の間、COVID-19以降、地方から都会に仕事を求めて出て来た人がどう変化したのか理解できているでしょうか。
そうした所に出て来たのが冒頭のタイトルにある出稼ぎ労働者の動きです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生